第29話

〈第三者・観戦生徒、先生視点〉


「………凄かった」


 ライルと召喚獣の模擬戦が終わり、観戦していた生徒の誰かが呟くと、開幕から静寂していた生徒達が喋り出した。


「あの新入生何者だよ…あの虎さん相手にあそこまで粘れるのか」

「あの虎さんとあれだけ戦えて、しかも1回目で名前を聞かれた生徒って、卒業したカイルさんとシェリルさん以来じゃないか?」

「噂ではその2人の弟らしいよー」

「多分間違いないと思う。卒業式の時あの2人と仲良く話してたの見たよ」

「あいつ、確か今年の入学試験で試験官を一撃で倒した奴じゃなかったか?」

「槍捌きも体捌きもすご…最後まったく見えなかったけど、接近戦極めていくとあそこまで対応できるんだね…」

「ランス系の魔法だと思うけど、イメージによる発動?威力も私達よりかなり高かったし、いったい合計で何十…いや何百本出したの…?」

「あの子絶対Cランクのレベル超えてるでしょ…」


 生徒達が先程の模擬戦とライルについて話し出す。


 召喚士の先生が召喚した白い虎は生徒達の中でも高い実力者と戦うことでも有名で、召喚されることは少ないが、毎回その模擬戦は見応えがあるものになりやすいため、模擬戦の途中でも中断して観戦に回る生徒が多い。


