第4話 平和な時間
昨日は何かと濃い1日だった。
でかいにクマに襲われて、アイナに助けられて、この家に住むことになって……幽霊と会って…。
とにかく、普通では味わえない体験をした。
そんな俺は、今なにをしているかというと…。
「サッサッサッと……掃き残しがないようにしっかりと掃除しないとな…。」
箒を手に掃き掃除をしていた。
俺は掃除や洗濯等の家事を任された。
そりゃ、ただで住むなんて訳にはいかない。
雑巾がけに、窓拭きやほうきでの掃き掃除。
食器洗いから風呂掃除、洗濯まで何でもござれだ。
「真面目にやりますわね。そんな隅っこまでやらなくてもいいんですのよ。どうせ、少し経ったら埃が溜まるんですもの。」
「いや、やるからにはしっかりとやりたいんだよ。住まわせてもらえるうえに、飯まで食わせてもらったワケだからな……。」
「それもそうですわね。……見てるだけというのもアレですし、折角なので手伝いますわ。」
そう言って…サメロアも箒を手にしてサッサーとゴミを掃き始めた。
「……そういえば、お前って幽霊だよな。」
「はい。それがどうかしましたか?」
「いや、壁とかすり抜けるのに、なんで箒持ててんの?」
「ああ、それは、実体化しているからですわ。この状態の時は、物をすり抜けずに触れるんですの。」
「そんな事もできんのか。便利だな、幽霊って。」
「じゃあ、なってみますか?」
「…いや、それは遠慮しとく。」
他愛もない会話をしながらサメロアと一緒に部屋の掃除をした。
その後は立て続けに洗濯、風呂洗いまでこなした。
そして、ざっとやる事を終えた俺はソファーで寛いでいた。
するとそこへ、アイナが近付いてきた。
「お疲れ様じゃ。リラ茶でも飲むかの?」
「作ってくれるのか?なら、頼むよ。」
俺がそう言うと、アイナはささっと茶を沸かし、淹れてくれた。
昨日と変わらずいい香りだ。
「ウマイなぁ。体の疲れも癒される。」
「あー、羨ましいですわー。わたくしもそのお茶を味わいたいですの。」
「じゃあ、淹れてもらえばいいじゃないか。」
「そう言われましても、この体だと味は感じられませんの。それに、実体化して飲んだとしても、解けば体からすり抜けてしまいますし。」
「……あー…そなの…?…なんか、すまん。」
「別に気にしてないですわよ。だから、そんなにしゅんとしないで下さいまし。」
そう呟きながら俺の体をすり抜け、お腹の辺りから顔を出すサメロア。
「なんで、俺の体をすり抜けるの?……やめてもらっていいかな……気味が悪いぞ…。」
「まぁまぁ、そんな冷たい事を言わずに。これから一緒に暮らす仲じゃないですか♪こうやって一つになるのも互いの距離感を縮めるのに必要なスキンシップですのよ。」
「おい、変な言い方すんな。別に俺は、お前と一つになんかなりたくねぇ。だからさっさと腹から顔出すのやめてくれ。」
「はーい。」
そう言ってサメロアは、俺の体をとすり抜けて
いき、俺の隣に座った。
「…なぜ隣に来た?」
「ダメでしたか?」
「いや…別に良いけど。」
……自分の腹から顔を出されるよりは数倍もマシだ。
「ハハハ、何時になくはしゃいでおるの、サメロア。喋り相手が増えて嬉しいんじゃろ?」
「ええ、そうですわ。わたくしの事をちゃんと見える人なんて、今までに貴女ぐらいしかいませんでしたもの。だから、他の誰かと喋れるということが新鮮で楽しいのですわ。」
……隣で、彼女はとても嬉しそうに笑った。
「まぁ、気が向いたらで良いからの、話し相手にでもなってやってくれ。」
「ああ、分かった。」
「わーいですの♪」
____
…しばらく三人で雑談をしていると、アイナが突然こんな事を聞いてきた。
「そういえばお主……、魔法が使えんとか言っとったの。」
「ああ。どうやって使うのかさっぱり分からん。」
「マジですの?そいつはヤベーですわ。それでは、そこら辺にいる雑魚モンスターにすらやられてしまいますの。」
「う、うるせぇな…。」
「サメロアの言う通りじゃな。初級魔法くらいは、護身の為に使えるようにしといた方が良い。いつ、どこで、何が起こるか分からんからな。」
「……そうか。」
モンスターが徘徊しているっていうくらいだからな。
それぐらい使えないとこの世界じゃ、やっていけないのかもしれない。
「…そうじゃな。せっかくじゃし、我が教えてやろうぞ。」
「……いいのか?そこまでしてもらって。昨日から世話になりっぱなしだけど…。」
