第2話 狐さんと同居する事になったよ

「さて、着いたぞ。」


九尾の女性に引っ張られて連れて来られたのは、煙突付きの木造の一軒家。


「これ、あんたの家?」


「む?……そうじゃが、なんじゃ、その顔は?何か不満でもあるかの?」


「いや、この森モンスターが彷徨うろついてるんだろ?だったら、こんな場所に住んでると危ないんじゃねーのか?」


「ああ、その事なら心配無用じゃ。目には見えぬが、ここら一帯にモンスターが近付けぬよう、我の魔法で魔物除けの結界を張ってあるからの。そんじょそこらのモンスターでは、入ってこれぬ。」


「魔法……魔物除けの結界…。」


なんてファンタジーな響きだろう。

あると思ってたけど…やっぱあるんだ。


ということは、さっきの突風も魔法を使って起こしたのかな…?


「なんじゃ、今度は物珍しそうな顔をして。」


「いやー、すげーなぁって思って。」


「結界魔法がか?そんなに珍しいものでもないと思うがのぉ……。お主だって、魔法の一つや二つくらい使えるであろう?」


「魔法かぁ……そんなもん、俺は使えねぇな。」


「は?…冗談であろう?…初級魔法すら使えんのか、お主?」


「お?魔法に初級とかいう括りなんてあるのか。」


「お主、今までどうやって育ってきたんじゃ?」


「どうやって育ってきたかって?多分、普通に育てられてきた……と思うけど。」


「嘘つけ!!普通に育てられた者が、何故魔法に位があることを知らぬのじゃ!」


「あー……うん。」


そりゃ知らなくて当然。

だって俺、この世界に来たばっかだから。


なので、異世界の基本的な知識を求められても困る。


「うん……ではないぞ。お主、今までどうやって生きてきたのじゃ……?」


「アハハハ……。」


「まぁ、よい。深くは聞かん。」


「そうしてくれると助かるよ。」


何処でどんな風に育ったか?…なんて、聞かれても困るし…。


別の世界で育ちました!!

なんて急に言っても「何言ってんだコイツ?」と思われて終わりだろう。


「とりあえず中に入ろうぞ。こんな所で立ち話もなんじゃしな。」


「ああ。」


木造の家の中に入った。


中は別に広くも狭くもなく、ソファーやらベッドやらの生活用品が置いてある一般的な部屋。

台所のスペース等もあり、普通に生活する上で困らない程度の機能は備わっている。


「ソファーにでも座っておれ。茶でも淹れるからの。」


「分かった。」


言われた通りに、ソファーに座る。

九尾の女性は台所に行った。


しばらく寛いでいると、良い香りが漂い始めてきた。なんだか、気分が落ち着く……。


「ほい、待たせたのー。」


「ありがとう。」


「ふーふーして少し冷ましたが、まだちょっと熱いからの。舌をやけどしないように気をつけるのじゃ。」


(……ふーふーして冷ました…?)


そう言うと、彼女は目の前のテーブルにティーカップを二つ並べ、ソファーに腰掛けた。

そして、こちらの事をジーッと見つめている。


「あ……えと…いただきます。」


少し困惑しながらも出されたお茶をゆっくり飲んだ。


普通に美味しい。

それに、身体が癒される気がする。


「どうじゃ?身体の疲れがスーッと抜けていく感じがするじゃろ?」


「ああ、うん。」


「それはの、わざわざ街に出向いて買ってきた『リラ草』の茶葉で作った茶じゃ。」


「リラ草?何それ?」


「知らんか?リラ草は、身体の疲れを癒してくれる成分を持ってての。それに香りも良くてのぉ~、茶好きの間では親しまれておるのじゃ。通称はリラ茶じゃ。」


「ふーん、そうなんだ……。」


「我もこの茶が好きでの~。よく飲むのじゃ~。」


そう言って、茶を啜る九尾の女性。

「ふぅ…」と一息つき、ティーカップを元の位置に戻した。


「…で、お主。改めて聞くが、何故こんな人気のない森でうろちょろしとったんじゃ?」


「そりゃ、行く宛がないからな。行き当たりばったりでさ迷ってた。」


「そち、行く宛がないのか?」


「ああ、更に無一文だ。」


「本当に行き当たりばったりじゃの。」


……少々呆れた顔をする彼女。


しょうがないじゃないか。

俺だって好きでそうしてる訳じゃない。


どうにか出来るのなら、とっくに何か行動をしている。



……ったく、こんな状態でどうやって生きていけっていうんだか。


転生させる場所にしてもそうだ。

人がいるような場所ならまだいいとして、森の中ってなんだよ。

しかもでかいクマに襲われて殺されそうになるし。


「……どういう理由でそんな境遇になってるかは知らなんだが、とりあえず行く宛もなく、一文無しと。」


「……そうだな。正直、どうやって生きていけば良いのか検討もつかん。」


「ほーん……ならばお主、ここに住むかの?」


「……はい?今、なんて?」


「じゃから、ここに住むかって聞いておるのじゃ。飯なら出すし、寝る場所も用意出来るぞ。……しばらく使ってない地下室じゃが。」


「えーと、ありがたいけど……そんな事してあんたにメリットってあるか?俺達、ついさっき初めて顔を合わせたばっかだし…赤の他人だし…」


「そうじゃがお主、路頭に迷っておるんじゃろ?」


「そうだけど。」


「ならば、それだけで理由は充分じゃ。困っておる者を放ってはおけぬからの。」


「…。」


「どうする?」


確かに、ありがたい申し出だ。

何処に行けばも良いかすらも分からない俺からしたら、わざわざ断る理由が見つからない。


「…ホントに頼んでいいのか?」


「もちろんじゃ。」


そう言って……彼女は俺に向かって優しく微笑んだ。


見ず知らずの他人に部屋を提供するってどんだけお人好しなんだか…。

だが、今はそんな彼女に感謝をしよう。



「……ええと、そういえば、まだ互いに名前を聞いとらんかったの。お主、なんと言うんじゃ?」


「俺は、清人だ。」


「キヨト…じゃな。よし、覚えたぞ。」


「あんたは?なんて言う名前なんだ?」


「アイナじゃ。フルネームは、アイナ・リヴァリスココンという。呼び方はアイナでいいぞ。」


「そうか…。じゃあアイナ、これからお世話になるけど……よろしくどうぞ。」


「ああ、よろしく。」


アイナの家で暮らす事になった…。

はてさて、これから一体俺はどうなっていくんだろうか。


……まぁ、生きていけりゃあ、それでいっかな。


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