第32話

「ほぉー?エシャ君とライル君の2人でやるのかい?」

「はい、私は後衛としてやりたかったので」

「人数増やしすぎても連携すらできずに戸惑った所を狙われてやられるだけでしょうしね。あと模擬戦をやる前に確認しておきたいことがあるんですけど…」


 訓練場に入った俺達はパーティーを組む時間になったので、早速グレイシア先生に組んだことを伝えると同時に、槍を持ってないことを話して魔法で槍を作っていいか聞いてみた。


「おっと、それは盲点だったね。そういうことなら使っていいよ。でも1戦くらいは体術と魔法のみで戦うのを見てみたいねー」

「何戦やるのか分かりませんが、1戦くらいなら…エシャさんもいい?」

「うん、私も大丈夫、それじゃあ時間がある内に立ち回りをもう少し考えておこうか」

「そうそう、申し訳ないけどライル君は最初の一撃で相手を倒さないようにね。今回は生徒達の動きを見るのが目的だから」

「あー…分かりました。けど相手が舐めてかかってきたり、隙だらけだったら容赦なく攻撃を叩き込みますよ?」

「うん、そんな相手だった時は遠慮なく吹っ飛ばしていいよー」


 グレイシア先生から許可をもらって離れた後、時間まで話し合い、相手の役職や構成によって立ち回りも変えていくことになった。



 ◯優先して倒すのは回復・支援職、次に弓や魔法使いの後衛アタッカー、次に前衛職になった。

 攻撃を俺に集中させる動きをして対応し、その間にフリーになったエシャさんが攻撃魔法で後衛職を狙い、相手の人数を減らす。


 ◯相手が前衛職のみの構成だった場合は俺も最初は魔法主体で戦い、接近される前に削る。

 接近されたら俺も接近戦に切り替えるが、何人かは吹き飛ばして離れさせ、短時間でも1人に集中して早めに倒し、人数を減らす。


 ◯後衛職のみだった場合は俺が速攻で攻撃魔法を使って注意を逸らし、相手に動かれる前に態勢を崩したら、エシャさんも杖を使って2人とも接近戦で戦う。



 こんな感じになった。


 エシャさんは回復魔法に光と水、支援魔法も使えるそうなので、開始と同時に支援魔法を使い、自身の強化をしたら攻撃魔法、余裕ができたら俺にも支援魔法を使ってもらう予定。


 俺は開始と同時に氷魔法で槍を作り、軽く身体強化を発動して近付き、前衛はもちろん後衛も注意を引くよう動いて複数を相手する。基本エシャさんには近付けさせない立ち回りだ。

 グレイシア先生から一撃で倒さないよう言われたので、殺傷力の高い雷魔法は封印だ。


 基本になるけど、最初は相手のペースを崩して俺達のペースで戦えるようにするかな…




 そして始まった他のクラスと合同の模擬戦、最初の相手は4人、他のクラスのパーティーだ。

 構成は盾持ちの剣士、剣士、弓使い、魔法使いだね。


「エシャさん、まずは弓使いから倒すのでいい?」

「うん、了解」


 小声で話し、最初に倒す相手を決めたら開始位置につく。


 開始と同時に氷の槍を作り、軽めに身体強化を発動して前進、エシャさんは俺の後ろで支援魔法を唱えて自身を強化してから攻撃魔法の詠唱を始める。


 俺達の迷いのない動きに相手は少し動揺したが、盾持ちと剣士が俺に向かってきて、弓使いがその後ろで俺に弓を構え、魔法使いが詠唱を始めた。


 俺は風魔法で魔法使いを牽制して詠唱を中断させ、焦った剣士が盾持ちより先に接近して袈裟斬りしてきたので、氷の槍で受け流して弓使いの方に転倒させる。


 それを見た盾持ちが身体強化を発動して接近してきたら、弓使いが盾持ちの後ろになるよう移動しながら盾持ちの攻撃を受け止めて対応、弓使いが俺を狙えず戸惑ったところにエシャさんの水魔法が発動して弓使いに当たり、場外に飛ばされる。


