第35話

__ 次の日。

俺達は、昨日の約束通り、警備署へとやってきた。

例の三人組の男達に会ったら、居場所を聞く為だ。


受付で色々と手続きを済ませて、奥の部屋へと向かう。

そして、中に入ると……そこには、あの時の男達が、一面に張り巡らされた、ガラスの向こう側にいる。

外には、警備員の人達がいる…。


俺達が入ってきた事に気が付いたのか、グエルという名を口にしたあの怒りっぽそうな男がこちらを見て睨み付けてくる。

俺は、その視線を無視して、早速話しかけることにした。


「よぉ、また会ったな。」


「けっ……何の用だよ……?ぞろぞろと知らない面子まで集めてよぉ。」


「ちょっとあんたらに聞きたいことがあるんだよ。」


「……なんだよ?」


「単刀直入に聞く。……お前らに命令したっていうグエルとかいう奴はどこに居るんだよ?」


「はぁ!?……なんでテメーらに教えなきゃならねーんだよ!?そんなんで、俺達に何のメリットがあるっていうんだ、あぁ!?」


「……おい、落ち着け。」


男の内の一人が、怒りっぽそうな奴の事を宥めている。


「チッ……」


舌打ちをして、そいつは黙り込んだ。

変わりに、宥めた男が喋り始めた。


「……それで?そんな事を聞いてどうする気だ、お前らは?」


「……そいつの事、ぶっ潰しに行く。」


「ハハハ、なんだと?本気で言ってんのか?……ハッ!笑わせんじゃねぇよ!!」


男は俺の言葉を聞いた途端、馬鹿にしたような笑い声をあげながらそう言ってきた。

すると、その言葉に反応して……メルマが口を開いた。


「……あんまり調子乗ってると……痛い目みるのは、あなた達だからね?」


そう言い放つと、メルマは殺気を放ち始める。

それを見た男達の内の二人は、少しビクついた様子を見せている。……だが、もう一人は全く動じていない様子だった。


「おいおい、ここは警備署だぜ?暴れたりして良いのかよ?」


「………。」


そう言われると、メルマは手を前に出して、魔力を溜め始めた。


「ちょっ、待て、本気かよ!?こんなところで魔法使う気か!」


……男は、焦り出した。


「私は、いつでもぶっぱなせるよ。あなた達を簡単に、消し飛ばせるからね。」


「……。」


メルマがそう言うと、男達は黙ってしまった。


「おい、やめてくれよ……流石に……冗談だろ?」


…メルマは答えずに、更に力を込める。


「や、やめてくれって!!話す、話すからよ!!頼むからやめてくれ……」


「……。」


メルマは、魔力を溜めるのをやめた……。


「降参だ……降参……。このままじゃ、いくら命があっても足りやしねぇ。」


両手を上げてそう言った。


「……分かればいい。」


その後、男達は、グエルという奴が今どこにいるかを話してくれた。


情報によると……グエルという男は、この町の東地区の裏路地にある建物にいるらしい。


そこは、その幹部の拠点になっているとのこと。

俺は、それをメモに取って、警備署を出た。

______


「……さて。とりあえず場所も分かったことだし……その幹部がいる所に向かうとするかな。」


「うん。」


「行こう!」


「おー。」


……メルマ達は乗り気だが、ジラウスは、 あまり行きたくなさそうだ。


「……お前ら、本当に行く気か?」


「ああ。」


「もちろん。」


「当然だよ。」


「行かないの?」


「……いや…まぁ、お前達が行くなら付いてくよ。……でも俺、お前達みたいに、Sランクのモンスターをホイホイ倒せる様な力はないんだよ……。頑張って、Aランクのモンスターを倒せるかな~……ってぐらいだからよ。……この前、言ったと思うけど……幹部の奴ってSランクのモンスターを倒せるくらい強いらしいじゃん?もしかしたら、幹部以外にもそれぐらいの奴がいるかもしんないし……俺、いるのかな~って。」


