風の(大)精霊と友達になったらいつの間にか加護をもらってました
ホクティ
プロローグ
これは俺が5歳の頃、これからの人生が大きく変わるきっかけとなった日の出来事である。
「あら?人族の子で精霊が見えるなんて珍しいわね?」
家族と共に薬草採取の練習で町の近くにある森へ行った日、家族と少し離れた後、友達の精霊さんに手を引かれ、1人になった時に聞こえた声。
立ち止まり、声のした方を向くと、そこにはたくさんの精霊さんを連れた薄い黄緑色の長く綺麗な髪をしている女の人がボクを見ていた。
「…今の声はおねーさん?精霊さんなの?」
「(…これは更に珍しい、声だけじゃなく、私の姿も見えるのね)…そうよ。私は風の精霊でこの子達のお姉さん的存在なの」
驚きながら尋ねると、女の人も驚いた表情をした後、微笑みながら自分も精霊さんだと教えてくれた。
「そうなんだ⁉︎ボクおねーさんみたいな精霊さんははじめて見たよ。あっ、ボクの名前はライル!よろしくね!」
「わかったわ、ライルね。私は風の精霊シルフよ。いつも風の精霊達と遊んでくれてありがとう。私こそよろしくね!」
興奮しながら精霊さんの前に移動して自己紹介をすると、シルフと名乗った精霊さんは笑顔になって自己紹介してくれた。
「ねえ、ライルはこの森には1人で来たの?」
「違うよ?今日は薬草を採るために家族できたんだ。ここには精霊さんが連れてきてくれたんだよ。シルフおねーさんはどうしてこの森に?」
「なるほどね。私はこの森にいる風の精霊達の様子を見に来たのよ」
お互いこの森に来た理由を話した後、ふと気になった事をシルフさんに聞いてみた。
「へぇ〜、その風の精霊さんってどんな精霊さんなの?」
「ふふ、風の精霊はね、ライルが見えている精霊達のことよ。ライルが今まで見て、遊んだ子達は風の精霊なのよ。だから私はライルにお礼を言ったの」
「え、そうだったの⁉︎ボクが見える精霊さんは風の精霊さんだったんだ…後で父さんと母さん達に教えてあげなきゃ!」
この事にボクはすごく驚いた。実は遊んでた精霊さんは風の精霊さんだったなんて!
「この森には風の精霊だけじゃなくて、他の属性を持つ精霊もいるのよ」
「え?精霊さんて他にもいるの⁈」
シルフさんはこんな事も教えてくれた。ずっと驚きっぱなしである。
「うんうん、いい反応ね〜♪そうよ、今ライルが見えるのは風の精霊だけ、この森だけじゃなくて世界にはたくさんの精霊がいるんだから!」
「世界の精霊さん?」
「そう、あ、基本精霊は私を含めて自由でマイペースなのが多いから、元から見えるもの以外は精霊が興味を持たないと見えないままだし、会えないからね」
「へぇ〜」
そうなんだ…他の精霊さんにも会えたらお話しして友達になれたらと思ったんだけどなぁ…
「あら?なんだか残念そうな感じね?」
「うーん、騒いでビックリさせちゃうのは嫌だし、友達になれそうにないならいいや」
そう話すとシルフさんは目を丸くして
「え?精霊と友達?」
「うん、ケンカするんじゃないし、風の精霊さんと同じように仲良くなって遊びたいよ。あ、あとはのんびりいろんな景色が見たい!」
「景色?」
「うん!夕日とか噴水とか見るの好きなんだ!それで大きくなったら旅をしたいと思ってるんだよ」
「そうなんだぁ…」
そう言うとシルフさんは楽しそうな顔をして
「友達に景色…いいわね、それ。ねぇ、ライル、私とも友達になってくれる?」
「もちろん!シルフおねーさん、これからよろしくね!」
「ありがとうライル。私こそ改めてよろしくね!あと友達になるんだから私のことはシルフって呼んで!」
「うん、わかったよ、シルフ!」
そうして友達になったシルフさん、シルフと握手をした瞬間、握手した手が一瞬光ったような気がした。
「あれ?今光ったような?」
「…そう?私は見えなかったけど?」
「あれぇ?」
気になるけど、シルフが見てないならただの見間違いかなぁ?
