第1話
「それじゃあ行ってくるよ。父さん、母さん、メリル」
シルフとまた会う約束をしてから7年、12歳になった俺は王都にある冒険者学校の試験に挑むため、今日町を出る。
町の出入口には見送りに来た俺の家族がいて、微笑んでる両親と泣きそうな顔の10歳の妹に挨拶している。
15歳の兄と姉もいるが、2人は3年前から王都の冒険者学校に通っているためいない。
よく一緒にいた友達の風の精霊は俺が8歳の頃に成長?して精霊の住む場所に行ってしまい、それ以降は会えていない。
「ああ、冒険者学校ならより多く同世代の子供達との交流や、知りたかった事も調べられるだろう。楽しんでこい」
「ライル、王都は私たちでは教えられなかった技術や経験できることがたくさんあるわ。ここからは更に視野を広げて学んでらっしゃい」
「うぅ〜、兄さん。2年後は私も行きますから、ちゃんと待っていて下さいね!」
「…それは面倒ごと次第になるかなぁ」
「兄さん⁉︎」
俺の返事に驚愕する妹と苦笑いする両親。それには理由がある。
簡潔に言えば、この町の子供の中では強くなりすぎてしまい、それを知った冒険者パーティーやクランから、それに貴族から望んでいない勧誘が一時期きまくったからだ。
王都では必要な場面以外は基本実力を抑えて行動する予定を両親や信頼できる冒険者ギルドの職員さん達と話し合って決めた。
俺の全力を知っているのは俺の家族と、一部のこの町の住人、昔からいて信頼できる冒険者ギルドの職員さん達と、主にこの町を拠点にしている顔馴染みの冒険者達だ。あとはここ辺境の領主さまか。
冒険者相手には遅かれ早かれ勘付かれるだろうし、危険な場面では抑えるなんて言ってられないから全力でいくつもりだ。それに強くなれる機会があるなら実力を見せて教わるけどね。
「兄さん!あまり驚かせないで下さい!」
「おっと。まぁ途中で退学するのは最終手段だから。そうならないよう注意はするし、ちゃんと考えておくよ。もうひとつの件は話せる相手ができないとね」
メリルが怒った…ふりをして抱きついてきたので、頭を撫でて宥めておく。
小さい頃から両親に代わって世話をしていたこともあり、こうして俺によく甘えてくる可愛い妹だ。
「そうだな…それに関してはすまないが俺達はこれ以上力になれん」
「話を聞いた時はほんとびっくりしたわぁ」
両親がそういうのは精霊に関しての事だ。
ちなみに風の精霊が見えることに関しては、今も家族と、風魔法を習ったエルフの冒険者と、遊んだ風の精霊達以外には知られていないはず。風の精霊しか見えないというのもおそらく影響してると思う。
しかし王都に行けば精霊との関連性が高いエルフや、俺と同じように精霊が見える人もいるだろうから、隠していても気付かれる可能性も想定しておくこと。信頼できる相手ができたら話して相談するようにと両親から言われた。
「大丈夫だよ父さん、母さん。知りたい事もあるし、詳しい人と仲良くなれたら聞くようにする」
その言葉に両親は頷き、メリルの頭を撫でていると
「王都冒険者学校の入学試験に行く方、そろそろ出発の時間ですよー!」
「あ、はーい!分かりました!」
「…むうぅ」
「ほらメリル。時間だよ」
「……はい」
「あらあら、ふふ」
「ライル、王都で2人に会ったらよろしくな」
少し離れた場所から、馬車の御者さんから声がかかった。
返事をする時に頭を撫でるのを止めたので、妹が俺を見上げて唸るが、渋々離れて今度は母さんに引っ付き、母さんが微笑み、父さんの言葉に俺は頷いた。
「それじゃあ父さん、母さん、メリル。いってきます!」
「「「ライル(兄さん)、いってらっしゃい」」」
そして荷物と武器の槍を背負い、家族と別れた俺は馬車の方へと向かった。
声のした方へ行くと、そこには御者さんと1台の馬車と2頭の馬がいた。馬車から少し離れた場所で話し合ってる男女4人は護衛の冒険者だと思う。
「御者さん、これから約30日間よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いしますね」
俺の住む町はこの国の中でも端の方にあるらしく、外から来た人達には辺境の町とよく呼ばれる。そのため王都へ移動するだけでもかなり日数が掛かる。
ちなみにこの馬車、王都の冒険者学校からの依頼で来た馬車で、期限までに冒険者ギルド経由か、入学希望の手紙を王都の冒険者学校へ送るとこうして迎えに来てくれる流れになってるらしい。
冒険者学校と冒険者ギルドは育成に力を入れてるよね。
俺が馬車に乗ると、先程見かけた男女4人のうち2人が馬車に乗り、残りの2人は馬車の上に乗った。
出発前に御者さんは王都までの予定を話してくれた。
「今年この辺境の町から王都の冒険者学校の試験を受けに行くのは君だけみたいだね。王都までの道中は野営と、立ち寄る町村の宿で泊まるのを繰り返しながら進んでいくよ。君と同じく試験を受ける子を乗せたり、10日後くらいからは他の馬車と合流しながら行くようになるよ」
「へぇ…同じ目的の馬車と合流しながら王都へ行くんですね。分かりました」
そう返事をすると、馬車は出発した。
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