「じゃあ、俺達が戦っている間、ジラウスには、そこら辺にいる雑魚を倒して貰う感じで……。」


「えぇ……まぁ、分かったよ。」


「おし、じゃあ……早速出発しようか。」


______


男達が言っていた場所に辿り着いた。


その建物は、ボロくて見た目は良くないが……それなりに大きい六階建てで、入口に見張りがいる。


俺達は、その建物に近付いていく。すると、こちらに気が付いたのか、一人の男がこちらに向かってきた。


「……何だ、お前らは?」


「ここに、グエルとかいう奴が居るんだろ?」


「……何故それを知っている?」


「ふーん……そういう反応するって事は……ここで間違いなさそうだな。」


「おい、質問してるのはこっちだ……」


「えいっ。」


メルマは、話を遮るように、男に向けて魔法を放った。


メルマの手から放たれたのは水魔法で、勢いよく放たれ、男に直撃して吹っ飛び、壁にドンという音をたてながらぶつかった。


男は気絶しているようだった。


「お、おい……容赦無さすぎじゃないか?」


「そうでもないでしょ。だって、ここにいる連中、全員似た様な目にあってもらうんだから。ね、ジラウス。」


「なんで俺にふってくるんだ……」


「……なんとなく。」


「ああ、そう……。」


「とりあえず、中に入ろうよ。」


「……まぁ、そうだな。」


そして、俺達は建物の中へと入っていった。


建物に入ると……中は大量のチンピラで溢れていた。


どうやら、メルマが派手にやったおかげで気付かれてしまったようだ。


「テメーらの仕業か、さっきの大きな音は!?」


「ここが何処だか分かってんのか!?」


「ぶっ殺されてーのか、あぁ!?」


などと、口々に叫び始める。


「おーおー、相手になるぞー!!」


そう言って、クライエットは楽しそうに、真っ先にそのチンピラの群れに突っ込んでいった。


「あ、一人じゃ危ないよ。」


そう言って、エルラも突っ込んでいく。


「待って、私もやるから。」


メルマも続いて、二人を追いかけていった。


「おい、お前ら待てって!!」


……俺も、その中に突っ込んでいく。


「……これ、本当に俺、いるのかなぁ……。っていうか、これじゃあどっちがチンピラか分かったもんじゃねー。」


ジラウスは、俺達の後を……そそくさと付いてくるのだった。


「そりゃあッ!!!」


クライエットは、アイテムボックスから、いつもクエスト中に背負ってる大剣を取り出した。

それを振り回しながら、相手側から勢いよく放たれた中級の氷魔法を粉々に粉砕していきながら、チンピラどもをなぎ払っていく。


「そいやっ」


エルラは、チンピラ達を物凄い速度で、殴る蹴るを繰り返している。


「それっ!」


メルマは、初級風魔法を魔操術で威力を何十倍にもした暴風を使って、周りにいた敵を一気に吹き飛ばしていく。


「オラァ!」


俺は、手加減をしながら、拳圧だけで敵を吹き飛ばす。


それを見て、何人かの巨漢のチンピラ達は怯えて逃げようと走り出した。


だが、それを逃がすわけもなく、ジラウスは、「逃がさねーよ!」と言いながら、自分より大きい男を素手で殴り倒していっている。


「お前、意外と力あるじゃねーか!!戦ってるとこ見たことねーから、ちょっとびっくりしちまったぞ!?」


「こんなのいつも相手してるモンスターに比べたら赤子同然だ!!」


……と、少しテンション高めに言ってくる。

さっきの行きたくないと言っていた様子は何処へやら。


それから数分経つ頃には、辺り一面に、気絶している奴だらけになっていた。


「これで最後っと……はぁ……やっと終わった……。」


ジラウスがため息をつく。


「いや、まだだよ。上の階が、騒がしいし……まだまだいるみたいだね。」


「え~……」


「じゃあ、蹴散らすだけ。」



メルマは、そう言うと足早に階段を駆け上がって行った。


「あ、ちょっと待ってよ!!あたしの分取らないでよー!?」


クライエットもその後に続いて行く。

