第15話 無茶苦茶

「先手必勝!!」


「おおっと!?」


彼女は、とんでもない速さで距離を詰めてくる。

そしてそのまま、先程よりも大きな一撃を繰り出してきた。


咄嵯の判断で横にずれて、その攻撃をかわす。


そして牽制の意を込め、小さな火の玉をいくつか作り出し、彼女に向けて放つ。


「そんなの、攻撃になってないよ!」


…と言い、担いでいた大剣を手にして片腕だけで軽々と振り回し、火の玉を全て消し飛ばしてしまう。


(おいおいマジか……。)


あれだけの重量のある武器なのに、それを片手で扱うとかどんな腕力だよ…。


「…なら、これならどうだ!?」


魔法で作った水の槍を10本ほど彼女に飛ばす。


「まだまだ!!こんなものじゃ!」


すると、彼女はまたしても大剣を振り回して水を吹き飛ばした。


「今のもダメかよ!?結構魔力込めてたのに!」


なんというパワープレイ…。体格は普通の女の子と変わらないのになんという力…。


「よそ見してると危ないよ!!」


「うおっ!?」


少しそんな事を考えていたら、いつの間にか目の前まで来ていた彼女に殴りかけられる。


ギリギリの所で避けたが、頬をかすってしまった。


そこから更に追撃をしかけようとしてきたので、慌てて後ろに飛んで距離をとる。


「今の避けちゃうんだ。…少し速度上げてたのに。…中々やるね。」


「そりゃどーも…。」


「でも、まだあたしは本気じゃないよ。あなたもそうでしょ?」


「…まぁ。」


「だったら、お互いもっと本気でいこう!!」


「お、おう。」


…これからもっと彼女の攻撃が激しくなる。なら、こっちも更にギアを上げてかねーと。


全身の魔力の流れを更に精密にする。

これで、身体能力が更に上がり、魔法の威力も上がる。


それに加えて、身体強化魔法もついでにかけておく。


「…それじゃあいくよ!!」


彼女はそう言うと同時に、目にも止まらぬ速さで動き出した。


「さっきより、また数段と速くなってやがる…。」


彼女の動きに反応し、襲いかかってくる攻撃を避け、すぐに反撃に移る。


「アイスエッジ!!」


地面に氷属性の魔力を流し込む。


そして、俺を中心に巨大な氷柱が周囲数十メートルに広がっていく。


「おわわ!!」


彼女は焦って飛び退き、なんとか回避に成功したようだ。


俺は、それに追撃を仕掛けるべく

氷柱の中を抜け出し、彼女の方へと駆け出す。


そして、目の前まで近付いてそのまま拳を振るった。

それは難なく避けられてしまう。


だが、それでいい。

これはただの目眩まし。


「落石にご注意を。」


「え?…って、うわわー!!」


氷柱を抜け出す時に上空に出現させていた岩がいくつも落ちてくる。


流石の彼女もいきなりなら、この質量には対処できないんじゃと思っていた。


だが、焦っていたにも関わらず、すぐに持ち直して彼女は落ちてくる岩を足場にして、空高く跳び上がった。


「…ええ…」


これには驚きを隠せない。

あの状況から、まさか岩を使って跳ぶとは思わなかった。


そして…空中で体勢を立て直すと、彼女は大剣を両手で握り締め…


「これでもくらえ!!」


と言いながら、おもいっきり振り下ろした…と思ったら、同時に剣先から凄い速度で斬撃が放たれる。


「うぉ!?」


降ってくる斬撃を後ろに大きく退いて避けた。


…そして、すぐに斬撃が地面に直撃する。

それは、深々と地面を抉っていき…割れ目が出来た。


「…マジかよ。」


たったの一撃で地形が変わってしまった。


どうなってんだよ…ホントに。


思わず冷や汗が流れる。

こんなのまともに喰らえば、ひとたまりもない。


そして、彼女は着地するなりこちらに向かって走り出してくる。


このままではマズイと思い、急いでその場から離れようとするも…


「逃がさないよ!!」


…と言い、出鱈目に大剣を振るって大量の斬撃を放ってくる。


「ちょっ…」


あまりにも広範囲の攻撃過ぎて、とても避けきれない。


…仕方ないので、障壁を展開して攻撃を防ぐ。

即興で作ったので、あの威力の攻撃を長く耐えられるはずもない。

あくまでも俺が逃げるための時間稼ぎ。


そして案の定、直ぐに壊されてしまったが、その隙に逃げる事ができた。

そして、一旦距離をとり態勢を整える。


「……。」


攻撃一つ取っても、かなりの破壊力がある。

そして、その一撃一撃のスピードは尋常ではない。


(強すぎじゃね?)


