第33話

 パーティーでの模擬戦を終えた次の日の朝、俺は教室でクラスメイト達と昨日の模擬戦について話していた。


 あ、先に言っておくと昨日最後に模擬戦した男子6人、速攻で倒しちゃった件はお咎めなしだったよ。

 理由は以前からいろんな人に突っかかっては問題を起こしてたみたいで、今回は俺に絡んで模擬戦と関係ない話を始め、馬鹿にするような発言と態度を舞台の上で行ったのが悪意あるものとして判断されたみたい。


 自業自得だし、親の方にも報告がいってるみたいなので、あとは大人に任せた!



「パーティー同士の戦闘ってあんなに難しいのか…相手だけじゃなく味方の立ち位置とか立ち回りとか気にしないとダメなんだな…」

「連携の上手い相手に翻弄されて場外負け。なんてのもあったよねー」

「1対1なら勝てる強さだったんだけどなぁ」

「パーティーの有利な状況に持っていくのが大事だってよくわかったわ…」

「そう考えると、ライル君とエシャちゃんのパーティーは凄かったよね〜。最初から動きに迷いがなかったし、今回はじめて組んだんだよね〜?」

「そうだよ。前衛と後衛に分かれてたのもあるし、今回は始まる前にエシャさんと戦い方の打ち合わせができたから、上手くいった感じだね」

「打ち合わせ?」

「あの短い時間で?」

「うん、そう」


 俺は頷き、最初にお互い何ができるか、基本はどう戦うか、開始と同時に何をするか、誰を優先して狙うか、そして何かあればお互いに声を掛け合ったのを話した。


「練習なしではじめて組む相手との連携は難しいからね。お互い邪魔にならないよう動くとか、敵の方が多い時は1人に集中して数を減らすとか、フォローに入る時は声を掛けるとか、何かしら事前に決められると戦いやすくなるよ」


 話を聞いていたクラスメイトの反応はバラバラだ。考え込んだり、成程と頷いてたり、難しかったのか頭を抱えてたりね。


「まぁ今回は特殊なパターンだったと思った方がいいね。少し急だったから混乱しやすかったけど、パーティー組む時は色々考えて、話し合うことが大事だって覚えておけばいいよ」

「おはよう、朝のホームルームを始めるよー」


 話してると、丁度いい?タイミングでグレイシア先生が入ってきたので、俺達は解散して席についた。



 それからの選択授業や依頼は平和だった。選択授業は基本座学や練習だけだったし、依頼も王都内のものだけにして受けてたよ。


 タイミングか悪かったのか、フリージアさんとは会えなかったな…依頼中に風の精霊は見たんだけどね。



 そして今日は学校が休みの日、ガイウスさんから槍と剣を受け取りに行く日だ。


 フリージアさんとその行き帰りで会えるか次第でもその後、外で実戦しに行く予定。

 寮長さんには念の為野営するかもしれないと伝えてある。



 なので野営道具も入れた荷物を背負い、ガイウスさんの武器屋に向かってる途中、風の精霊を数人見かけたので風属性の魔力の球を作り、風の精霊へ飛ばして呼んでみると、1人の風の精霊が不思議そうな顔で俺の所に来てくれた。


 風の精霊に渡しているこの魔力の球、会話の内容というか意思みたいなものも込められるみたいで、風の精霊が理解してくれたり、興味を持ってくれると話を聞いてくれるんだよね。


 長旅の途中、街で風の精霊が近付いて来た時、この方法で離れてもらったんだ。喋ると精霊が見えない人には独り言のように見えちゃうのもあるからね。


 来てくれた風の精霊に上位精霊のフリージアさんを知らない?という意思も込めて風属性の魔力の球を渡すと伝わった…のかな?何度か頷き、笑顔になって空に戻っていき、少し待っていると…