それを見たエルラは、少し楽しそうに笑いながら付いて行く。


「なんで楽しそうなの……?」


「大量の敵を吹き飛ばしてくのが気持ちいいんじゃないか?」


「……ああ……。」


ジラウスと会話を交わしながら、俺達は、三人の後を追って、上へと登って行った。


そして、4階ぐらいまで登ると、今までの奴より強めの攻撃や魔法を仕掛けてくる奴がチラホラ出てき始めた。


「おいおいおいおい!お前ら、調子に乗ってんじゃねーぞ?グエル様に楯突こうってんなら、この俺、グラディエーが相手になってやるぜ……」

「うるさい。」


メルマは、そう言いながら、その男の顔に向かって思いっきり蹴りを入れた。

男は、勢いよく壁にぶつかり、そのまま気絶してしまった。


「なっ……」


その光景を見て、周りの連中は唖然としている。


「よそ見してると危ないよっ!」


「え~い」


「おわぁ!???」


そいつらをクライエットとエルラが蹂躙していく。


強さが上がっても、苦戦する相手は居なかった。



「これ、本当にグエルとかいう幹部強いのかなぁ……。」


「分からんが、油断はすんなよ。」


敵を蹂躙していきながら、俺達は更に先へと進んでいき、最上階の6階に辿り着いた。



6階はフロアになっていて、そこには大勢のチンピラ達が待ち構えていた。

そして、その中には一際目立つ奴がいた。


身長は170cmくらいのスキンヘッドの男だ。

無愛想な顔付きで、服は黒いコートを着ている。

見た目は結構細身だ。

そして、そいつは一歩前に出てきて口を開いた。


「よくここまで来れたな。アレだけ大量の数を相手して、息一つ上げていない様を見るに…相当腕が立つのだろう。」


そう言って、こちらを見据えてきた。


「まぁ、ここにお前らの様な者達が来た時点で分かっていた事だが……あの三人……ここの情報を漏らしたようだ。」


「……お前は誰だ?」


「俺の名は、グエル。ここの管理を任されてる、ただのボロギド組の一員さ。」


「お前がグエルか。……なんで、ミーニャの事を拐うよう、あの三人組に指示を出したんだ?」


「……言うわけがないだろう?」


すると、そいつはいきなり風属性のの魔法を使ってきた。……その速度は凄まじく、油断していた俺は咄嵯にガードしたが、威力が強くて、数メートル後ろに吹っ飛ばされた。


「ったいなぁ……。」


「な、何だよ今の!?目で追えなかったぞ!??」


ジラウスが、驚きの声を上げている。


「ここを任せられてるもんでね。これぐらいは出来なきゃ話にならんさ。……さぁ、お前ら、かかれ!!」


「おぉぉーー!!!!」


すると、チンピラ達は一斉に襲い掛かってきた。


「おいおい!!ちょっ、ちょっとやべーんじゃねーのかよ!?アイツ、キヨトの事……吹っ飛ばしたぞ!?」


「大丈夫だよ、キヨトならこれぐらい!!」


「ジラウスは、ちょっと退いてて。」


「え!?ちょっと!?」


クライエットとメルマの二人は、ジラウスがそう言ったにも関わらず、向かってくる敵の方に突っ走って行った。

その様子を見て、ジラウスは焦っている……。


「……そんな焦らなくても大丈夫だって。俺、別になんともないから。」


「えっ!?お前、あれ食らってなんともねーのかよ!!?」


「ああ……うん。ちょっと今までの敵が弱くて油断してただけだから。魔操術で身体を強化してりゃ…別にどうってことないぞ。」


「マジかよ!??」


……ジラウスは、驚いていた。


そんなジラウスを余所にエルラが、近付いてきた。


「大丈夫?痛くない??」


「全然平気だ。心配してくれてありがとな。」


「そう。なら、良かったよ。……じゃあ、僕も……やってくるね。」


そう言いながら、エルラはクライエット達同様に敵に向かって突っ込んでいった。


そして数分後……


「いや~、思ったより楽勝だったね。」


「そうだね。もっと強い敵がいると思ってたけど……。拍子抜けだった。ジラウスの言ってた事とは、大分かけ離れた強さだったよ。」


辺りには、大量のチンピラが倒れている。