 更にその中でも名前を聞かれるのはごく一部、しかも今日はじめて来た新入生が最初に選ばれるとくれば更に注目される。


「2回目の選択授業の後にやる遠征にも参加するだろうから、知り合うチャンスだな」

「いや、あれって先生達が組むメンバー決めてるから狙って組めるものじゃないでしょ…」

「それより授業か依頼でギルドにいる時話せる機会の方があると思いますよ」

「次訓練場に来た時は彼と手合わせしてみたいなぁ…」


 そんなライルの模擬戦を見た生徒達の反応はバラバラ。


 純粋に凄いと思う者、驚きを隠せない者、自分も負けられないと思う者、その強さに納得いかない者、どんな人か気になる者、パーティーに誘いたいと思った者…様々だ。



 それは模擬戦前の出来事で応援に来た先生やライルが模擬戦をやると聞いて見に来た先生も反応は様々だった。



「…いやぁ、授業で魔法の撃ち合いした時にその片鱗は感じてたけど、正直想像以上だったねー」

「たまたまライルが模擬戦すると聞いて見に来たが、あれでまだ12歳か…」

「もう大人顔負けじゃない…あの動き、相当魔物との実戦経験も積んでるわよ、ライル君」


 グレイシア、アーシュ、アーシアの3人は並んで生徒のいない観客席側からライルの模擬戦を見ていた。


「おや?アーシュ先生とアーシア先生はライル君と知り合い…あ、精霊の授業かな?」

「そうだ、珍しかったのもあるが、精霊についてかなり熱心に聞いてくれたのもあって、それから気にしている」

「双子のカイル君とシェリルちゃん以来なのよね。あそこまで真剣に聞いてくれたの」

「おや?カイル君とシェリル君とも知り合いだったのかい?」


 その言葉に3人は顔を見合わせる。



「私達は2年前に精霊の授業でカイル君とシェリルちゃんと知り合ったのよ」

「そういえば弟が精霊に強い関心を持ってるって言っていたのを覚えてるな」

「私は3年前の新入生の時と去年の最上級生の時の担任でね、あの2人は入学当時から卒業まで学校のトップクラスの実力だったよ」

「確かに、この学校や他国の冒険者学校との合同大会でもトップクラスで、ペアの部門では3年間1位を独占してたわね」


 カイルとシェリルについて3人の話は盛り上がる。


「2人と話をしてるとよく出てくるのが3歳下の弟と5歳下の妹のことでね、特に弟は自分達と同じ実力だって言っていたんだよねー」

「3歳下の弟か、確かにそんなことも言っていた…ん?ちょっと待て」

「…え、もしかしてその弟ってライル君のことなの?」

「お、気付いたかい?アーシア先生の言う通り、ライル君はカイル君とシェリル君の弟だよ。2人から卒業時に直接教えてくれた話だから、間違いないねー」


 グレイシアの言葉にアーシュとアーシアは目を丸くしたが、すぐ納得したような顔になった。



「…あの兄姉の弟か、ようやく合点がいった。だから精霊が見えてなくても授業を受けてたのか」

「そんな繋がりがあったなんて…まだライル君が言ってないこと私達に話してもいいの?」

「自分から言う気はないみたいだけど、今なら聞かれたら普通に教えてくれると思うよ?卒業式の日には学校近くの宿で3人仲良く話してたみたいだしね」


 そう言ってグレイシアは考えこむ。



「…そうなるとライル君がここで調べたいと言っていたのは精霊に関してのことみたいだね。ライル君は精霊と知り合えるのかな…?」

「…それについては心配いらないぞ」

「んん?それはどういう…いや、え?もしかして、もうライル君は王都にいる精霊と知り合いになったのかい?」

「…そうなのよ。ライル君は王都にいる風の上位精霊、フリージア様と知り合いになったその日に精霊の授業を受けに来たのよ…あれはホントビックリしたわ」


 アーシュとアーシアはその日のことを思い出したのか苦笑いになり、グレイシアは予想外の展開に驚き、笑い出した。


「…あっはっはっ!ライル君の行動というか縁というか、面白い子だよ!」


 グレイシアが笑うのを止めると真剣な顔になった。アーシュとアーシアはグレイシアを見て不思議そうな顔をする。


「ほんと、あの2人が心配する訳だねー。王都で精霊と知り合って、授業で知識を得たなら、次は同年代の他種族との交流になるかなー?」

「…それはまだ早いんじゃないか?遠征の結果次第とはいえ、始まってすらいないんだぞ?」

「あ、それはなんか分かる気がする。ライル君のことだから遠征もトップクラスの評価をされると思うわ。確か前の休みに王都近くの森で、オークの巣を小規模とはいえ1人で壊滅させたのよね?」


 その話を聞いたアーシュが目を丸くする。


「…初耳なんだが」

「ついでに付け足すと1日で壊滅させたそうだよ、確認したギルド職員の報告によると、オークと巣は見事な手際で焼却処理されてたそうだよ。しかも森の被害はゼロときた」

「氷魔法を使ってたし、それで壁を作って戦ったのかしら…アーシュはもう少し他の先生やギルド職員と話をした方がいいわよ」

「ぐ…善処する」

「はぁ…」


 アーシアは呆れ、アーシュは無表情になる。そのやりとりを見てたグレイシアは微笑んでいた。



「それで、おふたりにはライル君のことでお願いというか、協力してほしいことがあるんだ」

「…それはさっき2人が心配してるというのに関係あるのか?」

「そういうことだね。私はカイル君とシェリル君にライル君を見ててほしいと頼まれていてね、担任になれたから色々話すことはできるんだけど、精霊に関してだと私は力になれないんだ」


 私は精霊が見えない人間だからね。と少し肩を落として話すグレイシア。


「だから精霊が見え、おふたりに協力してほしいんだ」

「あ、そういうことね。それなら別にお願いされなくても、精霊と仲良くなれるライル君とは最初に会った時に力になるって決めたから大丈夫よ」

「フリージア様と接していた時は仲の良い友達みたいだった。精霊を詳しく知らなかったのもあるだろうが、ライルのような存在は精霊にとっても貴重だ」

「だからエルフの私達でもライル君は気になるし、協力したいと思ってるのよ」

「だとしてもありがとう。それなら精霊に関してのことは何かあればお願いするよ」

「ええ、任されたわ」


 グレイシアとアーシアはお互い微笑みながら握手をした。


 こうしてライルの知らないところでそんな協力体制ができたのであった。

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