第16話

 カイル兄さんとシェリル姉さんが冒険者学校を卒業して故郷へ帰った2日後。俺は冒険者学校の入学式に参加し、今は1組の教室に移動している。



 え?理事長からのことば?

「自身の目指す冒険者の道を探し、進んでくれ!」みたいな感じだったよ。

 確かに冒険者と言ってもやってることや、やりたいことは様々だしね。


 故郷を守るため、家族を守るため、ダンジョンに挑むため、高ランクを目指すため、有名になるため、稼ぐため、強くなるため、身分証明のため…世界を旅するため……パッと思いついたのをあげてみたけど、ほんとに色々あると思う。

 最後のは俺だけどね。



 考えながら移動してると、1組と書かれた教室に着いた。中に入ると既に何人かの子が座っている。

 俺は窓側の前の席にしたよ。空が見れるからね。


 徐々に席が埋まり、全員が座って少しすると、1人の女性が入ってきた…この人、俺が戦うのを避けた女試験官さんじゃん!


「お、全員揃ってるねー♪私はこの1組の担任になったグレイシアだよ。これからよろしくね♪」


 女試験官さん…グレイシア先生は軽い感じで笑顔で挨拶してきた。試験の時と喋り方が違うけど、これが普段の喋り方なのかな?


「それじゃあ、早速キミたちにも自己紹介してもらおうか。まずは…キミからお願いね」


 そう言ってグレイシア先生は窓側の前の席…はい、俺ですね。俺を見て自己紹介するよう言われたので席を立ち、教室の中央に体を向ける。


 話すのは…冒険者だし戦闘スタイルと学校に来た目的、あとは予定かな…


「はい、あー…はじめまして、俺はライルです。冒険者ランクはC。基本は槍と体術の近接、それと風魔法で戦います。この学校に来たのは調べたいことと、故郷では学べなかったことを学ぶためですね」


 そこまで言って一度区切る。殆どがポカーンと口を開けて俺を見ている。グレイシア先生が面白そうに俺を見て質問してきた。


「おや?座らないけど、他に伝えたいことでもあるのかい?」

「はい、俺は既に成人したらやりたいことが決まってるので、勧誘はすべてお断りなんですよ。だから大人の冒険者や貴族、国が観戦・勧誘目的で来るような大会は基本参加しませんので、よろしくお願いします」

「へ?……くっ、あっはっは!いいねー!ライル君は既に卒業後の道を決めているのか!実力だけじゃなく、目標にも向かって進んでるようだ!」


 そう言って俺は座った。グレイシア先生は一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を崩して笑った。他の子は唖然として俺を見てるよ。


「じ、実力が進んでるってどういうことですか⁉︎」


 1人の男子叫び、俺とグレイシア先生を交互に見る。


「ん?そのままの意味さ。実技試験の時ライル君と同じグループだった子は見たと思うけど、彼は試験官を一撃で場外まで蹴り飛ばし、気絶させて勝利している」


 その返答に唖然とする男子。あの、早速自己紹介が止まってるんだけど…と思ったらグレイシア先生が手を叩いて注目させる。


「はい!自己紹介が止まってるから続けるよー!次はライル君の後ろの子。お願いねー」

「は、はい!」


 自己紹介が再開される。他の子は基本名前と戦闘スタイルを話す。

 中には高ランクを目指してるとか、有名になりたいとか、目標をもってる子はそれも話してるね。



 お昼前、全員の自己紹介が終わったので寮に移動することになった。授業についての説明は明日だってさ。

 はじめて寮に入るので、お昼の後は寮内の施設や部屋の確認に使うように、ということだろう。


 寮は男女別になっているので、俺は男子寮に向かう。

 おおー!寮もでかいな!


「新入生が使う寮はここだー!受付に名前とクラスを伝えてから寮内に入るようにしてくれ!」


 制服の男子が俺達新入生に呼びかけている。俺はそのまま空いてた受付の前に移動して、名前とクラスを伝えた。


「はい、1組のライル君ですね。確認なのだけど、ライル君は1人でも生活できる?」

「え?はい、できますよ?家の手伝いもしてたので、家事もひと通りできます」

「あ、それは助かるわ。それならライル君は…ここの1人部屋ね。それとこれがその部屋の鍵になります」

「ありがとうございます」


 寮の案内図と部屋の鍵を受け取って寮に入り、指定された部屋の鍵を開けて入った。

 この部屋はベッドと机、棚と…キッチンがある!いちいち借りなくても料理ができるね!


 整理をある程度終わらせて案内を見ると、寮には食堂と浴場・大浴場があるそうだ。基本は大浴場を使うことになるけど、浴場は身分の高い人や、大人数や騒がしいのが苦手な人なんかがよく使うみたい。


 食堂は朝と夕方に決められた2時間ずつの希望制で、訓練期間中は無料だが、冒険者として活動できるレベルだと判断されたら有料に変わるそうだ。


 俺の場合はもう仮冒険者になって稼いでるから有料だね。


 だから夕食の時お金を払おうとしたら、新入生は30日間は稼いでいる子も無料だよ!と食堂の人に言われた。

 なら少しでもお金は貯めておかないとね。


 その後は大浴場でさっぱりして荷物整理の続きをしてから寝た。

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