第27話

 教会の依頼を終えた次の日の朝、今日も学校は休みなので、俺は最小限の荷物と槍を背負って訓練場に来ていた。


 今回入った訓練場は、冒険者ランクC相当からそれ以上の実力者の人が利用できる時間帯の場所だ。

 他にはそういった強さの制限がなかったり、訓練生のみや的当てのみで訓練場が使われてる場所もあったね。


 今回はじめて利用するので、受付の先生に話を聞いてみたよ。



 主によくやっているのは生徒同士の模擬戦に、先生との模擬戦か、召喚士やテイマーの先生が来ている時は契約している召喚獣や従魔とも模擬戦をさせてくれるそうだ。


 今日は召喚士の先生がいるので、生徒同士での模擬戦か先生との模擬戦を選べるんだってさ。


 なら召喚士の先生との模擬戦一択だよね!



 訓練場の中に入ると、3つの舞台に分かれており、生徒同士の舞台が2つと先生とが1つだね。

 で、ここ出入口周辺が交流と待機場所ってなってるみたいだ。観戦も許可されてるようで、観客席にはチラホラと生徒もいるね。



「おや?はじめて見る顔だね。実力が上がった在校生か、新入生かな?」

「あ、新入生の1組です。今日ここに来たのがはじめてでして、召喚士の先生と模擬戦をしたいんですけど…」

「おおー、1組の新入生か!先生との模擬戦だね。それなら向こうが順番待ちの待機列になるから、準備しながら待っているといいよ」

「わかりました。あっちですね、ありがとうございます」


 俺は教えてくれた先輩にお礼を言い、召喚士の先生と模擬戦をする待機列に並んで待っていると、俺の番になった。



「ん?はじめて見る顔だね。新入生かい?」

「はい、1組のライルです。今日はじめてきました。よろしくお願いします」

「そうか、君が…最初の模擬戦はライル君の強さを確認させてもらうよ。それによって次から希望の強さの召喚獣を出すし、不相応なら制限もさせてもらうからね」

「わかりました」

「よし、それじゃあ始めるよ」


 俺が簡単に自己紹介すると、召喚士の先生は興味深そうな顔をした。多分実技試験の時の出来事が先生達でも話題になったんだろうね。



 へぇー、魔石を使って召喚するのか。そういえば契約した召喚獣だと、やられたらしばらく召喚できないんだっけか…うろ覚えだけど。

 魔石を使う場合、魔石を消費して魔物召喚する方法になるから、やられても魔石があれば連戦ができるって感じかな?


 召喚された魔物は…アイアンゴーレムか、全身が鉄でできたゴーレムで、魔物の強さでいうとCランク相当、使われた魔石がアイアンゴーレムの魔石だね。

 召喚されたのだと強いのか弱いのか分からないな…


 いい機会だし、まずはインパクトで様子を見てみようか。



 俺は身体強化を発動して、横に回り込むように接近、アイアンゴーレムは腕を横に振ってきたがバックステップで回避、背中を向いて隙ができたので背中の辺りにインパクトを3発当てて…


「「…あ」」


 俺と召喚士の先生の声が被る。

 インパクトが当たった部分は1発目でヒビが入り、2発目で割れ、3発目で近くにあった核ごと破壊されたのか、アイアンゴーレムはその部分から消えていき、いなくなった。


 インパクトはゴーレム相手に使える魔法だってのは分かったけど、流石にこれは予想外だよ!仕切り直しさせて!