「いいんじゃよ、そんな事をいちいち気にするな。世の中、助け合いじゃ。」
…と言って、優しい笑みを浮かべるアイナ。
彼女からしてみれば……昨日からの一連の行動は当たり前の事なのだろう。
だが、俺からしてみれば救いそのもの。
彼女が助けてくれなかったら、俺はあのクマに殺されていた。
もし、あのまま逃げ切れていたとしても……倒れていたかもしれない。
「ありがとな、色々と。」
俺はそんな彼女の顔を見ながら…感謝の言葉を伝えた。
彼女は、その言葉を聞くとまた優しく笑いながら「どういたしましてなのじゃ。」…と言ったのだった。
_____
「さて…魔法を教える前に、まずはお主の魔力量がどのくらいかを確かめてみるかの。お主がどれ程のものを持っているか、ちょっと気になるしな。」
「…そんな事分かるのか?」
「分かるぞ。あるものを使えばの。……ちょっと待っておれ。」
アイナはソファーから降りてタンスの所まで行き……何かを探し始めた。
「え~と………これでもない……あれでもない…。」
アイナの9本ある尻尾がそれぞれ交互に揺れている。
……なんだろう、あのフワフワそうな尻尾をじっと見ていると、とてもモフりたい衝動に駆られる。
「アイナの尻尾をじーっと見つめて、どうしたんですの?」
「いや、もふもふそうでさ、触ってみたら気持ち良さそうだなー……って。」
「あの尻尾ですか?確かに、もっふもっふでとっても気持ちが良いですわよ。……ただ、触り過ぎるとアイナは嫌がりますの。」
「そうなのか……?」
「ええ。どんな風に嫌がるかと言うと…」
そう言いながら、サメロアはアイナの尻尾に近付き、9本ある尻尾の中に飛び込んでいった。
「ぬぁっ!?なんじゃいきなり!?」
「……もふもふ。」
「や、止めんか、くすぐったいじゃろう!」
「すりすり。」
「や、止めろと言っておろう!」
「スゥー…ハァー…スゥ~~~~…ハァ~~~~~~」
サメロアはアイナの尻尾の匂いを余すことなく堪能し、恍惚の表情を浮かべている。
「ええい!いい加減にせんか!!」
「ごふっ……。」
綺麗な右ストレートがサメロアの腹に直撃し、するすると倒れるように床をすり抜けていった。
……そして、数秒後にはケロッとした状態で、俺の隣に戻ってきた。
「……とまぁ、あんな感じに殴られるので、触るのはやめておいた方が身のためですのよ。」
「いや、ありゃ、お前の触り方がいけないだろ。特に最後のアレ、ただの変態じゃねーか…。」
「変態だなんて、滅相もございません。あれはわたくしの愛情表現に過ぎませんわ。……本当ならもっと…」
「おい、あれ以上何をするつもりだ。」
「それを、わたくしの口から言わせる気ですか?」
「……本当に何をするつもりだったんだよ。」
サメロアとそんな会話を交わしていたら……アイナが、「おー、あったあった。」…と、丸い何かが入った布袋を持ち出してきた。
「……何が入ってんの?」
「魔水晶玉じゃ。これに触れるとの、色が変わって己の魔力量をある程度量る事ができるのじゃ。黒ければ黒い程少なく、赤ければ赤い程に多い…という仕組みじゃな。」
アイナは、そう言って布から水晶玉を取り出した。
すると、水晶玉は真紅色に染まった……。
「と、まぁこんな風に色が変わる訳じゃ。」
「へぇ~。」
「ほれ、お主も触ってみるのじゃ。」
彼女から水晶玉を受け取った。
しばらくすると、水晶玉は段々と赤く染まっていき……アイナ程ではないにしろかなり赤くなった。
「真っ赤だな。」
「あら……これは凄い魔力をお持ちで…。」
「ほぉ……これほど赤く染まるか。」
「これって、どれぐらいの量なんだ?」
「う~ん、そうじゃのぉ……多分、普通の魔法を数百回使ったとしても魔力は尽きんぐらいの量じゃ。魔力が足りない……なんて状況にはよっぽどならんじゃろう。」
「ほへぇ…。」
「これは、鍛えれば伸び代がありそうじゃな。……初級魔法だけではもったいないの、他の魔法も教えるとしようぞ!」
「え?」
「そうと決まれば、さっそく魔法の習練に向かうとするかの。さぁ、行くぞ!!」
「え、もう行くの!?」
「いってらっしゃいましー。」
アイナに服を掴まれて家の外へと連れ出された。……習練って一体どこでやるんだ…?
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