第42話

「へぇ、昨日は日帰りで森の深部まで行って依頼を受けたのね」

「はい、選択授業がなかったので、行きと帰りも身体強化をかけて早く移動して、討伐系と採取系の依頼を受けてましたよ」

「受けてたって…ということは依頼も終わらせたのね…」


 無属性魔法の授業から2日後、今日と明日は学校が休みなので、予定通り朝早くから先輩達と集まり、訓練場で陣形や戦い方を決めて試す日だ。


 …とは言ってもそれぞれの戦闘スタイルを考えると、陣形はほぼ決まってるようなものだけどね。


 まだ全員揃っていないので、待っている間はアイリス先輩と雑談をしていた。クレア先輩はアイリス先輩の側で控えている。


 朝から訓練場前に集まり、全員揃ったら観客席に移動して、話し合って決めた基本の陣形と主な役割はこんな感じ。



 ◯前衛

 ・クレア[タンク]

 ・ディーン[近接アタッカー]


 ◯中衛

 ・ライル[遊撃とアタッカー]


 ◯後衛

 ・アイリス[サポーターと指示出し]

 ・ミーア[遠距離アタッカーとヒーラー]



 俺が中衛なのは、このメンバーの中ではどの距離でも戦えて、対応できるからということで選ばれた。


 遊撃なので、前衛に回ったり後衛への攻撃を防いだり魔法で相手の妨害をしたり回復の補助に入ったりと、色々できることはあるけど、陣形を崩さないように立ち回りの注意もしないといけない。



 基本の陣形と立ち回りを決めたら、観客席から舞台側に移動して同じ目的のパーティーと軽く手合わせをしつつ、互いに意見交換をしていった。


 最初こそ連携に戸惑ったり上手くいかなかったりしたものの、そこはCランク冒険者、その日の昼過ぎにはそれなりに連携できるようになり、夕方頃にはスムーズに動けるようになったんじゃないかと思う。


 パーティーメンバーだけじゃなく、手合わせした相手のパーティーからの意見も聞き、何戦もやって試したというのと、なんか多くの先輩達が集中して取り組んでたというのもあるね。


 気になったので聞いてみたけど、詳しい内容までは教えてくれなかった。

 教えてくれたのは、今回の遠征の評価で、次の行事に影響するということだけ。


 内容まで教えないのは、今回遠征に参加してる上級生以上はそれも評価に入ってるからだって。

 …情報漏れは信用問題にも関わるから、その練習も兼ねてかな?調べてみてもいいけど、そうすると俺にも影響がありそうだからやめておこう…




 翌日も引き続き他のパーティーと手合わせをして連携や立ち回りの確認だ。


 ちなみに2日続けて入っている訓練場は、期間限定で今回の遠征参加者が利用できる場所になっている。

 だから時々クラスメイトも見かけるし、利用者してるパーティーも多いから手合わせする相手をすぐに探せるのは助かるね。


 お昼には観客席に移動して料理ができる俺、クレア先輩、ミーア先輩がそれぞれ弁当を持ってきて食べた。

 クレア先輩とミーア先輩は普通に作った料理で、俺は野営時に作ってる料理だ。


 食べ終わった後にそのことを伝えると4人とも、特にクレア先輩が驚いてたね。


「3人とも美味しかったし、ライル君のは言われるまで気付かなかったけど、なんでわざわざ野営で作るような料理を持ってきたんだい?」

「俺は氷魔法で食材を冷凍・冷蔵保存して持ち運べるので、事前に食材を持っていけば野営でも普通の料理に近いレベルのを作れるというのを早いうちに伝えておきたかったんですよ」