「…先生、今のは俺も予想外だったので、次の順番では仕切り直しをさせて下さい」

「…そうだね。狙ってたのならともかく、ライル君も予想外だったみたいだし、仕切り直そうか。ひとつ言えることは、ライル君が放ったインパクトは実戦でも十分通用するレベルってことだね」

「え、そうなんですか?」

「ああ、僕が魔石で召喚してる魔物は本来と同等か、強い個体になるように召喚してるからね」


 あー、確かにそうだよな。

 本来より弱い個体で慣れてしまうと、いざ実戦では通用しない、効きが悪い、そして苦戦して大怪我、なんてことになりかねない…そうならないよう戦わせてくれてるようだ。



 俺は先生に一礼してから舞台を下り、次の人に交代してまた並ぶ。少しの間周囲から注目されてたけど、次の模擬戦が始まるとそちらに視線が移った。


 …けど、俺の前に並んでる男子が俺を見てるんだよね。何か聞きたそうな表情をしてる。


「なぁ、ちょっと聞いてもいいか?」

「大丈夫ですよ。先程の模擬戦に関してですか?」

「そう!あれってなんで始まってすぐにアイアンゴーレムが消えたんだ?ここからだと何をしたのか見えなくてな、魔法を使ったことくらいしか分からなかったんだ」

「あ、それ私も見えなかったから気になる」


 俺の後ろに並んだ女子も会話に入ってきたので、先程の模擬戦について2人に説明した。


「へぇ、無属性魔法のインパクトを何発も当てたらああなったのか」

「で、たまたま近くに核があって、それも破壊しちゃったと」

「だから俺も先生も驚いたんですよ。とりあえず分かったのは、アイアンゴーレムにインパクトは有効な魔法攻撃だってことくらいですね」

「内部にもダメージを与えられるっていうがよく分かってなかったけど、そういうことね!ありがとう!」

「それなら無属性魔法を選択して、習うのもいいかもしれないな…ありがとうな!教えてくれて!」


 2人にお礼を言われ、前にいた男子は順番がきて舞台に上がった。



 待っていると再び俺の番になったので舞台に上がると、召喚士の先生が何故か申し訳なさそうな表情をしている。


「…?先生、どうしたんです?」

「…ライル君、申し訳ないんだけど、僕が契約している召喚獣と戦ってくれるかい?」

「へ?俺は大丈夫ですけど…また急ですね」

「ありがとう。先程の戦いを僕の目を通して観戦していてね、ライル君の強さが気になったそうなんだ」

「そ、そうなんですか」


 そんな返ししかできないよ!目を通して観戦とか何さ⁉︎戦わせてもらうけどね!



 そして現れた召喚獣は白い虎だった。

 その虎が目を開け、俺を見ると口を開いた。


「少年!アタシと戦ってもらうよ!」

「「「「「しゃ…喋ったーーー!?」」」」」


 訓練場に大きな声が響き渡った。

 えー⁉︎召喚された虎から女性の声⁉︎どういうこと⁉︎


 他の生徒もこの虎が召喚されたことに驚いてるのと、喋ったことに驚いてるのと分かれているみたい。


 というか久々に感じるこのヤバイ気配!あの虎さん、B、ベテラン冒険者以上の強さは絶対もってるよ!



 周囲も気になるのか、生徒同士の模擬戦は急遽中断され、俺と虎さんの戦いを見るために慣れた感じで観客席に移動している。

 観客席の何人か、なんか持ってこっちに向けてるな…なんだあれ?


 今舞台には俺と虎さんに召喚士の先生しかいない。


「む?ガァァッ!!」


 突然虎さんが吼えると、観客席から破裂音が。なんか持ってこっちに向けてた人達が煙出して唖然としてるな…


「アタシと少年の許可なく映像保存の魔道具を使うとはなんだ!犯罪者にでもなりたいか!!」


 映像保存の魔道具⁉︎

 詳しくは知らないけど、かなり高価で、魔道具で見たものを残せるとかいう代物じゃなかったけ?


 ということは、この模擬戦を勝手に保存されそうになってたってこと⁉︎


「虎さんありがとう!そんな物があるなんて知らなかったよ。そんなことされてたら、途中で模擬戦中断するかやめてたね!」

「何⁉︎それはアタシも困るからやってよかったよ!」


 虎さんはお礼を言われて嬉しかったのか、耳と尻尾がよく動いている。


 魔道具を壊された生徒達が騒いでいるが、他の先生がやってきて全員連行された。まぁ理由はなんであれ自業自得だね。



 これでようやく虎さんとの戦いに集中できるな!

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