第14話 マスターの娘

あの後、昼頃までアイナ達と過ごした。


サメロアは踊り終わってからも、メルマに張り付いて楽しそうに話していた。


そんな二人の様子を見ながら、俺とアイナはどうでも良いような雑談で盛り上がった。


…長い時間アイナと話せて楽しかった。


………


「アイナ達も帰っちまったな…。」


「…また、サメロアちゃんとお話ししたいなー。」


などと、メルマとソファーに座りながらそんな事を呟く。


「…そういえばさ、私達、依頼受けようとしてなかったっけ?」


「…そうだな。」


ギルドに行ったまでは良かったが、アイナ達と喋っていて…すっかり忘れていた。


「どうしようか?…まだ時間はあるけどもうやめにしとくか?」


「ううん…せっかくその気になったんだから、今日も受けようよ、」


「そうか。…じゃあ、ギルドに行くか。」


そのままギルドに向かうことにした。


☆ ☆ ☆ ☆



「入り口の前まで戻ってきたけど…なんか、中がいつもより騒がしいな…。」


「だね……。何かあったのかな…。」


扉を開けて中を覗いてみると…周りに人だかりが出来ていて、その中心からグラゴルさんの声と知らない若い女性の声が聞こえてきた。



…とりあえず中に入って、人だかりに混じり込み何が起こっているか確認する。


「…誰だ、あれ?」


髪の色は赤で、腰まで伸びた髪を後ろで一つにまとめている。

頭にはねじれた角が2本生えている。


顔を見る限り年齢は17、8くらいだろうか。


服装は薄手の白いシャツに、短パン。そこから出ている手足は引き締まっており、スタイル抜群。そして、腰の付け根から鱗がついた細長い尻尾が生えている。


身長は160センチくらいで、背中に身の丈に合わない大剣を担いでいる。


「あたしは、もう大人だって言ってるじゃんか!やろうとする事全部に一々口出ししないでくれる!?」


「いや、でも…ギルドで働くのは…危ないぞ?モンスターとか相手にしなきゃいけないんだぞ?」


「そんな事は知ってるよ!でも…あたしはそこら辺のモンスターには負けない!お父さんだって分かってるでしょ!!」


「…だ、だけどよぉ…いくらお前が強いとはいえ…やっぱり心配なもんは心配なんだよぉ。」


「もう!家でもそればっかで全然話が進まないんだから!今日という今日は、絶対にギルドに入れてもらうからね!」


…どうやら親子喧嘩みたいだが、自分を子供扱いする事について怒っているようだ。

てか、グラゴルさんに娘なんていたんだな。


確かにあんな可愛い娘がいたら過保護になる気持ちも分かる気がするが…俺達は一体何をみせられてるんだろうか。


周りの人達も困惑しているようで、ヒソヒソ話をしながら二人の様子を伺っている。


…すると、娘さんが何かを思い付いたようで…


「…そんなにあたしの事が心配なら、お父さんが安心出来るくらいの実力があるって、改めて分からせてあげる!」


「なっ…ど、どうやって…?」


「ここにいる強い人と戦わせてよ!そして、あたしがいい勝負したら認めてよね!」


「…い、いやぁ…そ、それは…」


「良いよね!?」


「あ、あぁ…分かったよ…。俺の根負けだ…。」


娘さんの迫力に押され、グラゴルさんは渋々と了承した。


「…つっても、強い奴ねぇ…。」


そう言うと、グラゴルさんは辺りに集まっている人達を見渡し始めた。


俺もその視線に合わせて見渡すと、ふとこちらを見たグラゴルさんと目が合った。

すると、何故かグラゴルさんはポンと手をたたいた。

……これ絶対面倒事に巻き込まれるやつじゃん。


この場から離れようと後ずさりしようとしたが、それよりも早くグラゴルさんは俺の方に向かってきた。




「おう、キヨト、ちょっと来てくれ。」


「えぇ……嫌ですよ。」


「頼む!ちょっとだけで良いからさ!すぐ終わるから!!」


「いや、だから嫌ですって。」


「大丈夫だって!ほんと一瞬で終わるから!いや、一瞬では終わらんけど、終わるから。」


…と、半ば無理矢理グラゴルさんに腕を引っ張られ…連れてこられた。


「その人が、強い人なの?」


「そうだぞ。なんてったって、Sランクのモンスターをソロで討伐出来ちまうやつだからな。」


「へー…相手にとって不足は無し…かな。」


娘さんは、興味津々といった様子で俺の事を見てくる。

