第28話

 召喚獣で見た目白い虎の女性?と戦うことになりました。


 それだけ聞くとどういうこと?としかならないんだけど、契約者である召喚士の先生を通して生徒達の模擬戦を観戦していて、その中で俺の強さが気になったんだと。


 

「少年、ルールはどうする?」

「訓練場を存分に使えますし場外負けはなし、俺がぶっ倒れるまででいいでしょう」

「ほう?勝つとは言わないんだな」

「いや、召喚された時から感じてましたけど、虎さんかなり格上でしょう?模擬戦という名のほぼ実戦ですから、ガッカリされないようぶつかるだけです」

「ほう!よく言った!ならアタシがどれだけ力を出していいか…」


 虎さんの雰囲気が変わった。俺も深呼吸して槍を構える。


「見極めさせてもらおうか!!」


 虎さんが俺に向かってきた、速い!


 俺はすぐに本気の身体強化を発動する。

 様子見なんて言ってられない!俺からも動かないとすぐにやられて終わるぞ!



 虎さんが前脚を振ってきたので槍で弾いて遠ざけ、離れたところでウインドランスを放つが避けられた。


「ほう!この程度なら難なく弾くか!流石に生身では分が悪い、身体強化!」

「っ!もう使ってきたか⁉︎」


 俺はすぐさま武装強化も発動する。開始早々に槍を壊されたらたまったもんじゃない!


 先程とは段違いの速さになって突っ込んでくる虎さん。次は前脚を横薙ぎに払ってきたので受け流す…が、一撃が重い!

 受け流しから槍を振るい、体の横に当たるが硬い!


「武装強化も使えるか!これは楽しくなってきたぞ!」

「それは、どうも!」


 効いてないな⁉︎なら今度は俺から攻める。


 槍を突き、払い、振るうが避けられ、駆け回る虎さん。槍で攻撃しながら風魔法も放ってるが、これもことごとく避けられる。


「まだまだ緩いぞ!そらっ!」

「くっ!ぐふっ⁉︎」


 風魔法を避けながら接近され、払ってきた前脚を槍で受け流したら身体を捻ってきて脇腹に一撃…吹き飛びつつ横目で見ると、尻尾か⁉︎


 駆け寄ってくるのが見えたから咄嗟に氷魔法で舞台を凍らせて_虎さんが滑った。


「ぬおっ⁉︎」

「っ!ふん‼︎」

「ぐっ⁉︎」


 吹き飛んだ俺は横転から立ち上がると同時に、滑って体勢を崩したまま至近距離になった虎さんの顎を下から殴り打ち上げる。


 ヒールを唱えて脇腹を治しつつ、虎さんを地面に下ろさないよう、風魔法を虎さんの真下から放って空中に吹き飛ばし、氷魔法と雷魔法の槍を回転させながら貫通力も上げて追撃を放つ、放つ、放つ!!



「…ククッ、ガアァァァァァァ!!!」

「うわっ⁉︎」


 虎さんの咆哮で魔法が掻き消された⁉︎虎さんそんなのもできるの⁉︎


 空中から下りてきた虎さんはいい笑顔…のように見える。うわー、毛先がちょっと焦げてたり不揃いになってる程度じゃん…


「ククッ、ハッハッハッ!咄嗟の対応!それにいい一撃と追撃だった!アタシの体毛を貫ける威力があるとは驚いたぞ!」

「…ふぅ、ここまで魔法が通用しないのは虎さんがはじめてなんですが…」


 もうAランク以上確定でしょこの虎さん…半年くらい前に戦った魔物よりやばいわ…あいつは空を飛べる厄介さがあったけど、まだ攻撃が通用してたからね。


「今ので魔法は十分。接近戦はどうかなぁ!」

「っ!」



 ここからは防戦一方だった。

 虎さんは前脚を振るい、払い、後脚や尻尾も入れてきてどれも1発が速く重い!


 何度も避け、受け流し、時には掠り、今の前脚の振り下ろしを受け止めると槍からミシ…と嫌な音がした。


「少年!まだ終わって…ないぞ!」

「ここで噛みついてくるか⁉︎」


 今の音を虎さんも聞こえたのか、今まで使ってこなかった噛みつきを槍に_バキンッ、と、くそっ!槍を折られた⁉︎


「っ!なら次だ!」

「お!おぉ⁉︎」


 折られた槍を片手ずつで持ち、武装強化に風属性を付与して擬似剣の二刀流で手数を重視の反撃、虎さんが離れたところに折れた槍を投げるが、虎さんにどちらも弾かれる……


「フン!この対応もやる…」


 が、即座に収納袋からガイウスさんから貰った槍を取り出し、身体強化と武装強化に風属性を付与して発動、動きが止まった虎さんに一気に近付き、渾身の一撃を虎さんの横っ腹に突き刺す!


「な⁉︎もうひとつ槍を持ってたか!」

「…げ、僅かに刺さっただけかよ…」


 …虎さんの意表を突くことはできたが、槍はほんの僅かしか刺さらず、ほんのちょっと血が出た程度で、これ以上いくら押してもビクともしない。


「おお!まさかアタシに傷を付けるとは、近接も相当やるな!…ところで少年」

「いや、ここからまったく動かないんですけど!…で、なんですか?」


 虎さんが顔を近付け、小声で話しかけてきた。


「これ以上の力を使う気はあるか?アタシとしては満足出来たし、周囲にも十分強さを認識させられたが」

「…虎さんには申し訳ないんですけど、これ以上の力を見せる気はないですね…まだ俺には負担が大きいから、格上との実戦以外では両親から使うのを止められてるんです」

「む、流石にそこまでして見る気はないな。ならここで終わらせようか」

「なら、精一杯抵抗させてもらいますよ!」

「ククク…そうこないとな!」


 仕切り直しのためにお互いに離れる。


「少年!終わらせる前に名前を聞いておこうか!」

「ライルです!」

「ライルか!これからの成長、楽しみにしてるぞ!」



 それからは虎さんとの力の差を見せつけられたよ。強さの段階を上げたのか攻撃は当たらない、動きも速すぎてほとんど見えなかった。


 精々これまでの経験から勘でヤバイ攻撃と急所を避けて少しでも長く足掻いた程度だった。


 徐々に攻撃を受け、魔力も少なくなった最後は前脚で顔面を叩きつけられて俺は気を失った。



 その後は医務室まで運ばれ、目覚めたのはその日の夕方だったよ。身体は気絶してる間に回復魔法をかけてもらったのか、傷や痛みはない。


 けど、ずっと使ってた槍が折れちゃったし、貰った槍も短時間とはいえかなり負担をかけたから、近いうちにガイウスさんの所に行って槍を見てもらわないといけないなぁ。

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