 盾持ちが弓使いの方を向きよそ見してしまったので、俺は槍で剣を弾き盾を蹴り上げ、がら空きになった腹部に槍の石突側で払い、物理的に場外へ吹き飛ばす。


 エシャさんは次の詠唱を既に始めていて、慌てている魔法使いにも水魔法を当てて場外に飛ばしたのを確認したら、俺も唖然としている剣士に風魔法で場外に吹き飛ばして終了。


「全員場外により、勝負あり!」


 審判が俺達の勝利を告げたので、一礼をした後俺達は魔法を解除して舞台を下りた。


「エシャさんナイス!最初はどうなるかと思ってたけど、上手くいったね」

「ライル君もお疲れ様!相手が止まってたから場外に飛ばしたんだけど、あれでよかった?」

「大丈夫だよ。魔力は温存できたし、今回は相手が集中力に欠けてたからね。次からの相手は俺達の動きに対応してくると思うよ」

「うん、私達の模擬戦、けっこう見られてたよね」


 周囲を見渡すと、俺たちを見てるパーティーがちらほらと…うん、気は抜けないな。


「そういうことだね。色々対策されるかもしれないから、次も油断しないでいこう」

「うん!」



 それ以降の模擬戦も気を抜かず戦ってたけど、最初の牽制とかの対策はされても苦戦することはなかったなぁ…


 1対1なら相手もいい動きはする。でも今回模擬戦した相手はパーティー同士の連携が微妙だったんだよね。

 一応待ち時間もあったけど話し合わなかったのかな?


 俺とエシャさんは事前に打ち合わせして戦い方と優先して狙う相手を決めてたから特に迷うこともなかったし、何かあればお互い声掛けしてフォローし合ってたからね。


 後衛職は俺が注意を引きつけ、孤立に近い状態にしたら主にエシャさんが魔法で場外に飛ばして数を減らし、前衛職は基本まとめて俺が相手をして、転倒させたり武器を弾き飛ばして一時的に離脱させ、俺かエシャさんが1人ずつ気絶か場外に吹き飛ばして決着という感じだ。



 3戦ほどして、次の相手は男子6人で全員前衛職というパーティーだ。


 1人だけいい装備で整ってる?多分どっかの高い身分の子とその取巻き達って感じかな?


「ライルとか言ったな?お前があのカイルさんとシェリルさんの弟か?」

「?そうだけど…それがどうかした?」


 いい装備の男子が兄さんと姉さんの弟か聞いてきたので、そうだと返事をすると聞いてた周囲の一部が驚き、男子6人は笑い出した…なんだ?


「ということは、お前が卒業式シェリルさんに抱きつかれてた恥ずかしい奴か!」

「…はぁ?」


 いきなり何を言いだすんだこいつ?意味不明なままエシャさんと顔を見合わせるけど、お互い首を傾げてわからない表情で相手を見る…


「…抱きつかれて恥ずかしいという部分は相手にもよるからまだ理解できるけど、いきなり笑うのは何?」

「そりゃ笑うさ!あの2人は凄い人達だったのに、お前はとんだ甘えん坊野郎だったってことにさぁ!」

「いや、そりゃ甘えるよ。兄さんと姉さんとは3年ぶりの再会だったし、一緒に話して、一緒に行動できたのもたった数日、その間に仲のいい兄と姉に甘えて何が悪いのさ?というか、外だったとはいえ家族との交流をジロジロ見てるんじゃないよ」

「な⁉︎」


 言い返されると思ってなかったのか、男子6人は驚いてだけど…なんなのさ?


「はぁ…で、あんたらは結局何がしたかったの?俺を笑い者にでもしたかった?…あ、ごめん。時間掛かるし返事もいいや。審判、開始の合図をお願いします」

「あ⁉︎おい!」

「分かった。両者、位置について」


 審判も痺れを切らしてたのか、すぐに対応してくれた。始まる前にエシャさんに確認とっておかないと…


「エシャさんごめん、あいつら俺が速攻で終わらせてもいいかな?」

「うん、大丈夫だよ。ライル君に支援魔法もかけるから、とっとと終わらせちゃって!」

「分かった、ありがとう」


 エシャさんが了承してくれたから思いっきりやれるね!体術でとっとと終わらせようか!



 開始の合図と共に身体強化を発動、そしてエシャさんからの支援魔法で更に強化。

 …おぉ!身体能力が底上げされてる?エシャさんと支援魔法凄いな!


 男子6人に一気に接近して、それぞれの顔面を流れるように1撃ずつ殴り飛ばし、場外まで飛ばして終了!

 あ、装備は壊さないでおいたよ。


「全員場外と気絶により、勝負あり!」


 審判に一礼をして俺達は舞台を下りた。魔法もここで解除だ。



「ありがとうエシャさん。支援魔法のおかげで想像より早く終わらせられたよ」

「うん、思い切り殴り飛ばしてくれたから私もスッキリした!」


 俺達のパーティー戦はこれで終わり。最後は微妙な始まりだったけど、笑顔で終われたからいいよね!

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