第14話:魔族の村・バールバーン 2

「マグノリアではないですか。洞窟の探索はいかがでしたか?」

「十階層までは行けましたが、それ以上は……それよりも、今日は客人を連れてきました」

「客人ですか?」

「……あの、失礼しまーす」


 マグノリアから合図を貰い、麟児は玄関に姿を現す。

 門番の二人から警戒されたように、村長からも警戒されると身構えていたのだが――


「おや? 人族……とは違うようですが……まあ、マグノリアが連れてきたのですから、信頼できる方なんでしょうね」

「はい。問題はありません」

「そうですか。……ふふ、面白いですね」

「あれ? なんだ、今の?」


 ベラギントスが微笑むと同時に、麟児は何やら違和感を覚えて周囲に首を振る。


「では、立ち話もなんですし中へどうぞ」

「え? ……あの、いいんですか?」


 あまりにも話がトントン拍子に進んでしまい、麟児の方が疑問を抱いてしまう。

 だが、ベラギントスは微笑みながら問題はないと口にしてくれた。


「マグノリアが認めた方ですからね。それに、私の鑑定を難なく弾く、これもまた逸材です」

「鑑定を、弾く? ……もしかして、さっきの違和感って、それなのか?」

「村長。また勝手に人物鑑定を行ったのですか?」

「あはは。そう怒らないでくださいよ、マグノリア。あなたを信頼していますが、村長としては確証も欲しいところだったんです」

「申し訳ありませんでした、リンジ殿」


 二人の会話から自分が鑑定スキルで鑑定されたという事は理解した麟児であったが、何故にマグノリアから謝られているのかは理解できないでいる。

 その理由についても含めて中で話をしようという事になり、マグノリアに続いて麟児も屋敷の中に入っていく。

 通されたところは、麟児からすると懐かしさを覚える畳間の和室であった。


「……へぇ、落ち着きますね」

「そう言っていただけると嬉しいですね。もしかするとリンジさんは、別の世界線から来られたのですか?」

「えっと……はい」


 こうも簡単にバレてしまっては誤魔化しきれないと判断した麟児が素直に頷くと、ベラギントスはお茶を出しながら気づいた理由を教えてくれた。


「アルターでは別の世界線から召喚される者も多く、珍しい事ではないんですよ」

「えっ! そうなんですか?」

「えぇ。とはいえ、私たち魔族が召喚を推奨しているわけではありません。さらに言えば、魔族は召喚をほとんど行いませんから」

「……知らなかった。でも、という事は召喚を行っているそのほとんどが人族って事ですよね?」

「はい。そして、稀に召喚された者が魔族領に迷い込むことがあります。リンジさんのように」


 迷い込んだわけではない。追放されたのだ。

 その事実を麟児がベラギントスに説明すると、今までの者もそうだったのだろうと理解した。


「ですが、一つだけ腑に落ちないことがあります」

「それは私も同意見です」

「二人共ですか?」


 だが、全てを説明し終えた後に二人からは疑問の声があがった。


「過去、魔族領に迷い込んだ別の世界線から来た者たちは、皆弱かったのです。人族が不要と切り捨てた者ですから当然と言えば当然なのですが、リンジさんはそれに該当いたしません」

「俺は弱いですよ? 実際に、ギフトも食べる事に特化した悪食ってギフトですし、それが原因で追放されたわけですしね」

「悪食ですか? ……聞いた事がありませんね」

「リンジ殿。その悪食というギフトの効果を教えていただく事は可能ですか?」


 マグノリアの質問に、麟児は素直に答えた。隠す必要がないものだと思っていたからだ。

 全ての食材を美味しく食べられる、という簡単な説明だけではなく、詳細な説明に関しても伝えていく。

 経験値のところでは二人共に驚きの声を漏らしていたが、飢餓感の説明になると渋い顔を浮かべていた。


「確かに、恐ろしいのか無駄なのか、分からないギフトですね」

「いいえ、それは違いますよ、マグノリア。経験値が食事をするだけで手に入るのであれば、それは素晴らしい事です」

「ですが村長。半分になるというのはいかがなものかと」

「まあ、それはおまけ程度に考えています。これはモンスターを喰らってから詳細が分かったギフトなんですが、ストックというものがあります」

「「……ストック、ですか?」」


 こちらも初耳だった二人からは声を揃えて疑問の声があがった。

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