そして……グエルは両手を挙げて降参の意を示していた。


「ここまでとは、思っていなかった……。まさか、こちらの攻撃が、ほぼ効かないとはな。これ以上続けても、無駄だという事は分かった。素直に降参しよう。」


「ほ~ん……そうか。」


「じゃあ、縛っても良いって事だよね。」


メルマは、そう言いながらグエルに近づいて行く。


「……好きにするといい。抵抗したところで、叩き伏せられるのだろう?」


「そうだね。……好きにしていいって言ったから、遠慮なく。」


グエルは、抵抗する様子もなくメルマが作った、魔力の縄でぐるぐる巻きにされ、大人しく捕まった。


「……とりあえず、質問に答えろ。いいな?」


「分かった。」


グエルは、あっさりと俺の言葉を受け入れた。


「簡単に、返事するんだな…。」


「当たり前だ。今の俺の立場からすれば、お前達が何をしてくるか分からん。逆らえば、殴られるかもしれんし、もしかしたら、殺されるかもしれん。穏便に済ませられるなら、それに越したことはない。……ここの組織には、行き場のない時に、拾ってもらった恩はあるが……自分の命を捨ててまでその恩を返そうとは思ってない。」


「そうか……。」


「……どうせ、お前達が聞きたい事は、あの猫型獣人のガキの事だろ?……捕まってしまったんだ。大人しく話してやるさ。」


そう言って、グエルは語り始めた。


「まず、何故あのガキを捕まえようとしたかという事だが……組織にとっての上客から、直接依頼が来てな。内容は、あのガキを連れてこいという事だ。……それで、その依頼を受けて、あのガキを拐って来いと……あの三人に命令したんだ。……ここにいる奴の中じゃ、比較的強くて、まだ頭の回る奴らに任せたんだが、その結果がこれか。」


「成程……あの三人がミーニャを狙ってたのはそういう訳か……。」


「ああ、そうだ。」


「……ちなみに、その上客の名前は?」


「……言ってもいいが……嘘だと決め付けて、いきなり殴る蹴るのはなしだからな。」


「そんなことしない。」


「……それなら良い。……依頼主の名は……ガイゼス・マージンだ。」


その名前を聞いた瞬間、俺は驚愕してしまった。


「「「「ガイゼス!???」」」」


そして……ほぼ同時のタイミングでエルラ意外の全員が叫んだ。



「それって、確か前にアイナの事を見てた、ここら辺の地域を治めてる……領主様の名前だったよね?」


……首を傾げながら、エルラが俺に聞いてきた。


「そうだけども……な、なんでそいつの名前が出てくるんだよ!?」


「依頼主だからに決まっているだろう。」


「そりゃ、そうだけどもよ……なんでその領主様が、あんな小さな子をわざわざ拐わせようと……依頼してくんだよ……。」


「……それは……アイツの趣味だろうな。」


「趣味?」


「……奴は、自分の気に入った女性を徹底的に“汚す”事が趣味らしいからな。対象は子供から……大人まで。たまに街を自分で歩き……獲物を探す。そうして、見付けたお気に入りを俺達、裏の人間に拐ってこさせる。自分がどうやっても手を出せない女性に対しては、嫌がらせをし、追い詰めて行くのが愉悦…なんだとかな。毎回、秘密裏に会う時に意気揚々と喋っていた。……裏組織の幹部をやってる俺が言うのもなんだが……正直、吐き気がする。あまりにも性根が腐ってる野郎だ。」


そう言って、グエルは嘲笑うかの様に、鼻で笑った。


「何人、アイツに弄ばれたか知らんが……少なくとも、俺の所だけで、既に30件近くは請け負ってる。被害人数は相当なものなんじゃないか?」


「……そうか…。」


「……まぁ、全部俺が言っているだけで、取引した証拠等の物品は何もないのだがな。」


「……」


「信じる信じないは、勝手だが……もし、俺の話を信用して捕まえようとしても、無駄だと思うぞ。」


「……そうか。」


とりあえず、聞きたい事は聞けたので、ここにいる全員を捕縛して……警備署に連れて行くのだった……。


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