異世界転生したら、九尾に拾われた。
ヨマレ
第1話 異世界転生ってこんな風……だっけ?
人の命は有限だ。
いつか死ぬ。
それがいつ訪れるかなんて誰にも分からない。
老衰して死ぬのか、事故で死ぬのか…。
遅かれ早かれ、死んだらその事実は変えられない。
……だが、死んだ後はどうなるのだろうか?
天国に行く?
それとも地獄か?
はたまたそんなものはなくて、死んだら文字通り“終わり”なのかな?
…いや、違う。
死んだ者は”転生”をする。
死者の魂は新しい命へと生まれ変わる為に、転生の間という場所に辿り着く。
そして、転生の間の管理人……いわゆる神様、女神様に転生をさせてもらうのだ。
どこかの世界に新しい命として生まれる。
もちろん前世の記憶なんてあるわけもなく……完全にゼロの状態で。
……そういう説明を受けて俺は転生をした。
なのにどういう事だろうか。
前世の記憶はそのままに、なんなら姿形……死んだ時の服装と同じ状態で俺は森の中に立っていた。
「どこだ……ここは?」
俺こと、瀬良 清人 17歳 高校二年生(故)は聞いていた話とあまりにも
「俺は、転生したんじゃないのか?転生したなら赤ん坊とかになっているハズじゃ?なのに、なんで制服のままこんな森の中に?」
『聞こえますかー?』
「ん?この声は……女神様。」
『あ、良かった~。聞こえてるみたいですね。』
「ええ、聞こえてますけども、この状況は一体……?」
『あーと、実は転生させる時に事故が生じてしまい、前世の姿に記憶を持ち合わせたままの状態になってしまったんです。しかも、本来の産み落とされる場所とは大分ずれた場所に転生させてしまったみたいで。』
「そ、そうですか。ま、まぁ大丈夫ですよ。次はちゃんとやってくれれば……」
『あ、あの、実はそれは……出来ないんです。』
「はい?」
『規定によって転生出来るのは、あくまでも死んだ時だけなんですよ。だから……もう一度転生するには死ぬしか方法がないんです。』
「え」
『えーと、とりあえずこの世界の言語の理解は出来る様にしておいたので、頑張って生きて下さい……。モンスターとかがウヨウヨいるような世界ですが……健闘を祈ります。』
「えっ、ちょっと……?」
それ以降、俺を転生させた女神様の声が聞こえる事は一切無かった。
_____
「どうしろって言うんだ。この世界の事なんて全く分からないっていうのに……」
悪態を付きながら、落ちている石ころを蹴る。
「大体、施しがこの世界の言語が分かる様になるだけってどういうことだよ。」
確かに、人と会った時とかコミュニケーションを取れなきゃ困る。けど、この世界にゃモンスターがウヨウヨしてるとか言ってたじゃないか……。
どんなに危険な奴らかは知らないけど、せめてそういうのに出会った時の対処法ぐらいは与えて欲しかった。
モンスターに出会ったら俺、すぐに死ぬ自信がある。
「自分が気付いてないだけで、何か凄い能力とかでも持ってないかな……。」
異世界に転生したら、お決まりのチート能力。
無限の魔力だとか、なんでも作り出せるだとか。
そういうのは、俺にはないのかな。
「……。」
火とか出たりしないかな~……なんて思いながら、その場で立ち止まって右手を突き出して踏ん張ってみる。……が、何も起きない。
「まぁ、そんなに上手くいくワケないよな……。マンガやアニメじゃあるまいし……。」
ハァーと大きなため息をつく。
こんな状態で、どう上手くやれっていうんだよ。
これから先の事を考えると、胃が痛くなってくる。
……ガザガサ
「…な、なんだ?」
突然、背後の茂みから物音が立った。
振り返ってみると、角が生えたウサギが茂みの中からから飛び出してきて、俺の前を焦った様に通りすぎていく。
「ど、どうしたってんだ…?」
数秒、その様子を眺めていると、また後ろから音が聞こえてきた。
今度はとても重量感のある、ドス ドスという嫌な音。
「何か来る…!!」
足音がどんどん近付いてきて現れたのが……
「グォォォォ!!!」
「く、クマァ!?」
とんでもないビックサイズのクマ。
それが、木を薙ぎ倒しそうな勢いでこちらに迫ってくる!!
「グオォォォォォォーー!!」
「ひ、ヒィィぃ!!」
悲鳴をあげながら、全速力で前方へと走り出した。
_____
巨大なクマから逃げ続け、だいたい30分くらい経った。
いつの間にか、標的がウサギから俺に変わっていた様で、未だに追いかけられている。
ずっと走り続けていて、流石に体力の限界が近付いてきていた。
既に足が棒になりつつある。
そして、そんな状況が長く続くわけもなく…
「あっ…」
情けない声を出しながら、足がもつれて派手にスッ転んだ。
なんとか立て直し、後ろをみてみると…
クマがもう既に目の前にいて……俺に目掛けてその剛腕を振り下ろそうとしていた。
「…。」
俺、また死ぬのか?
転生したばっかだっていうのに……。
半ば、諦めていた、刹那。
クマを中心に突風が巻き起こり、クマは綺麗に切り刻まれ、細かい肉片になった。
「……は?」
「おお、良かった。間に合ったようじゃの。」
声が聞こえた方を向いてみる。
先ず目に入ったのは、頭から生えている狐の耳と、腰の付け根辺りから生えているもふもふの9本の狐の尻尾。
光沢があり、サラサラで艶やかな茶髪のロングストレート。
黄金色の宝石みたいに輝く、綺麗な瞳……。
そして、出ている所はボンっと出ていて、引き締まっている所はキュッとしている、抜群のスタイル。
そんな、男なら誰でも魅入ってしまいそうなプロポーションをしている和服っぽい服装に身を包んだ謎の九尾の美女は、こちらに歩み寄ってきた。
「我がたまたま近くにいて良かったの、お主。あのままじゃ確実に死んでおった。」
「……えと、あんたが今、助けてくれたの…か?」
「うむ、そうじゃ。」
「そ、そうか……ありがとう。」
今起きた一連の出来事に突っ込みたいが……まぁ、命が助かっただけ良しとしよう。
「どういたしましてじゃ。立てるかの?」
九尾の女性は俺に手を差し伸べてきた。
「あ、ああ。」
その手を掴んで、ゆっくりと起き上がる。
「それにしても、こんなところでお主は何しとるんじゃ?ただでさえ、モンスターが彷徨い歩いて危ないというに。」
「あー……そなの?」
「そなのって……。そんな調子で、ようこんな危険な場所に来たもんじゃな。見たところ、何か道具を持っている訳でもなさそうじゃし、よく死なんかったな。」
「運がいいんだろうさ。」
それを聞くと九尾の女性は呆れた顔をしながら、こう続けた。
「危なっかしい奴じゃ、見てられんの。……そうじゃな、とりあえず我に付いて来ると良いぞ。」
「ふぇ?」
「『ふぇ?』じゃないのじゃ。こんな所でうろちょろしとると、またさっきみたいなのに襲われるぞ。」
「それは絶対に嫌だな……。もう危ない目には遭いたくねぇ。」
「じゃろ?そうなりたくなければ、我に付いてこい。」
「……分かった。」
俺がそう言うと…九尾の女性は「よし、早速行くぞ。」と言い、俺の腕を掴んだ。
そして、意外と引っ張る力が強く…されるがままに何処かへと連れていかれた。
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