第13話:魔族の村・バールバーン 1
太陽の光を全身に浴びて、外の空気を肺いっぱいに吸い込み、時には大自然の木々に触れてアルターという異世界を実感している。
そんな、傍から見れば田舎者のような行動をしている麟児を微笑ましそうに眺めているマグノリアに気づいたのか、麟児は恥ずかしそうに口を開く。
「す、すみません!」
「いえ、それだけ興奮するのも仕方がないと理解していますから。そろそろ村に着きます」
マグノリアの言葉を受けて顔を正面に向けると、少し先になるが白い煙が立ち上っているのが見えた。
「あの煙は?」
「おそらく、村の誰かが食事の準備をしているのでしょう」
「食事! ……あー、その、俺も食べられますかね? ずっと洞窟でモンスターの肉しか食べてなかったんで、普通の料理が恋しくて」
切実な悩みを口にした麟児であったが、その言葉にマグノリアは首を傾げていた。
「モンスターの肉ですか? リンジ殿は調味料などもお持ちでしたか?」
「まさか! そんなもの持っていないですし、火だって起こせませんよ!」
「え? ……では、どのようにして食べていたんですか?」
「どのようにって、生ですけど」
「……え? な、生?」
「はい。生です」
答えを聞いたマグノリアは足を止めて固まってしまった。
そして、上から下まで何度も往復させて麟児の事を見ている。
「あの、マグノリアさん?」
「……どうして生きているんですか?」
「えぇっ!? それ、どういう事ですか!!」
悪食のおかげとはいえ、麟児は普通にモンスターの肉を食べていた。
マグノリアからも食糧だと聞いていたので、生ではあるが問題はないと思っていたのだ。
だが、実際は異なっているようで、食糧ではあるものの生だと食べられてものではないと説明する。
「そもそも肉が硬いです。そして、モンスター特有の臭いもありますから、生でなど誰も食しません。栄養価は高いようなので、しっかり焼いて、味付けをしなければ普通は……」
そこで言葉を切ったあたり、麟児の事を普通ではないと感じたようだ。
「……ま、まあ、別の世界線から来られたようですし、そちらの常識とこちらの常識が異なる事は仕方がないかと」
「お、俺が元いた世界でもちゃんと料理はします! 生で食べたのは、非常時だからです!」
一応の弁明はしたものの、マグノリアは苦笑いを浮かべるだけでそれ以上は口にしなかった。
その後、特に会話が弾むことはなく、少しばかりぎこちない雰囲気のまま村に到着した。
「ここが私の暮らす村――バールバーンです」
「へぇ。そこまで大きな村ではないんですね」
「田舎ですからね、ここは」
簡単な木の柵で覆われた村、それがバールバーンである。
村の前には魔族の男性二人が槍を構えて立っており、マグノリアを見つけると手を振っていたが、隣を歩く麟児を見つけるとすぐに表情が緊張したものに変わっていた。
「安心してくれ。彼は人族の被害者だ」
「被害者だって? ……まあ、マグノリアが言うなら信じるが」
「とはいえ、村の中で変な事はするなよ、いいな!」
「は、はい。ありがとうございます」
麟児が丁寧に頭を下げると、疑った二人は少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。
マグノリアもだが、麟児は魔族が悪者だと決めつけるのは良くないと考え始めていた。
「まずは村長に会ってもらう」
「い、いきなり村長ですか?」
「村に他種族を招くのだから、当然だ。それに、客人をもてなすのも村長の仕事だからな」
もてなすのが村長の仕事なら、勝手に連れてきて良かったのかと疑問を抱いた麟児だが、ここはマグノリアを頼るしか仕方がないため黙っていることにした。
村を歩いていると、すれ違う魔族全員がマグノリアに声を掛け、挨拶をしている。それだけで彼女が慕われている事が分かるように麟児には思えた。
「慕われているんですね」
「……バールバーンの魔族は、皆があのように接してくれる。私にだけではないさ」
少し照れているように見えたマグノリアを見て、麟児は初めて微笑むことができた。
「リンジ殿、笑ったか?」
「少しだけ。ずっと緊張していたので、緊張が解けたんだと思います」
「……ならば、よい。あそこが村長の屋敷だ」
何か理由があれば少しばかりちょっかいを掛けても良いのかと思わないでもないが、麟児はマグノリアが何も言わなかったことでホッとしている。
そして、落ち着いた気持ちのままで村長と顔を合わせることができた。
「村長! ベラギントス村長!」
マグノリアが玄関から声を掛けると、奥の方から白髪を肩まで伸ばし、丸眼鏡を掛けた男性が姿を現した。
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