『ライル君、お待たせ〜♪』

『あ、おはよう、フリージアさん』


 風の精霊がフリージアさんを連れて来てくれた。よかった、ちゃんと伝わってたみたいだ。

 連れて来てくれた精霊にお礼の想いを込めた風属性の魔力の球を渡すと、笑顔で俺達に手を振りながら離れていった。


 それをフリージアさんは興味深そうに眺めていたよ。


『それにしても、よく下位精霊に伝えられたわね〜。もしかして、かなり慣れてる?』

『小さい頃友達になったのが下位精霊で、その頃から人の多い場所で話しにくい時、今の方法を使って会話できるようになるようになっていったんですよ』

『成程ねぇ、それでわたしを呼んだのはもしかして…♪』

『はい、作ったお菓子持ってきましたよー』

『やったぁ〜♪』


 目を輝かせて聞いてくるものだから、俺は苦笑いしながらも勿体ぶらずに2袋出し、フリージアさんに見せると両手を上げて喜んでくれた。


『…あれ、2袋?』

『中身はどちらもクッキーですよ。これが普通に作ったやつで、こっちが少ないですけどお試しで作ったやつですね』

『へぇ〜、食べ比べしてもいい?』

『はい、どうぞ』


 俺は袋から1個ずつクッキーを取り出し、フリージアさんに渡す。


『こっちが普通の…あ、わたしが食べやすい大きさにしてくれてるのね!あむっ、ん〜〜あっさりしておいしい♪』

『あ、それはよかった』


 普通に味付けしたんだけど、フリージアさんにはあっさりした味になるみたいだ。


『それじゃあこっちは…あむっ、〜〜〜!こっちの方が味がしっかりしててもっとおいしい!どうやったの⁉︎』

『お試しのは風属性の魔力を少し込めながら作ってみたんですよ、風の精霊にはいい味付けというか、本来の味が伝わるようになったみたいですね』

『⁉︎…そんな方法があったなんて…』


 この方法は衝撃的だったのか、かなり驚いてるな…精霊と触れ合えて仲が良く、料理ができる人族ってなると人数も少ないか…


『これはちゃんとしたお礼じゃないとダメね!ライル君、少し待っててね!』


 そう言ってクッキーの入った袋も持っていき、少し待っているとフリージアさんが俺の手のひらよりちょっと大きく綺麗な緑色の石?みたいの持ってきた。



『はい!ライル君にはこの風の精霊石をあげる♪風の最上位精霊にもクッキーを食べてもらって、許可をもらった高品質のものよ!』

『あ、ありがとうございます…フリージアさん、精霊石ってなんですか?』

『あ、ライル君は知らないよね?精霊石はね…』


 フリージアさんによると、精霊石は上位精霊以上が作れる特殊な石で、精霊石を贈るのはお礼や信頼の証なんだって。


 で、今回は料理に少しの属性魔力を込めながら作ると、その属性と一致する精霊には本来の味付けがしっかりと感じられる、というのを教えてくれたお礼と、下位精霊にも友好的に接してくれる信頼の証としてこの風の精霊石を贈るの認められたらしい。


 フリージアさんの反応を見るに料理の味に変化があるのは他の上位精霊以上の存在にとっても衝撃的だったみたいだね。

 長生き?する精霊には食事も楽しみのひとつなのかもしれない。


 で、この精霊石、精霊との契約にも使える物だそうで、上位精霊以上の存在には必須なんだって!

 この情報は俺にとって衝撃的で、今の段階で手に入ったのは本当にありがたい!シルフとの契約にまた一歩進んだからね!


 フリージアさんから風の精霊石を受け取ると同時にシルフからもらった収納袋へ大事にしまった。一瞬収納袋が光ったような気がするけど、まぁ気のせいだろう。



『ありがとう、フリージアさん。契約についてまた一歩進めたよ!』

『あ、ううん、わたしの方こそありがとうね!他の精霊達にもいい情報をもらったわ♪』


 フリージアさんが一瞬慌てたように返事をしたけど、多分クッキーが待ち遠しいんだろうね。


 そしてフリージアさんと別れた俺は、改めてガイウスさんの武器屋に向かうことにした。




「………風の精霊石を入れたあの袋の印と入れた時の反応、最上位精霊?…いや、まさかからの贈り物?…どちらにしても、とんでもない風の精霊にライル君は気に入られてるのね〜♪」


 ライルを見送ったフリージアの呟きは誰にも聞かれることはなかった。

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