第25話:洞窟攻略 8

「……よーし! 終わったー! いやー、疲れた!」


 その直後に緊張感のない声を張り上げるので、すぐに肩の力が抜けてしまったが。


「……はぁ。それにしても、リンジはすごいですね」

「ん? 何がすごいんだ?」

「レベル100越えが多い中、普通に戦えています」

「もうすぐレベル300越えには何とも言えない褒め言葉だな。レベルの話も出たことだし、一度レベルの確認をしてみるか!」


 ウキウキ気分でそう口にした麟児を見るのにも慣れたマグノリアは苦笑を浮かべ、二人共にステータスを確認する。

 すると、リンジがレベル299、マグノリアは一気にレベル91まで上がっていた。


「俺も一つ上がったぞ! 大台まであと一つ!」

「レベル300って、過去の文献を読み解いても出てこないと思いますけど」

「まあ、俺は別の世界線からの人間ですし、仕方がないという事で!」

「……そういう事にしておきましょうか」


 肩を竦めて返事をしたマグノリアに対して、麟児は快活な笑みを浮かべる。


(他の勇者たちと一緒にいたとしても、こうして笑えていたのかな。……いいや、ないか。あいつらは俺が追放される時に、さらに追い打ちを掛けてきた奴らだしな)


 転移させられた当初は復讐したいと思っていた麟児ではあるが、今ではそのような感情を忘れてさえいた。

 洞窟の攻略中だからという風にも取れるが、バールバーンでの賑やかなやり取りのおかげで忘れていたとも思ってしまう。


(……俺、追放されてラッキーだったかもな。幸運の能力値も100だし)


 レベルが上がっていく中で気づいた事だが、幸運の能力値だけは最初から一切変わっていなかった。


「……なあ、マグノリア」

「なんですか? また規格外になられたとか?」

「いや、なんだよ、その反応。ただの質問。幸運の能力値ってどういう意味なのかなって」

「幸運? ……どうでしょう。運が良かった悪かったで何かをした覚えはありませんので」

「そっか。マグノリアの幸運20ってのは高いのか?」

「あくまでも魔族基準ですが、普通だと思います。村長は30だと聞いた事がありますが、それで少し高いのではないかと。リンジの能力値はどうでしたか?」

「あれ、見てなかったのか?」

「……他の能力値が異常すぎて、見落としていたんです」


 何故かジト目を向けられてしまい申し訳なくなった麟児は苦笑いを浮かべながら答えた。


「えっと、100だな」

「……はああああぁぁ」

「な、なんだよ、そのため息は!」

「いえ。何だかもう、驚かないと思っていたのに、驚いてしまった自分へのため息です」

「それは相対的に俺にため息をついているのと同じだからな!」


 マグノリアの反応に文句を口にする麟児だったが、次の言葉に幸運とは何なのかと考えさせられてしまう。


「だが、あまり能力値に関係はないのではないでしょうか」

「どうして?」

「私の幸運20は普通と言いましたが、リンジと出会えた事は私の人生の中で一番の転機です。このような出会い、同じ幸運20の者はしてこないはずですから」

「俺と出会えた事が幸運なのか? 人族が召喚した巻き込まれ勇者だぞ? 面倒に巻き込まれるかもしれないんだぞ?」

「これだけレベルが上がったのですから、巻き込まれても十分採算は取れているかと」

「そんなもんか?」

「はい。そういうものです」


 本人が言うのだから間違いないかと思い、麟児は再び自分のステータスに目を向ける。

 レベル299となり強くなっているものの、新しいスキルは得られていない。さらに、ストックは数を減らしてきている。

 十九階層には何度も足を運んだのでよく覚えており、二十階層へ繋がる階段はもう近い。

 このまま向かってもいいのだが、そこも十九階層同様に変わっていると考えると、モンスターが巣食っている可能性も少なくないのだ。


「最初の頃は、一匹もモンスターなんていなかったんだけどなぁ。……いや、いたか」


 すでに死んでいたものの、モンスターは一匹だけ存在していた。

 その死体を喰らい、最初の空腹を逃れたのだから。


「……あれ? 他に階段はなかったし、やっぱり二十階層が最下層? って事は、あの死んでいたモンスターがここの主、だった?」

「どうしましたか、リンジ?」

「いや、その……俺、もしかしたら、ここの元主を喰らってたかも」

「……はい?」


 マグノリアとベラギントスには転移させられた経緯を説明していたが、わざわざ空腹を解消するために死んでいたモンスターを喰らった、などという説明まではしていなかった。

 むしろ、それ以降に判明したレベルの変化や悪食に対しての説明に時間を割いていたのですっかり忘れていたのだ。

 改めて最初に喰らったドラゴンのモンスターについて説明すると、マグノリアは非常に困惑した表情のまま手で顔を覆ってしまった。

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