第41話

アイナが街に帰ってきてから、約2ヶ月が経った。



そんなある日、俺が彼女の部屋に遊びに来ていた時、管理人さんがアイナ宛の手紙を届けに来た。


アイナはそれに目を通していくうちに段々と顔色が変わっていった。


「……な、なんじゃと……?」


「どうかしたのか?」


「……大丈夫?」


「なにか、変な事でも書いてありましたの?」


「いや……これ、読んでみるのじゃ……。」


そう言われて、手渡された手紙を読んでみる。


「ふむふむ……って、なんだこれ?」


その手紙には、王都にいるミリスという王女様に魔法の指導を行ってほしいという内容が綴られていた。


「……王女様に指導……?」


「凄い大役じゃありませんこと!?」


「うーん……?なんで、アイナがこんな依頼が届いてるの?」


「知らぬわ……我もいきなりの事じゃから何がなにやら……。」


あまりの事にアイナも困った顔をしている。


「アイナが適任だからじゃありませんの?だって、最強の魔法使いなんて言われてるんですもの。……それに貴女、50年前までは王立魔法学校で教師をなされてたのでしょう?だったら、人より教えるのは上手なハズですしね。」


「……そうかもしれんが……」


「えっ!?なにそれ、初耳なんだけど!?」


「ありゃ?言っとらんかったかの?ギルドに入る前は、少しの期間、魔法の先生やってたのじゃ。」


「そ、そうなのか……。」


アイナが教師をやっていたなんて、全く知らなかった……。

確かにアイナの教え方は、とても分かり易かったけども……。


「……まぁ、それは良いんだけどさ、それ、どうすんの?受けんの?それとも断るとか?」


「我としては断りたいが……如何せん相手が相手じゃし……。」


「ん~……それは、そうだよな。王族だし、流石に断れない……か?」


「……じゃな。」


アイナは溜息をつきながら、手紙を机の上に置いた。


「あ~、面倒じゃ~……行ったらきっと長い間帰って来れんくなってしまうからの~……。……行きたくないの~……。」


「じゃあ、断るのか?別に無理に行く必要も無いだろうし……。」


「うーん……。」


俺の言葉を聞いて、悩むような仕草をするアイナ。

どうするのか考えているようだ。


俺の言葉を聞いて、悩むような仕草をするアイナ。

どうするのか考えているようだ。


そして、しばらくうーうー唸って考えていた後、声を上げた。


「……受けようかの。わざわざ、こうして頼んできてくれておるわけじゃから、無下にするのも違うじゃろうし。」


「……まぁ、そうだな。」


「そうと決まれば、さっそく返事をしなくちゃじゃの。」


そう言って、アイナは席を立つと机に向かい、紙とペンを取り出して何かを書き始めた。


「アイナ、行っちゃうの?」


「そうじゃな。」


「……そっか。」


エルラは寂しげに言う。


「……まぁ、しょうがないかな。付いてく訳にもいかないしね……キヨトと待ってるよ。」


「ああ、悪いのう……。なるべく早く帰って来れる様にするからな。」


「うん。」


「そうですわね。早めに帰って来れる様にしないと皆さん、寂しがってしまいますからね。」


「そうじゃな。……じゃがサメロア、お主付いてくるつもりでおるらしいが、今回はお留守番じゃ。」


「ええ、なんでですの!!!!!!!??????」


アイナにキッパリと断られて、サメロアはショックを受けている様だ。


「わ、わたくしは別に一緒に行っても問題ないでしょう!!!?」


「エルラの様子を近くで見ててほしいのじゃ。別に大丈夫じゃろうとは思うが、一応、念のために、エルラが変な輩に付いていかぬようにな。」


「僕、知らない人には付いてかないよ。……それぐらいの判断は出来るのに。」


「いや、絶対とは言い切れんじゃろ?口の上手い奴に騙されるかもしれん。その時、傍に居る者がちゃんと止めないといかんのじゃ。それに、もしかしたらその中に、お主より強い奴もおるかもしれん。」


