第49話

「はぁっ!」

「っ!」


 ディーン先輩の剣とミーア先輩の弓矢による攻撃で、金属同士のぶつかる音が何度も響く。


 クレア先輩がアイアンゴーレムの正面に立って注意を引き、俺とアイリス先輩は主に上級生2人の攻撃のサポートをしながら控えめにダメージを与えていく。


 上級生2人の攻撃は確実にダメージは入っているんだけど、多少の傷やひびが入った程度なら少しずつ修復してしまうため、倒しきるまで時間が掛かりそうだな。


 アイアンゴーレムみたいな硬い魔物は、物理系で戦う人間の低ランク冒険者にとってはひとつの壁みたいな相手だ。

 装備はもちろん、身体強化や武装強化による自己強化、エシャさんやアイリス先輩が使う支援魔法による強化等、力任せだけじゃなく技術や工夫も必要になってくる相手なので、いい経験になる。



 武装強化を修得した頃、両親に連れられてロックゴーレムやアイアンゴーレムと攻撃魔法なしで兄さん姉さんと、時には1人で戦わされたなぁ…

 慣れてきた頃には木剣やら手甲と代わりの布を手足に巻いて武装強化を使った戦闘キツかったけど、倒せるようになった頃には身体強化と武装強化はかなり扱いが上手くなったと実感したね。


 先輩達に武装強化を習得した頃の話をした時は驚かれて少し引き気味に王都ではそんな事しないと言われたけど…


 それなりに自信があった武装強化は虎さんに殆ど通用しなかった時はほんとにびっくりした。

 それ以降の鍛練や授業で武装強化を使える時は積極的に使用してる。


 そんな事を思い出しつつ今回、事前にアイアンゴーレムとの初戦は上級生の2人がアタッカーとなってどれだけ戦えるか確認するのと、経験させるのも目的だ。

 なのでアイリス先輩の指示があるまで俺はサポートを中心に行動している。



 戦闘を開始してから30分ほどが経ち、アイアンゴーレムは修復が追いつかず、体のあちこちに傷が増えて動きも鈍くなってきたが、まだ倒せそうにない。


 上級生2人の体力はまだ大丈夫そうだけど、倒せないからか少し焦りがでてきたかな?そろそろ俺もアタッカーに回ろうかと思い始めていたら、アイアンゴーレムが両腕を上げたところで攻撃のチャンスと思ったのか、アイアンゴーレムの後ろ側にいたディーン先輩が離れた位置からまっすぐに突っ込む。


 ここで焦りの影響が出たか⁉︎

 攻撃後の隙ならともかく、攻撃前の動作に突っ込むのはちょっとまずい!


「ミーア先輩!俺はディーン先輩のフォローに入るので、攻撃の準備だけして警戒しつつ、このまま待機で!」

「わ、わかりました!」


 急ぎ後ろにいるミーア先輩に声を掛けながら身体強化に風属性を付与して移動速度を上げ、すぐにディーン先輩とアイアンゴーレムの間に割り込むように走りだす。

 下手に攻撃を当てて予想外の動きをされても困るし、確実に受け止めるなら氷の壁より槍の方がいい!


「っ!ディーン君、止まりなさい!」

「…え?」


 動きに気付いたアイリス先輩からの静止の声でディーン先輩は止まってくれたが、アイアンゴーレムの攻撃が届く範囲内で止まってしまった。

 アイアンゴーレムはそれを狙ったかのようにその場で回転しながら両腕を振り下ろしてディーン先輩を吹き飛ばそうと…


「させるか!」


 …する前に間に合った俺はディーン先輩の前で止まって槍を構え、斜め上から振り下ろした片腕を槍で受け止め、腕に衝撃がくるのと同時に大きな音が響く。


 そこから俺を押し潰そうとする腕を抑えつつ周囲を確認すると、クレア先輩も片腕を盾で受け止めて抑えようと動いていたみたいだ。


「ディーン先輩、怪我はありませんね?」

「ラ…ライル君…」


 後ろにいるディーン先輩が俺に話しかけようとしたところにアイリス先輩の指示が飛ぶ。


「…ディーン君とミーアさんは私の所へ!ライル君、トドメをお願い!」

「「は、はい!」」

「わかりました!クレア先輩!槍で倒すので、そこから離れて下さい!」

「わかった!」


 指示を聞いた上級生2人はすぐにアイアンゴーレムから離れてアイリス先輩のいる所に移動し、俺はクレア先輩に次の行動を伝えると、クレア先輩もアイアンゴーレムから後ろに跳び、すぐに離れていった。


「よし……ふっ!」


 先輩達の移動を確認した俺は受け止めているアイアンゴーレムの腕を槍の向きをサッと大きく変えて柄の部分で滑らせるように受け流した。

 俺を押し潰そうとしていたアイアンゴーレムはその場で留まれず、前に倒れ込むようにバランスを崩した。


「しっ!」


 俺はそこから斜め前に踏み込みアイアンゴーレムの横に回り込むのと同時に腰を捻り、ガラ空きとなった体に槍を薙ぎ払い…アイアンゴーレムの体がふたつに分かれながらそのまま倒れる。


 …見つけた!


 そして斬った下半身の部分から体とは色の違う核が見えたので、動かれる前に攻撃できる位置に回り込んで核に突きを放つ。


 その槍の一撃はアイアンゴーレムの核を正確に貫き、パキン、と音を立てて割れた核はアイアンゴーレムの体から落ちた衝撃で破片となって砕けた。


 地面に落ちただけで砕けたか。すんなり体が斬れたと思ったら、アイアンゴーレムの方はかなり消耗してたみたいだ。



「…これでアイアンゴーレムの討伐は完了ですね」


 アイアンゴーレムの核を拾った俺は先輩達に砕けた核を見せながらそう告げた。

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風の(大)精霊と友達になったらいつの間にか加護をもらってました ホクティ @MarimoMegurine

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