……これはもう逃げられない。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



…街の外に連れて来られた。



周囲には俺達以外誰もおらず、ただ静かな風だけが吹いている。


「よし、ここなら思いっきり暴れても問題無いだろ。」


「よーし!!やるぞ~。」


…娘さんは拳を合わせながら気合いを入れている。


「すまねーなー。目に入った奴で丁度良さそうな奴がお前だったんだ。悪いけど、クライエットの相手になってやってくれ。」


「…クライエットっていうお名前なんですね、娘さん。」


「おう、そうだぞ。…言ってなかったか?」


「はい。」


「そうだったかぁ。…まぁ、今知れたんだし、何の問題もねーだろ。」


…グラゴルさんは、ワハハハと笑っている。


クライエットさんの方を見てみると、やる気満々で構えている。

…俺は正直戦いたく無いんだけど。


「…依頼を受けに来ただけなのに…何でこんな事に…?」


「しょうがない。選ばれちゃったのがキヨトだったから。」


「他人事でいいよな、メルマは。てか、…何で付いてきたんだ?」


「なんとなく。特に理由はなし。」


「そうか。なんとなくか。」


「うん。」


「ねぇねぇ、いつ始めるの?」


…俺とメルマが話していると、クライエットさんは、まだかまだかと言わんばかりにそう言ってきた。


「せっかちな奴だなぁ…。…キヨト、早速だが頼むぞ。“手加減なし”で、相手になってやってくれ。じゃないとお前がケガするぞ。」


「…分かりました。」


「おし!そんなら…試合開始だ!」


「がんばって~。」


そう言うと、グラゴルさんとメルマは、遠くの場所へと移動した。


魔操術で全身の身体能力を満遍なく上げる。

維持できるのは1時間。


最初の10分しか維持できなかった頃に比べたら、大きな進歩。


毎日の様に使っていたら、ここまで出来る様になった。


でも、まだまだ課題は多く、アイナと精度を比べたら天と地ほどの差がある。


……まぁ、そんな事は置いておくとして、とりあえず今は目の前のクライエットさんに集中する。


彼女の方はというと、特に準備体操をする訳でもない。

そのまま自然体のまま立っている。


俺が攻撃してくるまで待つつもりなのか?


…ならばと思ってクライエットさんに近付き、まずは小手調べでジャブを仕掛ける。


そんな俺の攻撃に対して反応した彼女は、その攻撃を右手で受け止めた。


そして、俺の腕を掴んだまま振り回して投げ飛ばした。


空中に飛ばされた俺は、体勢を整え地面に着地した。


「スッゴい速度。普通の人間が出せる速度じゃないね。身体強化の魔法をかけてても、流石にここまで速くはならない。…もしかして、魔操術でも使ってる?」


「…分かるんだ。」


「まぁね。あたし、魔力がほぼ無いに等しくて、魔法は使えないけど、知識はあるから。」


「そ、そうなのか…。」


…魔法が使えないとなると…俺だけ魔法を使うってのもフェアじゃない気がする…などと思っていると…


「あ、別にあたしが魔法を使えないからって、貴方が使わないってのはなしだからね。」


「えっ!?」


「だってほら、手加減されてる感じがして嫌なんだよ。」


「……。」


この人には、どうやら俺の考えが筒抜けらしい。


「分かった。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうからな。」


「うん!それで良いんだよ!」


…と、言いながらクライエットさんは嬉しそうに笑って…


「じゃあ、今度はこっちからいかせてもらうよ!」


…彼女は大きく踏み込みこちらに物凄い勢いで突っ込んでくる。


「素でその素早さかよ!?」


「おーりゃーーー!!」


驚きつつも、彼女が突き出してくる拳を避ける。

それと同時に突き出された拳から前方に、地面が抉れる程の衝撃波が広がった。


「いいっ!?」


あまりの威力の高さに、思わず声が出る。


「あれ?…避けられちゃった。ちゃんと狙い定めてたのに。」


「エグい事するなぁ…。」


こりゃ、手加減なんてしてたらケガ程度じゃすまんぞ…。


「まぁいいや。さ、戦闘開始といこうか!!」


「…お手柔らかにお願いします…。」



彼女の言葉と共に、戦いの火蓋は切られた。



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