第6話

 予定より早く街に着いたことでできた自由時間。


 集合場所は今いる冒険者ギルドで、集まった後、宿に行く。

 子供達の中には慣れない長旅で疲れてしまった子もいるので、昼食後、先に宿で休ませるそうだ。


 まだまだ元気な子はソワソワしながらも冒険者ギルドにある食堂で昼食を注文している。


 よし、まずは俺も昼食だな!

 はじめて来た街だから外で食べるのは確定。どこかの飲食店か、屋台があれば買い食いするのもいいな。ただ、この街に来てまっすぐ冒険者ギルドへ向かってしまったので、道が分からない…これは案内図を探すか誰かに聞くしかないな。


 昼食後はこの街の散策だ。これは予定を決めず散歩気分でゆっくりでいい。けど住宅街は興味ないから店が多い方面に行くようにしよう。


 あとは鍛練できる場所だね。せっかく冒険者ギルドにいるんだし、受付の人に聞いてみようか。



 そして自由時間の行動をある程度決めた俺は自分の荷物と槍を背負い、ギルドの受付へと向うと、それに気付いた受付嬢さんは微笑みながら挨拶をしてくれた。


「こんにちは。ようこそ、冒険者ギルドへ。君は…王都の冒険者学校の試験を受ける子、ですよね?どうされましたか?」

「こんにちは、受付嬢さん。そうですよ。合流する馬車がまだ到着してないそうで、自由時間になったんです。ボクはこの街にはじめて来たので、分からない部分が多く、聞きたいことがあるのですが…」


 俺がそう返すと、受付嬢さんは目を丸くしたが、すぐに微笑みに戻った。

 うん、この受付嬢さんはできる人だ…隣の受付嬢さん、多分会話が聞こえたんだろうけど、驚いた顔でこっちを見てるんじゃないよ!


「…聞きたいこと、というのは、この街についてでしょうか?」

「はい。昼食を飲食店か屋台で食べてみたいのと、その後はお店方面を散策したいと思ってまして、案内図みたいなものはありますか?」

「それでは…こちらをご覧下さい」


 そう言いながら見せてくれた紙は、丁度俺が欲しいと思ってたこの街の案内図みたいなものだった。


「この街は広く、はじめて来た方は迷いやすいので、ここ冒険者ギルドのような人が多く訪れる場所や、広場には街の案内図が常備されているんです」


 そう話してくれた受付嬢さんは、その案内図に冒険者ギルドの場所と、飲食店や屋台の多い場所、そして多くの店が並んでいる場所に印を付けて、こちらは差し上げます。と言って俺に渡してくれた。

 え⁉︎そこまでしてくれるの⁉︎


「あ、ありがとうございます!凄く助かります」

「ふふ、短い時間ですけど、楽しんで下さいね。他に聞きたいことはありますか?」


 おっと、感動しててもうひとつ聞きたかったことを忘れそうだった。


「はい、あとひとつあります。この冒険者ギルドには訓練所みたいな場所はありますか?」

「…訓練所、ですか?確かにこのギルド内にも訓練所がございますが…?」

「ありがとうございます。ボクのように散策した子が夕方冒険者ギルドに集合するんです。早めに戻ったら、揃って移動するまでは鍛練もしておきたいんですよ」

「…なるほど、既に冒険者としても活動されてるんですね」


 俺はそう言いながら冒険者カードを取り出し受付嬢さんに見せて渡した。この人ならきっと見ても騒いだりはしないだろう。


 冒険者カードを受け取り、確認した受付嬢さんは先ほどよりも大きく目を開いたが、深呼吸して持ち直した。

 うん、この受付嬢さんは凄いね。冒険者カードのあの項目を見て驚いてたみたいだし。


「…まさかもう「Cランク⁉︎12歳で⁉︎」…」


 受付嬢さんの言葉を遮るように騒いだ隣の受付嬢さん…ちょっと⁉︎気になるからってわざわざ見に来るんじゃないよ⁉︎


 ほらー!その声を聞いてギルドにいた冒険者や他のギルド職員さんもこっちを見てるじゃないか⁉︎

 とりあえず、頭を抱えてる受付嬢さんから俺の冒険者カードは返してもらった。


「…大変申し訳ございません。彼女には強く、強く!言い聞かせておきますので」

「あー…ランクについては王都の冒険者学校や冒険者ギルドでバレる情報なので、大丈夫ですよ。ただ、もし勧誘とかの問い合わせがきた時はこう対処してほしいのですが」

「ありがとうございます…どういったことでしょうか?」


 隣の受付嬢さんは他のギルド職員さんからのゲンコツを受けて退場。真剣な顔になった受付嬢さんにはこう伝えた。

 聞き耳を立てている人にも聞こえるように


「『既に予定が決まってるので、勧誘は全てお断りしている』ともし聞いてきた方がいたらそうお伝えて下さい」

「承りました。この件は他のギルド職員にも伝え、対処するようにします」

「よろしくお願いします。それと、これはお世話になったお礼と、驚かせてしまったお詫びです」


 そう言って俺は荷物からお菓子を取り出し、ポカンとした受付嬢さんに渡した。今回対応してくれた受付嬢さんはまったく悪くないからね。


「あの、このお菓子は?」

「これはボクが作ったクッキーです。御者さんや護衛の人、子供達にも好評だったので、味は保証しますよ?」

「…でしたらこれは他のギルド職員にも配って食べさせてもらいますね」

「はい、どうぞ。…それじゃあ、ありがとうございました。訓練所を利用する時は受付の人に声をかけますね」

「…はい、その時はまたお声かけ下さい……………あ、ほんとにおいしいわ」


 お互いに礼をして、俺は案内図を持ち受付から離れた。先程のやりとりを聞いてたのか、男戦士さんが見ていたので近付き、散策することを伝えてギルドを出た。



 散策は楽しかったよ!街は活気があって賑わってたし、昼食は馴染みのない魚料理を食べてみたら美味かった。

 街の中には風の精霊がいて、目が合ったら近付いてきた。精霊関連のことはまだ秘密にしておきたいので、風の精霊には風属性で作った魔力の球をあげて別れた。ごめんね。


 案内図を見ながらお店通りを散策してると様々な種族の人とすれ違った。エルフに獣人にドワーフ、魔族もいたね。冒険者らしき人は俺をチラッと見てきたりしたけど、それだけだ。


 お店で買ったものは下着と着替えの服、そして料理(主にお菓子)の材料と調味料だ。宿でキッチンを借りれるならお菓子は作っておかないとね。



 少し早いが、散策に満足したので冒険者ギルドに戻ることにした。またこの街に来た時にゆっくり散策しよう。

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