握手をしたまま考えていると、シルフが楽しそうに
「ねぇ、ライル。友達になってくれたお礼にひとつ景色を見せてあげたいんだけど、来る?」
「へ⁉︎どんな景色?見たい‼︎」
「ふふ、興味津々ね」
「もちろん!……あ⁉︎ねぇシルフ、そこって遠いところ?時間かかる?」
「え?あ、そういえば家族で来たんだったわね…」
シルフは少し悩んでたけど、すぐボクの方に顔を向けて笑顔になって…あれ?なんだかイヤな予感…?
「大丈夫よ、すぐに行ける所だし、驚くような景色だ〜か〜ら!」
「え?それってどういう…うわぁ!?」
シルフは握手したままの手を引き、ボクを抱き抱えると空へ飛んで…トンデ?!ヤバイヤバイハヤイ?!
そしてボクは目を閉じてしまった。
「よし、ここならいいでしょ。おまたせライ…ライル?聞こえてる?」
それは長かったのか短かったのか、ゆっくり目を開くと、ボクはその景色を見た途端唖然としてしまった。
「ご、ごめんね⁉︎ライル、身体はなんともない⁉︎大丈夫⁉︎」
シルフが何か言ってる気がするけど、目を開いたボクはこの景色から目が離せない。
目の前には、上は空に手が届きそうな雲、下は先の見えない森で、とても広くてずっと先には山と呼ばれてるものが見える。
「…ル!ライル!」
「へ?…あ!シルフ!なに?」
「あ、よかった〜!呼んでも全然反応しないんだもの!」
シルフは怒っててちょっと泣きそうな顔をしてた…どうやら景色に夢中になってる間ずっと声をかけてくれてたみたい。
「ごめんね、シルフ。景色がすごすぎて動けなかったよ…」
「ごめんね。いきなり飛んでビックリさせちゃった…」
「「…え?……ぷ…くくく」」
そうしてお互い相手が謝った事になんで?と目を見合わせ、それがおかしくて笑い合った。
「…ねぇ、シルフ。ボクが大きくなったらこんなすごい景色がまた見れるかな…?」
「なれるわ。けど大きくなるだけじゃダメ、あなたの両親のように強くなりなさい」
「強く?父さんと母さんが冒険者だって教えたっけ?」
「聞いてないわよ?でも強くなっていけば、もっともっといろんな場所に行けるようになるわ」
「…そっか」
シルフはそう教えてくれた。
そしてボクは、これからやりたいことをシルフに話した。
「…なら修行して強くなったら世界の景色を見る旅に出たい」
「世界の景色を?」
「うん、強くなって大人になったら世界を旅するんだ。それで世界の景色を自分で見に行く!」
「ふふ、それは面白そうね。すごく楽しそう!」
シルフは微笑みながらそう返事をしてくれた。するとシルフが
「…よし!決めたわ!」
「うん?決めたって、何を?」
「その旅、私もついて行くから!」
「へ⁉︎でも大人は15歳からだから、旅を始めるにしても10年は待たせることになっちゃうんだけど…」
そう話すとシルフは目を丸くしながら
「…短い」
「え?」
「10年なんて精霊には短い!あっという間だわ!それなら私は旅できる準備するわよ!」
「えぇ?」
シルフが怒りながら言うものだから、今度はボクが目を丸くする。
「私は私でやる事終わらせて準備をするから、ライルもしっかり進めておきなさい!」
「わ、わかったよ」
シルフの方がすっごく顔を寄せて言うものだから、ボクは戸惑いながらも返事をした。
そんなことを話しながらもシルフと出会った場所まで戻ると、急に真剣な顔をして話し出す。
「で、ここからは私からライルにお願いと宿題」
「お願いと、宿題?」
「そうよ、まずはお願いからね。ライルは人族で精霊が見えることは珍しい、というのは聞いてる?」
「うん、それは父さんと母さんに話した時に聞いたよ。他の人には言わないようにって言われた」
「うん、ならこれからも両親との約束を守りなさい。そして追加で、私の名前だけは家族にも絶対に教えないで」
「名前を教えないのはなんで?」
「流石に気になるわよね…今言えるのは私が精霊の中でも珍しい存在だからよ」
「…そうなんだ」
「だから私と合流するまでは名前は言っちゃダメよ?」
「わかった!約束する‼︎」
その言葉にシルフは満足そうにうなずく。
最初会った時からなんとなく感じてたけど、シルフは精霊さんの中でも珍しいんだ…
そしてシルフは機嫌よく申し訳なさそうに…なんだろ?
