第36話 どうしましょう
「警備署の人達、驚いてたね。」
「あー……まあ、あんな人数を引き連れて来るとは思ってなかったんだろうな。更に、ボロギド組の幹部もいたんだ。そりゃ、驚くだろうよ。」
結局、あの後俺達は、無事(?)にチンピラ達とグエルを警備署に送り届けていた。
メルマの作った縄で大人数をぎゅうぎゅうに縛って歩いていた為、かなり目立っていた。
……というか、何だアイツら……という目で見られていた。
その後は、皆で一回ミーニャの様子を見てきた。
特に変わりもないようで、元気そうだった……。
今は、皆で寮に戻って来たところ。
もう、夕方になってしまっている。
「それにしても、本当にその領主様が……命令したのか?」
「分からんよ、んな事。……でも、アイツが嘘を言っている様には、見えなかったけど……。」
ジラウスとの問答をしてると、扉の方からノック音がした。
誰かと思って、扉の前に行き開けると、そこにはアイナが立っていた。
「エルラの様子を見に来たんじゃが……なんじゃ、やけに重苦しい空気じゃの。何かあったのか?」
「ああ、うん。ちょっと色々あってな……。」
「そうなのかの?」
「……まぁ、ソファーにでも……って、空きがねーな。ベッドにでもかけてくれ。説明するから。」
「分かった。」
部屋に入ってもらい、ベッドに座ってもらった。
俺もその隣に座る。
「……あれ?そーいえばサメロアは?一緒じゃないのか?」
「おるではないか。お主の真後ろに。」
「え?」
振り返ってみるも……誰もいない。
「いや……誰もいない……」「ばあっ!!」
「うおわっ!?」
前を向いたら、いきなりサメロアが大きな声を出して、驚かしてきた。
「び、びっくりするじゃないか!!」
「大成功ですわ~!」
「大成功じゃねぇ!これで何回目だよテメー!!てか、何で驚かそうとしてくんの!??」
「それは……幽霊の性ですかね?驚かすのが、ちょっと楽しいんですの。特にキヨトは反応が良いから、余計狙っちゃうんですのね。クライエットさんも、反応はいいですけど、怖がって気絶してしまいますから。やっぱりキヨトが一番なんですの。」
……と、楽しそうに笑いながら答えてくるサメロア。
「ふざけんなよぉ…」
「まあまあ、良いではないか。」
「良くはないんだけども……。まぁ、いいや。……とりあえず説明すっか。」
俺はアイナに、これまでの事を簡単に話した。
「……ガイゼスが関わってるじゃと??」
「幹部の話を聞く限り、そうなんだよな。」
「そんな……のぉ。いち、領主がそんな犯罪の主犯だとは思いたくはないが……奴じゃからなぁ……。やってそうなのが、怖いのぉ。」
「……だろ?現在進行形で、何処かの誰かが被害にあってるかもしれねーって考えたら……ゾッとするよな。……でも、確認しようにも証拠も何もないし……そもそも、領主の住んでる場所なんてどうやって調べりゃ良いんだ?……やってるって完全に決まってる訳でもないし、正面から突っ込む訳にもいかねーしさ。」
「確かにそうじゃの。……何か方法があれば良いのじゃが……そうじゃの、サメロアにでも行かせるか?お主なら、見える者以外には見つからずに、潜入できるじゃろ?」
「……それはそうですけど……物的証拠はどうしますの?わたくしが見てきたものを伝えただけでは、証拠になり得ないと思うのですが。」
「じゃったら、これに奴の行動を映せばよい。」
そう言って、アイナは袖からアイテムボックスを取り出し、……そこから両手に収まりきるぐらいの結晶体を出した。
「なんだそれ?」
「これは、映結晶と言ってな、これに少し魔力流しこんで衝撃を与えるとの……目の前で起こっている数分の事象を映像として保存しておくことが出来る代物での。」
そう言うとアイナは、手に魔力を込めて……それに魔力を流し込んだ。そして、軽めにその結晶体を叩く。すると……淡く光った。
そして、俺の方に結晶体を向けてきた。
「……こうする事で、今、お主の事を、撮っているという事になるのじゃな。」
「へぇー……便利だなぁ……。」
「途中で止めたい場合は、また軽く衝撃を与えればよい。」
コンコンと、アイナが結晶体を叩くと、結晶体は光を失い、元の透明に戻った。