「いや……流石にそれはないんじゃ……?」


だって、エルラ……今の所はアイナしか対処出来ないぐらい強いはずなのに。


「もしかしたらという事があるんじゃよ。常に最悪の事態を想定して行動せねばならぬ。」


「う~、わたくし、アイナと一緒に……」


「駄目じゃ。」


「うぅ……」



結局アイナは、サメロアを置いて周りの知人達に挨拶をし、行ってしまうのだった……。


__________



「うぅ、アイナ~……。」


「お前、いつまでアイナアイナ言ってんだよ……?」


彼女がいなくなって数日経ったが、サメロアはずっとアイナの名前を連呼している。


「だって、アイナが居なくて寂しいんですもの……」


「まぁ、気持ちは分からんでも無いけどさ……そろそろ……落ち着こ?」


「ぐすっ……」


「泣きやめって。」


「無理ですわ……」


サメロアが落ち着くまでに……かなりの時間が掛かった……。


__________


数日後……。


「おーっす、遊びに来たぞ~。」


「よぉ、ジラウス。こんな朝っぱらから来るなんて珍しいな。」


サメロアとエルラと一緒に部屋で寛いでいたら、ジラウスがやってきた。


メルマやクライエットが来る前に、コイツが来るのはとても珍しい。


「サメロアちゃんに、エルラちゃんも、元気してるかい?」


「ええ、勿論ですわ!」


「うん、僕はいつも通りだよ。」


「そうか、そりゃ良かったぜ。特に、サメロアちゃん、最近元気なさそうだったからな。元の様子に戻ったみたいで安心したよ。」


そう言いながら、俺の隣に座ってくるジラウス。


「ご心配かけてすみませんですの。でも、もう大丈夫ですわ!アイナが居なくても、このサメロア、立派にやっていってみせますの!!」


「おお~、凄いな。」


「ふふん♪」


胸を張って言うサメロア。


「ウソつけ……どうせまたふと思い出して、アイナ~アイナ~って呻きだすぞコイツ。」


「なっ、そんな事はありませんわ!」


……と、言いつつも俺の言葉を聞いてからチラッチラッと、外を見ていて明らかに挙動不審だ。


「あっ、あそこにアイナが!!!」


「えっ!!どこですの!?どこにアイナが居ると言うんですの!?!?」


「……ほれ見ろ。」


やっぱり、そう簡単にアイナロスは乗り越えられないらしい。


「何処にもいないじゃないですか……!わたくしの事を騙しましたわね、キヨト!!」


「いや、何で騙されるんだよ……。ここにいるワケないのにさ……。」


「うう……酷いです……。わたくし、立ち直ったと思っておりましたのに……。」


しょんぼりと肩を落とすサメロア。

それを見たジラウスは、彼女を慰めるように声をかけた。


「大丈夫だって、誰でも近しい人が居なくなったら、そうなっちゃうもんだって。だから、そう落ち込まずに……な?」


「……ありがとうございます。ジラウスさんは優しいんですのね。」


「む?俺、優しい?優しいの?」


「はい。とっても。」


サメロアが笑顔でそう言うと、ジラウスは「照れるなぁ~……」と恥ずかしそうに頭をかいている。


「……それに比べてキヨトは、ひどい人ですわ!こんないたいけな少女を騙すなんて。」


「そーだそーだ、酷いぞ酷いぞー!!」


「ブーブー。」


「……。」


なんか、エルラも加わって、ここにいる全員からバッシング受けてるんだけど……。


「そんな酷いお方には、お仕置きが必要ですの!!エルラ、キヨトを抑えるんですわ!!」


「おっけー。」


「えっ、あっ、ちょっ!?」


エルラに羽交い締めにされる。


「ふふふっ、そのまま大人しくしていて下さいまし……。すぐに戻ってきますから!!」


そう言って、サメロアは部屋の壁をすり抜けていった。


「……なぁ、俺……何されるんだ?」


「さぁ?僕に聞かれても分からないよ。」


しばらくして……サメロアが扉を開けて、戻ってきた。


その手には、女性用の服やら何着も持っている。アイナの部屋から持ち出してきたのだろう。


その時点で察した。

何をさせられるかを。


「おぉい、まさか、またなのか!???」


「はい、当然ですわ。」


「勘弁してくれ……!ジラウスもいるってのに……!!」


「駄目ですわ。」


そう言って、サメロアは笑顔で服を差し出してくる。


そして、無理矢理それを押し付けてきた。


俺は抵抗したが、結局ジラウスの見ている前で無理矢理、着替えさせられてしまい……カツラまでさせられ更になんか、化粧までさせられてしまった……。


ちなみに、エルラも面白そうだからという理由で、ノリノリだった。


お陰で、かなり完成度が高い女装姿になってしまった。


そして、ジラウスに笑いものにされてしまうのだった……。


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