第11話
入学試験まであと2日。
今日は兄さんと姉さんに2人がよく利用しているというお店を案内してもらう日だ。その後に王都の冒険者ギルドに行く予定。
待ち合わせ場所や時間とかは決めてなかったので、朝食を食べた後は少しゆっくりしてから学校へ行こうかな。
朝の鍛練はせず、朝食後に荷物と槍の準備をして宿の1階でゆっくりしていると、案内の人が出掛けないのか聞いてきた。
今日は学校の知り合いに王都を案内してもらうことを話すと、納得して念のためということで許可証を渡してくれた。
俺は案内の人にお礼を言い、もう少しゆっくりした後出掛けることを伝え、宿を出た。
宿を出て学校の前まで行くと、制服姿の兄さんと姉さんが待っていた。
「おはよう、もう、遅いじゃないライル!」
「いや、集合時間決めてなかったし、俺達が早すぎただけだろ。おはよう、ライル」
「おはよう、それとお待たせ、兄さん、姉さん。朝早すぎてもお店が開いてないと思ったからゆっくりしてたよ。ごめんね」
「「…あ」」
「…ぷっ」
2人の反応に俺は笑った。2人はジト目になって頭を乱暴に撫でてきたが、楽しみにしてたみたいなので、俺は嬉しくて笑顔のまま2人の後をついていった。
移動中に先輩(予定)の2人について聞くと、昨日会ってお礼を言ったそうだ。しかし、その話を聞いてた他の学生が騒ぎ出し、先生も来て対応にも追われたそうだ。ちなみに俺の名前は言ってないって。ありがとう兄さん、姉さん!
「まずはこの武器屋だな。俺とシェリルはここで武器の修理や調整に見てもらってる」
賑やかな通りから少し外れた道を進んでいくと、兄さんが立ち止まり、そう言って店に入る。姉さんに続いて俺も入ると、その中には剣、短剣、槍、斧、盾など様々な武器が並んでいた。
これは…上手く言い表せないけど、すごいというのは分かる。この武器屋ならしばらく眺めているだけでもいいな!
「ガイウスさーん、武器を受け取りに来ましたー!」
「…おーう!今持ってくるから、少し待ってろ!」
姉さんが大きな声で言うと、少し遅れて店の奥から返事がきた。
武器を眺めながら待っていると、ドワーフの男性が兄さんと姉さんが一昨日使っていた武器を持って出てきた。なんか威厳というか、貫禄があるドワーフだな。
「待たせたな、シェリルの嬢ちゃんにカイルの坊主。調整は済ませたから、この後裏庭で確認してみてくれ…ん?…おい、この坊主は2人の知り合いか?」
「はい、俺達の弟です。ライル」
「うん。はじめまして、ガイウスさん、ライルです」
「おう、俺はドワーフのガイウスだ。ここの武器屋をやっている」
お互い挨拶をすると、ガイウスさんは俺をじっと見て、背負っている槍を見た。
「ほうほう……これは…ライル、お前の背負っている槍を見せてみろ」
「?…はい、どうぞ」
「ふむ……手入れも怠ってない、大事にされてる槍だな。お前さんの武器は槍か?」
「メインは槍ですね」
「ん?メインだと?」
そう言うとガイウスさんは兄さんと姉さんの方を見る。
「…ライルは俺達の武器の剣と体術も使えますよ」
「槍は…確かエルフの冒険者に学んだのよね?」
「そうだよ。風魔法を習う時に槍も学んで、それから槍がメインになったんだ」
「…なるほどな」
俺が2人と戦闘スタイルが違うのは今話題にあったエルフの冒険者の影響だ。
最初は俺も父さんと母さんに教わって剣と体術、氷魔法と雷魔法も使えるけれど、肝心の風魔法が両親は使えなかったため、辺境の町に来ていたエルフの冒険者に風魔法を習い、その人が使っていた槍を見て学んだ。
その人は1年前、俺がCランクに昇格した時に本気で戦い、風魔法と槍の実力を認められた後、辺境の町から去っていった。
実は俺はもうひとつ槍を持っている。本気で戦う時に使う槍だね。
その槍は別れ際その人からの餞別で、認められた証としてもらった槍だ。その槍はまだ完全に使いこなせているとは言えないけどね。
だからガイウスさんには申し訳ないけど、その槍は見せていない。
「…よし、ライル。この槍を持ってみろ」
「はい…ん?この槍…今使っているのより質がいい?あとちょっと重いんですね」
「お、わかるか。なら裏庭に行くぞ、嬢ちゃんと坊主、2人もついてこい」
ガイウスさんが一本の槍を俺に渡してきたので確認して感想を言うと、ガイウスさんは満足そうに傾き、全員で裏庭に行くことになった。
「さて、早速だがライル。お前さんがどれだけ動けるか見てみたい」
「いつもやってる鍛練でいいですか?」
「ああ、それでいい」
「カイル、私達はライルを見た後に武器の確認をしましょ」
「そうだな、手合わせしない代わりに見させてもらうか」
裏庭に移動すると、ガイウスさんから動きを見たいという要望があった。
俺は了解して裏庭の真ん中あたりに移動し、深呼吸して切り替え、槍を構える。うん、握りやすいな、この槍。
想定するのは…入学試験前だし大人の冒険者1人だな。
「…ふっ!」
1歩踏み出して中段に突き、すぐ槍を戻して上段、下段と何度も突く位置を変え、次に下段を薙ぎ払い、そこから上段、中段の払いも入れ、突きを戻さず相手が回避した方向に払ったりと繋げていく。
接近された時は回避と受け流しを続け、相手の体勢を崩せたところに体術も入れて距離を離し、槍の間合いになったら槍の攻撃を再開する。
それを5分くらい集中してやっていただろうか、俺は攻撃を止め、石突を地面に突き立てて3人を見る。
「…ふぅ。どうでしたか?」
「…はっはっは!!これは想像以上だ!3年前のお前らより上じゃないか?」
「…実際3年前の俺達より上ですね。今のを見て確信しましたが、今の俺達と同等レベルですよ。止まらないな、ライルは」
「うんうん、さすがライルね!今のは対人戦を意識してやっていたって分かったもの!」
ガイウスさんは笑い出し、兄さんは微笑み、姉さんは笑顔で言ってくる。とりあえず3人とも満足させられたようだ。
「それじゃあ次は私達ね!ガイウスさん、裏庭借ります!やるわよ、カイル!」
「ああ!俺達も負けてられないな!」
俺は2人と入れ替わるようにガイウスさんの側に移動する。その時姉さんには頭を撫でられ、兄さんには肩を叩かれた。
「おう、お疲れさん。いいもん見せてもらった。あいつらがお前を自慢するのがよくわかったぜ」
「え⁉︎そんなことしてたんですか⁉︎」
「くっくっく…ああ、ライルの坊主と妹だったか?よく話してたぞ」
2人とも何を言ったのさ⁉︎
「そうそう、その槍はお前さんにやる。今使ってる槍がダメになったら使うといい」
「……いいんですか?詳しくないですが、この槍、相当いいものですよね?」
「構わん。俺が作って気に入った奴に渡すんだ。誰にも文句は言わせん」
「…ありがとうございます!」
「おう!」
お礼を言うと、ガイウスさんはニカッと笑った。その後は2人とも武器の確認が終わったのか、満足そうな顔をして戻ってきた。
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