「あぁ、成程。それは確かに早い段階で聞けてよかったね」

「…ん?ライル、氷魔法で凍らせて冷凍するのはわかるが、冷蔵する場合はどうやってるんだ?」


 ディーン先輩に説明してると、気になったのかクレア先輩も加わって聞いてきた。


「俺の場合は氷魔法で作り出した箱の中に入れる方法ですね。氷の箱を作ってその中に食材を袋別にして収納袋に入れて保存するんです。こんな風に」


 そう言って俺は氷魔法で氷の箱を作り出し、片付けた昼食の容器を箱の中に入れ、蓋をしてからクレア先輩に渡した。


 ディーン先輩とクレア先輩は氷の箱をまじまじと見つめ、氷の箱を受け取ったクレア先輩は様々な角度から見だした。


「イメージによる発動ならではの発想だな…見た目より重くないし箱の外側はこうして触ってても冷たくない…中は?…冷えてるな…どうなってるんだ?」

「箱の外側は魔力の膜みたいのを作って触れても冷たくならないようにして、箱の中身はその膜を薄くして冷気の流れを調整してるんです」

「成程な…これで通常よりも長い期間食材を腐らせず持ち運べるのか」

「え?そ、それって難しくないんですか?」


 クレア先輩から氷の箱を受け取ったミーア先輩が氷の箱を見ながら聞いてきた。


「そこはもう慣れましたよ。最初は冷やすつもりが凍ってたり、氷の箱を触ると冷たかったりなんてよくありましたからね」


 当時の事を思い出して苦笑いしながらミーア先輩の質問に答える。


「だから食材だけじゃなく、飲み物も箱の形を変えて作り出せばその中に入れて冷やせるので、出発前の買い出しする時とか、必要なら言って下さいね」

「飲み物もできるのね…食材に関してはお言葉に甘えて利用させてもらうわ。ありがとう、ライル君」


 アイリス先輩は少し考えた後、有効利用すると決めたようで微笑んでお礼を言われた。



 そんな話をしてると時間も経っていたようで、舞台では手合わせしてたり順番待ちしてるパーティーが多くなっていた。


 それに気付いた俺達は昼休憩を終わらせ、パーティーでの手合わせを再開した。




 それから早くも10日が過ぎ、遠征先と依頼の内容が発表される日になった。


 朝の出席確認と連絡事項が終わったら食堂に移動して、ディーン先輩とミーア先輩の3人で依頼を持ってくるアイリス先輩とクレア先輩の2人を待っている。


 ちなみにそれまでの選択授業の方は特に変わらず、光と闇魔法は紺の修道服先生から個別でみっちり教わり属性魔法の技術の向上。

 回復魔法は時々ヒールを復習しながらキュア系を練習中、無属性魔法は獣人先生から魔弾を教わってインパクトと一緒に練習している。


 学校が休みの日も引き続き訓練場で手合わせをして連携の確認や練習をしてた。


 選択授業が入ってない空いた時間は1日なら日帰りで森の深部、半日なら王都内の依頼を受けて過ごした。


 それで王都内の依頼を受けてる時、久しぶりに風の上位精霊のフリージアさんに会えたんだけど、なんか元気がなかったんだよね。


 話を聞いてみると、どうやら以前フリージアさんに渡した風属性の魔力を少し込めたクッキー、あれを最上位精霊に渡すことになってしまい、殆ど食べられなかったんだって。


 だからまた会えた時用に作っておいた風属性の魔力を少し込めたクッキーを渡したらかなり喜んでくれたよ。

 風以外にも雷と氷属性の魔力を少し込めたクッキーも作ってみたので、感想を聞いてもらうようお願いして渡してからフリージアさんと別れた。

 味の良し悪しは確認しておきたいからね!



 10日間にあった出来事を思い出しながらも上級生2人と雑談して待っていると、最上級生の2人が席に近付いてきた。

 …うーん、2人ともちょっと浮かない顔してるな。厄介な場所か魔物がいる所かもしれない。


「お待たせ。遠征先と私達が受ける依頼を持ってきたわ」

「お疲れ様です。おふたりとも浮かない顔してますけど、何かあったんですか?」

「…そうね。まずは遠征先と依頼の内容について伝えましょうか」


 ディーン先輩が聞くと、アイリス先輩が俺達に見えるよう依頼の紙をテーブルに置いた。


「私達の遠征先は鉱山、依頼のランクはC、内容はそこで鉱石類の採掘と、アイアンゴーレムかスチールゴーレムの討伐になるわ」

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