第12話

「それじゃあガイウスさん、武器に何かあった時はまた来ますね」

「おう!また来いよ!」

「「ありがとうございました!」」


 ガイウスさんに槍を貰い、兄さんと姉さんも武器の確認が終わったので、俺達は武器屋を出た。

 貰った槍は出る前に収納袋に入れておいた。さすがに槍を2本背負ってると目立っちゃうしね。



 人が多い通りに戻る前に、兄さんが俺に聞いてきた。


「なあ、ライル。収納袋は今2つ持ってるのか?」

「ん?そうだよ?ガイウスさんから貰った槍は俺が買った収納袋に入れたよ。精霊から貰った収納袋には予備の野営道具一式やお金とか、特に大事なものだけ入れて、基本あまり使わないようにしてる」

「ああ、その特殊な収納袋ばかり頼りにしないようにしてるのね」

「うん、そういうこと」

「あー、なるほどな。確かに特殊なやつだったな」


 俺の返答に兄さん、姉さんも納得して頷いた。シルフから貰った収納袋は、入れられる量こそお店にも並んでいるものだが、所有者登録できるものはこれまで見たことがない。と、父さんも母さんも言っていた。


 実際俺以外には使えないし、俺以外が強引に使おうとすると弾かれるし、離れすぎると俺の手元に戻ってくるという…かなり特殊すぎるものなので、非常用として使うようにしている。



 もうひとつ案内されたお店は有名な商会が経営しているそうで、入った建物は冒険者向けのところらしく、品揃えもポーションや野営道具、携帯食料、外套など豊富に並んでいた。

 店の中には制服姿の人も商品を見ていたので、初心者・学生向けのものも置いてあるみたいだね。


 道具関連でよりこだわった品が欲しい場合は、冒険者学校か冒険者ギルドで専門店を教えてくれるらしい。


 俺はなにも買わなかったが、2人はポーションなどを買って、この店を出た。




「で、ここが王都の冒険者ギルドよ。ライルのことだから、昨日建物は見たのでしょうけど」


 はい、姉さん正解です。

 案内してもらったお店はガイウスさんの武器屋と、冒険者向けの道具店の2カ所だった。

 他は自分で探すか、学校とかで聞けばいいしね!