…と思いながら、俺は彼女の攻撃をしばらく捌き続けた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「…スッゴい事するね、マスターの娘さん。」


「そりゃ、俺の娘だからな。弱いわけがないんだな、ワハハ。」


「あれだけ滅茶苦茶できるなら、すぐギルドに入れてあげればいいのに。」


「…そうしてやってもいいんだが…やっぱり…親としてなるべく危険な事はさせたくないわけでな…。」


「…まぁ、気持ちはわからなくもないけど…もう、年頃なんでしょ?だったら、好きにさせてあげてもいいと思うけどな…。」


「…まぁ…そうだよな…。」



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


三十分後。


お互いの攻撃を防ぎ、また反撃しを繰り返した。


そして今は、双方距離をあけている。


「はぁ…はぁ…。」


「…ハァー…ハァー…。」


お互いに肩で息をしていて、スタミナ切れが近い。


「ねぇ……。」


突然、彼女から話しかけてきた。


「…ん?」


「…あなたの事、気に入ったよ。ここまで強いなんて思わなかったな。」


「そりゃどーも…。」


「それより…一つ提案。…もう、終わりにしない?」


「…終わっていいのか?」


「うん。正直、これ以上続けても決着がつかない気がするし。」


「まぁ、確かに……。」


お互い、かなり消耗している。

この状態で戦っても、泥試合になるだけだ。


「それに、もともと勝ち負けを決める為の戦いじゃないしね。あたしが、お父さんに認めてもらう為の戦いだし。」


「あー…そういえば…。」


「…これだけやれば流石にお父さんも認めてくれるでしょ。だから、これでおしまい。」


「わかった。」


俺達は互いに構えを解く。


…すると彼女は俺に近付いてきて手を差し伸ばしてきた。


「戦ってくれてありがとね。」


俺はその手を握り返し、握手を交わす。

こうして彼女との手合わせが終わった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


…戦いが終わったので、グラゴルさん達がいる場所まで向かった。


「どうやら終わったみてぇだな。」


「はい。」


「うん。…で、お父さん。あたし、いい戦いしたよね?ちゃんと実力を見せたよね?」


「そ、そうだな。」


「…なら、あたしがギルドに入るの、認めてくれるよね?」


「…あ、ああ。約束だからな。」


「やった!」


クライエットさんは、嬉しそうにガッツポーズを決めている。


「お疲れ様、キヨト。」


「…お、おう。」


メルマが煎餅の入った袋を持ちながら、俺の側に近寄ってきた。


「お前…それ、最初は持ってなかったよな?どっから出した?」


「これ。」


…メルマは、アイテムボックスを取り出した。


「あ~…なるほどね。」


「キヨトも食べる?まだまだこの中に沢山入ってるし。」


「いや、俺はいい。」


「そう。」


やる事も終えたので、街に俺達は帰る事にした。


それにしても…クライエットさんは強かったなぁ。


…疲れた。今日はもう飯を食って寝よう。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



クライエットさんと戦闘してから一週間が経った。


あれから、無事に彼女は手続きを済ませてギルドに入る事が出来たようだ。


バンバンと依頼を受けてそれをこなしていると聞く。



「………。」


そんな中、俺は特にやりたい事もないので、ベッドの上で横になっている。



すると…コンッとドアをノックする音が聞こえた。


一瞬メルマかと思ったが、あいつだったらそんな事せずに堂々と入ってきやがるから違う。


誰だろうかと思い、起き上がって扉を開けると…


「やぁ、こんにちわ。」


「…あ、えと…こんにちわ。」


……そこには、先程考えていたクライエットさんがいた。


「…えっと…何か用でしょうか?」


「用って程の事じゃないよ。ここに越すことになったからね。部屋が近くだったみたいだから挨拶に来たんだよ。」


「え?そ、そうなんですか?」


「うん。ギルドに入ってから…また家でお父さんがうるさくなってきてね。心配してくれるのは嬉しいけど、流石に鬱陶しいから。」



クライエットさんは、少し困った表情を浮かべながら話していた。


…娘思いなのは間違いないんだろうけどな。

まぁ、それがやり過ぎで空回りしてるようだが。



「だから、これからよろしくね。」


「あ、はい。こちらこそ。」


それから軽く雑談をして、彼女は帰っていった。




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