第15話

〈ライル視点〉


 入学試験が終わり、クラス発表を控えた今日、朝食を食べ終わった俺はキッチンを借りてクッキーを作っていた。


 かなり好評だったようで、子供達が持っていったり、宿の人も休憩の時に食べてたら、この前の作り置きがなくなってしまったそうだ。

 俺としても料理の練習にもなるので、かなり助かってるが、こうして作れるのも今のうちだというのはわかってるかな?


 今回は宿からのお願いだったので、材料は用意されてたよ…大量に。クッキーを作り終わったので時間までゆっくりしてる。



 クラス発表の時間になり、案内の人についていき学校の広場まで移動すると、大きな看板が複数あった。それにクラスと名前が書かれているそうだ。


 とりあえず端から見てみると、1組の看板に俺の名前があった。他のクラスも見たけど、人数が他より少ないね。

 周囲の子はクラスを見て肩を落としてたり、喜んでたりとバラバラだね。



 俺は近くにいた隈のできた先生にクラス分けの基準を教えてもらうと、基本は実力と評価が近い者同士でクラス分けされるそうだ。

 その中でも特に高い実力と評価になった子が1組に選ばれるらしい…



 まったくの0から、という子も多いので、教室の広さの都合上、人数を均等にしてクラスを分け、訓練とかは集まって授業をするんだってさ。

 そう言った説明を他の先生もしてるみたいだね。


 あれ?どの先生も隈ができてるのは気のせいだろうか…?



 学校の寮を利用できるようになるのは10日後、入学してからになるので、その間も学校の冒険者ギルド…もう学校ギルドでいいか。

 学校ギルドと訓練場は引き続き利用していいとのことだ。


 兄さんと姉さんの予定や都合にもよるが、王都内の依頼は受けていいかもしれない。

 少なくとも2人が帰ってくるまで依頼は受けずに王都の散策、これは確定だな。




 クラス発表から3日後のお昼前、兄さんと姉さんが宿を訪れてきた。


 依頼を達成し、昨日の夜に帰ってきたそうだ。これで兄さんと姉さん、3人のパーティーメンバーは合格!

 卒業後もCランク冒険者としてやっていけるレベルだと認められたと言っていた。


 それを聞いた俺はおめでとうを伝え、その日は俺の泊まっている部屋でのんびりしながら2人と話したり、一緒にご飯を食べて過ごした。



 次の日から兄さんと姉さんは4日後の卒業後、故郷に帰るからその準備のため、お世話になった人達への挨拶や買い出しに出掛けた。


 買い出しだけならついていくのもありだが、挨拶については俺と関係のない人達なのでダメだ。王都で共通の知り合いはガイウスさんとネリネさんだけだしね。



 なので俺は学校ギルド…は、多分騒がれるし、まだ入学してないからと思ったので王都の冒険者ギルドまで行き、道を覚えるために運搬と配達依頼をこなした。

 ネリネさんはいなかったので違う受付嬢さんが対応してくれたけど、特に騒がれずに受注と報告ができたよ。

 最近騒がれすぎて変に警戒しちゃってるな!これは慣れるしかないね…



 その次の日も冒険者ギルドに行くと、その日はネリネさんが受付にいたので運搬と配達依頼の受注と報告をした。

 ネリネさんに学校ギルドで依頼を受けないのか聞かれたが、俺はまだ生徒じゃないから向こうでまだ依頼は受けないことを伝えると、それ以上は聞かず納得してくれた。



 その次の日も冒険者ギルドで運搬と配達依頼を受けたよ。配達場所によっては同じ道を通るので、この3日間何度もすれ違った屋台の人やお店の人と軽く挨拶をするようになった。

 …お!これは!高いけど買って作ってみるかな!




 そして次の日、兄さんと姉さんの卒業と故郷へ帰る日だ。俺達は宿の前で挨拶と見送りをしている。


「うぅ…ライルとは1日ちょっとしかゆっくりできなかったー…」

「そこはしょうがないよ姉さん。故郷の辺境の町までは馬車だと30日はかかるんだし、準備はしっかりしなきゃダメだよ?」

「ま、そこは大丈夫だ。帰りは身体強化を使って試しながら移動するから、行きの時よりは早く帰れるだろう」

「あ、それ最初俺も考えてたよ。さすがに道を知らないからやめたけどね」

「お、ライルも考えてたか!さすがに道を知らないとなー」

「ねー」


 再会した時のように、姉さんに後ろから抱きつかれながら俺達3人は話している。

 途中他の生徒や卒業生が俺達を二度見したり目を丸くして見るのもいるけど、まぁそこはどうでもいいね。


「んー、早く帰る予定なら兄さんと姉さんに渡してもいいかな?」

「ん?何かメリル達に渡したい物があるの?」

「うん、昨日作ってみたチョコクッキー」

「「チョコクッキー?」」

「そう、昨日早めに依頼を終わらせて散策してる時にチョコが売られてる店を見つけてね、買って宿のキッチンを借りて作ってみたんだよ」

「「へぇー」」


 2人が興味を示したので取り出して渡す。


「はい、これがチョコクッキー。食べてみて」

「へぇー、チョコの色をしてるクッキーなんだな」

「…あ!これ美味しい!チョコがクッキーの食感!」

「なに⁉︎…おお!美味しいな!疲れた時にいいかもしれない!」

「それはよかった」


 宿の人に試食してもらって好評だったけど、2人からも美味しいと言ってもらえてよかったよ!


「じゃあ、これがメリル達の分。で、これが兄さんと姉さんの分になるから、大事に食べてね」

「「わかった!」」

「うん、それじゃあ兄さん、姉さん。気を付けて帰ってね」

「ライル!」

「ん?何?ねえ…ぶふっ⁉︎」

「ライルも気を付けてね!帰ったら手紙送るから!あと変に抑えすぎないこと!学校生活を楽しみなさい!」

「ああ!メリルと一緒に書いて送るからな!ライルの好きなようにやるといい」

「…うん」



 姉さんに強く抱きしめられて、兄さんには強く背中を叩かれた。2人からなんだか温かく感じたよ。


 手を振りながら別れ、故郷へ帰っていった兄さんと姉さんの背中はとても大きく感じた。

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