 冒険者ギルドに入ると、中は様々な冒険者がいた。時間は昼食後、お昼過ぎに入ったので、昼の受付ピークは過ぎたあたりだろう。


 姉さんと兄さんがが見渡すと、目的の人を見つけたのかまっすぐ進むので、俺はその後ろをついていく。何人かの冒険者が俺達を見てくるけど無視だ。

 目的の人はどうやら受付嬢さんのようで、受付嬢さんも2人を見ると微笑んでいた。


 これは自己紹介と冒険者カードを見せることになるかな?…いや、冒険者カードは聞かれたらにしよう。


「ネリネさん、こんにちは」

「こんにちは、ネリネさん」

「こんにちは、カイル君、シェリルちゃん。一昨日紹介したい人がいるって言ってたけど、2人の後ろにいる子のこと?」


 一昨日という言葉に反応して2人を見ると顔を逸らした…あの後、2人はここに来たようだ。

 ネリネさんという受付嬢さんが俺を見てきたので、2人の前に移動して自己紹介をした。


「はじめまして。ネリネさん…でいいんですよね?俺はライルといいます。カイル兄さんとシェリル姉さんの弟です」

「はじめまして、ライル君。大丈夫よ。私は受付嬢のネリネ、王都の冒険者ギルドでは私が2人の対応をよくしているの。2人が紹介したいって言った理由が分かったわ」


 自己紹介すると聞き耳を立てていた周囲がざわつく。どうやら兄さんと姉さんはこっちでも有名なようだ。

 気になるのか他の冒険者や受付嬢が聞き耳を立て近付いてくるが、兄さんと姉さんが威圧を放つと、すぐ元の場所に戻った。


「…ごめんなさいね。カイル君とシェリルちゃんの2人は王都では有名な若い実力者なのよ」

「あー…そこは想定済みです。兄さんと姉さんの実力は知ってますし。おそらく勧誘も断ってるんですよね?」

「ふふ、2人のことをよくわかってるのね。もしライル君が勧誘されたらどうするの?」

「俺もすべて断りますよ?俺の場合は成人してからの予定は決まってるので。馬車の護衛の人から勧誘されましたが、断ってますしね」


 その言葉にまた周囲がざわついた。


「…なるほど、ライル君も注目される実力者なのね。入学後はすぐに依頼を受けるのかしら?」

「習いたいことや確かめたいことがあるので、それ次第ですね。もし依頼を受けるとしても、しばらくは王都内の依頼だけです」

「わかったわ。ありがとう、教えてくれて」

「はい、こちらで依頼を受ける時はよろしくお願いします」

「ええ、また会いましょうね」



 受付を離れ、俺達はそのまま冒険者ギルドを出た。周囲からの視線も酷かったし、利用する時に説明を聞くことにしたよ。


「ごめんね、ライル。思ってたより騒がれちゃったわ」

「大丈夫だよ、姉さん。俺も視線が鬱陶しかったし、基本は変わらないと思うけど、また来た時に説明を聞くよ」

「この後はどうする?まだ時間はあるが…」


 俺は気付いたことがあるので、2人に真剣な顔で話す。


「いや、2人は早めに休みなよ。依頼を受けてるんでしょ?元々今日は買い出しとかだったんじゃないの?」

「…気付いてたの?」

「ポーションとかを買ってた時にね。量的に明日か明後日には出発かな?」

「…明日から数日は王都を離れる。卒業試験も兼ねたCランクの依頼だな」

「だったら尚更明日に備えて休まなきゃダメじゃん。優先してくれたのは嬉しいけど。ポーションの量からして他の人もいるんでしょ?」

「…そこまでバレてるのね」


 2人が肩を落としながら俺を見てくるので、手を叩く。


「はい、じゃあ今日は解散ね。これあげるから途中で食べて」

「「これは…ライルの作ったクッキー⁉︎」」

「今はこれだけしかないから、食べすぎないよう注意してね」

「「わかった!!」」


 2人のやる気が復活した。よかった。

 これだけしかないと言ったのはほんとだ。宿には作ったのが置いてあるけどね。




 入学試験まであと1日。



 昨日は2人から別れ際に出発時間を聞いたので、学校前まで行って見送りに来ている。


「それじゃ2人とも気を付けてね。俺も明日の入学試験は頑張るから」

「ライルなら実力はトップレベルで評価されるでしょうし、油断だけはしないようにね!」

「それは姉さん達にも言えることだよ?2人で先走らないで、後ろの人達と足並み揃えて行動してね」

「あー…その点は気を付ける。俺達だけの試験じゃないしな」


 そう言って兄さんが後ろをチラッと見ると、3人のパーティーメンバーが目を丸くして俺達を見ている。

 …3年ぶりに再会して、ここ数日はテンションが高いのは自覚してるし、2人の様子も珍しいのだろう。


 ここで俺は話を切り上げ、声をかける。


「それじゃ、これ以上長話してたらその分帰りが遅くなるだけだろうし、兄さん、姉さん、いってらっしゃい」

「「いってきます!」」

「先輩達もいってらっしゃい。お気を付けて」

「「「い、いってきます」」」


 後ろのパーティーメンバーにも声をかけると、照れ臭そうに返事をしてくれた。



 見送った俺は宿に戻り、いつもの鍛練を終わらせたら寝泊まりする部屋で魔力操作の鍛錬をしてゆっくり過ごした。



 明日はここの宿の子供全員で行くらしいので、明日に備えて少し早めに寝た。



 明日はいよいよ入学試験の日だ!

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