閑話:勇者たちと荷物持ち

 麟児が追放されてから五日が経過した。

聖王国キシアンヌでは、勇者たち四人がレベル上げに勤しんでいる。

 とりわけ南の森ではモンスターの姿がほとんど目撃されなくなるくらいの活躍を見せていた。


「……ふぅ。これでようやくレベル6ですね」

「わたくしはレベル5ですわ」

「僕はレベル6! フレイヤちゃんと一緒だにゃ!」

「……レベル5」


 元の能力値が高いフレイヤたちはレベルが低くとも順調にモンスターを倒していき、今のレベルに到達した。

 これが高いのか低いのかと問われると、まだまだ低い部類に入るだろう。何故なら――


「勇者様方! お疲れ様でした!」

「あぁ。お疲れ、チェルシー」


 フレイヤが声を掛けた相手、それは荷物持ちとして選ばれていたチェルシー・サリーダという女性のアルター人だった。

 チェルシーは空間収納というスキルを持っており、10メートル四方の空間に収まる量であれば異空間に荷物を収納する事ができる。

 この容量は同じ空間収納持ちでも普通の部類なのだが、宰相はチェルシーの同行が一番だろうと推していた。


「にゃー。やっぱり戦闘のできる荷物持ちって凄いのにゃー」

「その通りですね。これなら、あの男がいなくとも問題はないでしょう」

「……」


 チェルシーは荷物持ちでありながら、最低限の戦闘訓練を受けた空間収納スキル持ちだ。

 他の荷物持ちは単なる空間収納スキル持ちで、今のように戦闘をする四人と並んで移動する事はできなかっただろう。


「宰相は胡散臭かったが、案外頼りになる男なのかもしれないな」

「えっと、宰相様はとても頼りになる方ですよ?」

「まあ、チェルシーの立場であれば、そう言うしかないだろうな」


 笑いながらそう口にするフレイヤだが、その目は笑っていないように見える。

 その事に気づいていたチェルシーは、自分のステータスを見て喜べない結果を目にしていた。


■名前:チェルシー・サリーダ ■年齢:20歳 ■性別:女性

■世界線:アルター ■種族:人族

■ギフト1:身体強化・中【身体能力が向上する】

■ギフト2:高速解体【動物やモンスターを素早く解体できる】

■レベル25 ■HP2000/2000 ■MP750/750

■攻撃:750 ■防御:750 ■体力:1000

■速さ:1000 ■賢さ:750 ■幸運:30

■スキル:空間収納、料理、下級火魔法、下級水魔法


(……また、レベルが上がっちゃった)


 フレイヤたちと同行する事となり、少なからずチェルシーも戦闘をこなしている。

 アルター人と別の世界線から召喚された者では、レベル上げに必要な経験値の量が異なると言われている。

 元から強い召喚者は必要な経験値が多く、どうしてもチェルシーの方がレベルが上がりやすかった。

 傍から見れば良い事だと思われるが、チェルシーはすでに経験していた。


(前にレベルが上がったと言ったら、ものすごい形相で睨まれたからなぁ)


 レベルが上がらずに苛立っていたところへチェルシーがつい口を滑らせてしまった。

 ただ睨まれただけで終わったのだが、今はまだチェルシーの方が総合的に強いからそうなのかもしれないと考えている。

 四人のレベルが上がり、自分では歯が立たなくなってしまった後に不興を買う事になったらと考えると、ちょっとした発言でも気を遣うようになってしまった。


「そろそろ、ここの森ともおさらばかもな」

「そうですね。歯ごたえのあるモンスターがいなくなってしまいました」

「僕もそう思っていたところだにゃ!」

「……」

「ねえ、フォンさん。あなた、もう少し何か言ったらどうなのかしら?」


 あまり主張をしないフォンに対して、レリーは少し苛立ちながら声をあげる。


「……私は、決定に従うわ」

「なら、森を抜けて南へ向かうとするか」

「……そうですわね」

「了解だにゃ!」

「え、でも、大丈夫なんでしょうか?」


 森を抜ければさらに強いモンスターが生息している。

 四人は確かに強くなっている。だが、安全にいくならここでもう少しレベルを上げてもいいのではとチェルシーは考えていた。だが――


「意見するつもり?」

「あなた、ただの荷物持ちでしょう?」

「うるさい奴は、食べちゃうにゃー?」

「……い、いえ! 何でもありません!」


 フレイヤ、レリー、ジャグナリンダと殺気のこもった視線を浴びせられたチェルシーは、すぐに自分の言葉を否定した。


(……私、やっていけるのかなぁ)


 準備のためにと一度王都へ戻っていく三人を追い掛けるようにして、大きく肩を落としたチェルシーが続く。


「……」


 その背中を見ていたフォンは、ここでも口を閉ざしたままだった。

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