「だからねぇ、ライルが両親に私と会った事を話す時は代わりの名前、考えておいてね☆」
「……わかったよ」
「お願いね!」
少し呆れながら返事をした。
シルフと話をして分かってきた事だけど、なんか時々勢い任せなところあるよね…言わないけど。ジト目でシルフを見る。
「んん!で、次に宿題なんだけど、ライルには精霊との契約と風魔法を覚えて、強くなってもらうわ」
「(ごまかした…)…ん?契約?風魔法?」
「契約については今言ってもわからないでしょうから、ライル自身でどんなものか調べてもらうわ。大きくなれば学校や図書館、あと他種族との交流とかで調べられる機会があるはずだからね 」
「…それじゃあその契約についてはその機会ができた時に調べるってことでいいの?」
「ええ、それで大丈夫よ。風魔法はその契約に必要で、これからの修行で早くから鍛えておいてほしいの」
「風の魔法だね!わかった!」
魔力の操作ができるようになったら魔法を教えてくれるって父さんと母さんが言ってたから頑張らなきゃ!
「……お願いしてる私が言うのもなんだけど、ライルって5歳にしては理解力が高くない?」
「え?よく周りからも言われるけど…みんなが言うには両親のお手伝いや妹のお世話をよくしてるからじゃないかって」
「…なるほどねぇ」
シルフは納得した顔をした後、抱き抱えていたボクを降ろしてくれた。
「さて、ライル、そろそろ家族の元へ戻りなさい」
「あ、もうそんな時間⁉︎薬草探してないじゃん!」
「ふふふ、そこはまだまだ子供らしいわね」
そう言いながらシルフが指を動かすと、離れていた精霊さんが袋を持って近づいてきた。受け取ったシルフが精霊さんにお礼を言って、シルフが持った袋が一瞬光ったと思ったらボクと目線を合わせ、その袋をボクに差し出してきた。
「この袋は私と友達になって、とても楽しい時間をくれたお礼にあげるわ」
「お礼を言いたいのはボクなんだけど…この袋は?」
「これは収納袋よ。私とライルにしか使えないし、私より強くないと壊せないようにしたから。中にはこの周辺で採れる薬草が入ってるし、他のは今後上手く活用しなさい」
「え⁉︎そういう袋は高いものだって聞いたけど、いいの⁉︎」
「いいのよ。私の持ち物だし。ライルにあげたいから渡すの。容量は馬車2台分くらいというのは覚えておいてね」
「…わかったよ。ありがとうシルフ!」
そう言ってシルフから収納袋を受け取り、シルフとお互い笑顔で握手をした。
「それじゃあ今度こそお別れよ。ライルの成長楽しみにして待ってるわね!」
「うん!大きくなったらシルフに会いに行くよ!」
離した手を上げ、お互い笑顔のままこう言った。
「「またね!」」
そうして俺はシルフと別れ、目標に向かって歩き出した。
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