「で、もう一度……これに衝撃を与えると……」
アイナが、再度その結晶体を軽く叩くと、ベッドに座っている俺が壁に向かって映し出された。
「こんな感じで、記録してある映像を再生出来るのじゃ。因みに、映像を取り直したい場合は、もう一度魔力を流し込めばよい。そうすれば、新しく映像を撮れるからの。……これなら、あやつが何かをしていたら、それを映して証拠としても使えるじゃろうて。」
「なるほどな。……これなら、いけるんじゃないか?」
「そうですわね。……確かにこれならば行けるかも知れませんわね。幽霊ですけど、魔力なら多少ですけどわたくしにもありますし。……だけど、一つ問題がありますわ。」
「え?なんだよ、それ?」
「わたくし、実体化すると物を持てますが、壁をすり抜けられなくなります。つまり、壁に阻まれると、そこで終わりなんですわね。この両手で収まる大きさの結晶を持ち歩いてウロウロするのは、流石に無理があるかと……。」
「ああっと……そうかぁ……。」
確かに、そんなサイズの物を常に持って歩くのは難しいかもしれない……。
どうしたものかと考えていると、エルラが声をあげた。
「だったら、僕が行くよ。」
「「「「「「え?」」」」」」
エルラが名乗り出てくれたが、同時にここにいた全員が困惑の声をあげた。
「いや、お前……見付からずになんかいけるのかよ?」
「うん……だって僕……透明になれるから。」
「は?え?どゆこと?」
「……そんなに驚く事かな?……僕、人間じゃないからね。」
そう言いながら、エルラは着ている服以外が、全て見えなくなった。
「なっ!?」
「まぁ、どういう原理ですの!?」
「詳しい原理は僕も知らないけど、僕の身体には、他の生物の遺伝子が大量に入ってるみたいだからね。多分、その内のどれかの能力か何かなんじゃない?」
「なんだよ、そのざっくりとした説明……。てか、自分の身体の事なのに、細かい事は分からんのか……。」
「……それは、しょうがないよ。だって、望んで手に入れた力じゃないから。」
「……ああ、ワリィ……。配慮が足らんかった。」
……俺達人間に対して、フレンドリーすぎるから忘れそうになるけど、コイツ、古代の人間に身体を弄くられまくってた奴なんだもんな。そりゃ、複雑な気分にもなるだろう。
「別に気にしてないよ。だから、そんな申し訳なさそうな顔しないで。」
「……あー……うん。分かった。」
エルラは、透明化を解いて笑顔でそう答えてきた。
とりあえず、いつもの感じでいこう。
「……とりあえず、エルラが潜入する……という事で良いのかの?」
「あ、わたくしも行きますわよ!!二人で行動した方が、色々と小回りが効くでしょうし!」
「そうか。……なら、お主らが行く……という事で良いな。」
「うん。」
「任せて下さいまし!!」
「とりあえず、エルラに映結晶を渡しておくかの。……念の為に、アイテムボックスも渡しておくか。中には、何かあった時の為の傷薬等が入ってるからの。」
そう言って、アイナはエルラに映晶体とアイテムボックスを手渡した。
「ありがとう。」
「……大丈夫だとは思うが、気を付けるんじゃぞ。」
「うん。」
「……ところでよ、いつ行くんだ?」
「そんなもの、即決行、早ければ早いほど、良いに決まってますので、今からですわ!!」
「えぇ……?もう少し色々と……考えてからの方が…」
「ほら、行きますわよ、エルラ!!領主の住んでる屋敷はわたくしが知ってますから、付いて来て下さいまし!!」
「うん!!」
二人は、俺の言葉を聞かずにそそくさと部屋を出ていってしまった。
「……行っちまった。」
「行ってしまったの……。」
「勢いが凄かったね。」
「ああ……ホントにな。」
……皆、二人の行動の早さに、ちょっとついて行けてない中、一人だけプルプルと震えてる奴がいた。
「……どしたん、クライエット?」
「……いやぁ、サメロアちゃん……荒ぶってたなぁと思って……。あたし、ちょっとビクッとしちゃった……。」
「……。」
ちゃんと幽霊が見えないクライエットに対して、不便だなぁ……なんて思うのだった。
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