第3話

「うし!それじゃあ模擬戦を始めるぞ!準備はできたか?」

「はい!大丈夫です。よろしくお願いします!」

「2人とも準備はいいみたいだね。ルールを説明するよ。制限時間は10分で身体強化はなし。降参するか、どちらか1撃を当てても終了するよ。それでいいかい?」

「おう!」

「はい!」


 男戦士さんの言葉に返事をしてお互いに武器を構える。

 身体強化なしだと力は確実に劣る。今回相手の攻撃には回避重視で、防御する時は受け流すようにしよう。


「よし、それでは…始め!」


 開始と同時にお互い前に踏み出し接近する。

 先に攻撃が届く距離まで近付いた俺は肩に突きを繰り出し、男剣士さんはすぐ反応して攻撃を右に受け流す。


 受け流しながら男剣士さんは一歩踏み込み袈裟斬りを出してきたので、俺はその分左後方に下がり避けながら引いた槍で攻撃を右に受け流す。


「ほう、慌てると思ったんだが冷静じゃないか!」

「そりゃ開始早々終わりたくありませんからね!」


 俺はそう言いながら足元を槍で払い、男剣士さんが跳び下がったので詰め寄り、俺の間合いを維持しながら手、肩、膝と様々な箇所を狙いながら突きを繰り返す。

 男剣士さんはその突きに対して回避と受けを使い分け、最小限の動きで対処している。俺の攻撃が数分続き


「ふっ!全然!崩せる気がしないんですが!」

「ちぃ!何言ってんだ!お前かなり対人戦慣れてんだろ⁉︎」

「それは!どうでしょうね!」

「おっと⁉︎まだまだだ!」

「くっ⁉︎」


 そう言い合いしてたところで少し隙ができたので、腹部に鋭い突きを放った…が、受け止められ弾かれて体勢を崩されたところを接近され、攻守が逆転する。


 男剣士さんから袈裟斬り、腹部に左一文字、逆袈裟斬り、左袈裟斬り、突き、というように小さな動きで隙の少ない攻撃を出してくるため、俺は回避と受け流しに専念する。


 そこからしばらく俺が攻勢に出ずにいると


「それまで!時間切れだよ!」

「っ!ふっ!」

「っ⁉︎はぁ!」


 男戦士さんの声に男剣士さんが反応し、少し溜めた突きをしてきたので、俺はそれに合わせるよう槍を素早く半回転させ石突の方を向け突きを放ち、突き同士のぶつかった衝撃に逆らわず一気に後方へ下がった後、構えるのをやめた。


「ふぅ、ありがとうございました!」

「今のに反応して合わせてくるのかよ…こっちこそありがとうな!」


 お互い近付きながらそう言って、握手をして手合わせを終わらせたら、少ない拍手が起こった。どうやら俺達と同じく休憩をしていた人達が見ていたようだ。

 俺と男剣士さんは顔を見合わせ、苦笑いしながら準備の終わった馬車に乗り、出発した。




 馬車に乗った俺は、魔力操作の鍛練をしながら先ほどの模擬戦を振り返っていた。


 男剣士さんは熱くなりやすいと思ってたけど、しっかり攻撃を見極め、対処していたな。


「…ねぇ」


 お互い言い合いながら打ち合っていたけれども、実際はお互い様子見だっただけだし、次やる時があれば打ち合いが激しくなっていくだろう。


「……ねぇ」


 流石に本気ではやり合わないだろうが、またやる機会があれば次は身体強化ありで模擬戦するかもしれないなぁ。


「…ねぇってば」

「…あ、すみません。考えごとしてました」


 声に気付くと、交代して馬車の中にいた女斥候さんが目の前にいた。どうやら何度も呼んでたらしいので素直に謝った。


「…謝ったから許す。気配は感じてたんでしょ?私に当たりそうな球は避けて動いてたし」

「…そうですね。気配はうっすらと感じてはいたので、それに当てないよう注意はしてました」

「…それはそれで凄いわね」

「ありがとうございます?」


 そう言うと女斥候さんは苦笑いをした。ところで女斥候さんの話はなんだろうか?


「…大した事じゃないわ。今日じゃなくてもいいから、次やれる機会があれば私とも手合わせしてほしいだけ」

「なるほど。それは僕も大歓迎ですので、是非よろしくお願いします!」

「…ありがとう」

「おっと、先を越されちゃったね。僕はその次でもいいから、手合わせしたいのだけど、いいかい?」

「あ、はい。それは是非よろしくお願いします!」


 女斥候さんに続いて男戦士さんからも申し出があったので快諾した。

 ただ、手合わせについてお願いしたいことがあるので聞いてみた。


「なんだい?お願いしたいというのは?」

「既に手合わせして関係ない人にも見られた後ですが、基本目立ちたくないんですよ。関係ない人には見せたくないので、人が多いところでは見送らせてほしいんです」

「…なるほど、そういう事なら私は問題ない」

「僕も問題ないよ。それなら人の少ない、観戦されにくい場所や時間帯でやるようにしようか」

「ありがとうございます!」


 お願いを聞いてくれたことに安心した。手合わせする回数は減ってしまうだろうけど、十分時間はあるはず。


 その後は特に魔物は現れず、平和に進んで夕方には今夜泊まる予定の村に着いた。


 ちなみに男剣士さんも女魔法使いさんも、俺との手合わせについてのお願いを聞いてくれたのでお礼を言い、今夜の自己鍛練は軽くに済ませ、早めに宿で寝た。

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