第2話

「…暇になってきた…」


 出発してから約2時間。その間は馬車の中から景色を眺めていたけど、あまり変わり映えしないのでちょっと飽きてしまった。


「…休憩まで魔力操作の鍛練でもしてるか」


 そう呟き、俺は風魔法で緑色の小さな球を4個作り操作し始めた。最初は統一した動きで、徐々に速度を変え、その次はそれぞれ速度を変えていく。それは俺を中心にして何度も周回させていく。


 これは下手に移動できない時にもできるから助かる。馬車の中での操作に慣れたところで徐々に球の数を増やしていくんだけど…


「…これが気になりますか?」


 30分ほど経ち俺は鍛練を見ていた…チラ見から凝視になっていった…馬車の中にいる護衛の女魔法使いさんに顔を向け、声をかけた。


「あ、ごめんね。鍛練の邪魔になってる…感じではないわね…」

「ほぉー、俺達に話しかけてもまったくブレてないな。なあ、普通は集中力が切れて操作が疎かになったりしないか?」

「実際球が増えるほど難しくなっていくわよ?まだまだ操作・制御に慣れていないってことなんだけど…私はその歳で今も平然とできてることに驚きだわ…」

「そこはこれまで修行を見てくれた両親や知り合いに感謝ですね。おかげでここまでできるようになりましたから」


 俺は球を増やすのをやめ、4個の球の内1個を逆回転させながら言うと、女魔法使いさんは驚愕しながらも納得したような顔をし、護衛の男剣士さんも気になるのか会話に加わった。


「なるほどねぇ、ほんとは休憩時に聞こうと思ってたけど、単刀直入に聞くわ。君はもう戦える?」

「戦えますよ。ついでに言うと、仮冒険者としても活動してます」

「お!それなら休憩中に軽く手合わせしてもいいな。槍を持っているんだし近接もできるんだろ?ちなみに今の冒険者ランクは聞いてもいいか?」

「休憩中は身体を動かそうと思っていたので、手合わせは是非よろしくお願いします!あ、今のランクはCですよ?」

「「C⁉︎」」

「…ちょっと、どうしたの?」

「…はっ⁉︎すまん!この子の話に驚いただけだ。だから大丈夫だ!」


 今の冒険者ランクを伝えると2人にかなり驚かれた。その声に御者さんは振り向き、馬車の上にいた護衛の1人まで覗いてきたくらいだ。その2人は理由を聞くと納得したのかすぐに視線を戻した。


 ちなみに仮冒険者とは俺みたいな未成年で冒険者をしている人のことだ。未成年だと伝えやすくするために使われるが、普通に冒険者と言っても大丈夫ではある。


 女魔法使いさんと男剣士さんが驚くのも無理ないと思う。というのもCランクの評価は1人前レベル。未成年でCランクは最高ランクにあたる実力になるからだ。


 俺の住む辺境の町は近くに樹海(小さい頃森と呼んでた場所)があり、冒険者の収入源になる魔物が多くいる。

 樹海の奥から時々強い魔物が現れるため、俺の町では町と冒険者ギルドが協力して育成・訓練を定期的に実施しており、両親が忙しい日は時々兄妹4人で参加してたのも関係があると思う。


 証明のため、俺の冒険者カードを見せながら聞いてみた。


「えっと…やっぱ12歳でCランクは珍しいんですか?」

「あ、大声出しちゃってごめんね…へぇ、ほんとにCランクだわ。珍しいのは確かだし、君はもう既に大人と同じくらい活躍できるレベルだってことに驚いたのよ」

「…俺もすまないな。急に騒いでしまって。正直かなり珍しいぞ。俺達が護衛した入学希望の子は高くてもDランクだったはずだな」


 予想通りCランクは珍しいらしい。


「あー…既にCランクで冒険者学校に入学する人はいませんか…」

「いない、とは断言できないけどかなり少ないないのは確かよ。これは3人とも君のランク聞いたら驚くわよー?」

「…こうして話してても球の操作は止めないんだな…」


 女魔法使いさんはイタズラっぽく微笑み、男剣士さんの呟きは聞こえなかった。2人からは在学中にCランクまで上がる人はそれなりにいるとも教えてくれた。

 その後も会話して少しすると休憩場に着いたので馬車は止まった。




「…いつもより美味しいんだけど」

「うん。長旅の野営で美味しいものを食べられるのは嬉しい誤算だね」

「彼が準備を手伝ってくれたおかげで、私は馬の世話に集中できたので助かりましたよ」


 そう呟いたのは御者さんと、これまで馬車の上で護衛をしていた女斥候さんと男戦士さんだ。


「…俺の出番がほとんどなかったんだが…」

「何言ってんの。あんたは元々料理できないでしょ。あ、このスープ美味しい♪」

「うぐっ⁉︎…お、ほんとだうめぇ!」

「あはは…」


 お昼は女魔法使いさんと男剣士さんが作るようだったので、俺は手伝いを申し出て、料理を作った。


 ちなみに準備をしてる時に俺がCランクだと伝えると、3人は目を丸くしながら驚き、既に知っていた2人はその反応を見て笑っていた。

 女魔法使いさんと男剣士さんと話した内容もその時に話し、練習風景も見せるとまた驚かれた。


 食事が終わり、休憩していると


「よし、それじゃ早速手合わせするぞ!俺は先に準備してるからな!」

「へ?あの、片付けは…?」

「片付けは私達でやっておくから、君はあいつの相手をしてやって」

「…そういうことなら、私が片付けを手伝うわ」

「なら僕は審判役として2人の模擬戦を見させてもらおうかな」

「では私はその間に出発準備をしておきますね」


 男剣士さんの行動に驚いてると、女魔法使いさんの言葉に反応し、3人は慣れてるのか驚きもせずテキパキと作業を進めていった。


「…あー、はい。皆さんよろしくお願いします」


 もう確定みたいなので、俺は切り替えるため大きく息を吐き、メイン武器の槍を持って準備を始めることにした。

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