第15話:魔族の村・バールバーン 3

「なんでも、喰らったモンスターのギフトを一つストックして、好きな時に使用する事ができるって奴ですね。ただし、一度使うと無くなるので、たくさん喰らってストックを溜めないといけないんですよね」


 麟児としては万能なのかそうじゃないのか、といった軽い感じのトーンで話していたのだが、聞いていた二人は口を開けたまま固まっている。


「……それは、恐ろしいギフトですね」

「……リンジ殿の戦い方が異常だとは思っていましたが、そういう事でしたか」


 異常と言われてしまい困惑する麟児だったが、その理由はマグノリアが説明してくれた。


「ギフトというのは、全てにおいて特別な力を有している。スキルも似たようなものだが、ギフトはスキルの上位互換だと考えてもらいたい」

「そういえば、レベルが上がるとスキルが増えていたな」

「スキルはレベルを上げたり特別な訓練で増やす事ができるが、ギフトはそうはいかない。その者に備わった特別な力、と言えばいいかな」

「リンジさんのストックは一回限りとはいえ、そのギフトの能力を借り受ける事ができるという、とてつもなく強力なギフトなんですよ」


 そこまで説明されて、麟児はようやく自分のギフトが異常なのだと気づくことができた。

 今までは食べる事に特化したギフト。ストックが使えるようになってからは戦いやすくなったかな、程度にしか考えていなかったのだ。


「正直なところ、どうして人族側がリンジさんを手放したのか理解に苦しみます」

「なんでも、悪食の【悪】という文字が我が国には必要ない、とか言ってたっけ」

「なるほど、理解しました。リンジさんを召喚したのは、聖王国キシアンヌですね」


 ズバリ言い当てたベラギントスに麟児は驚いたが、別に驚かれるような事でもなかった。


「聖王国キシアンヌが信仰している宗教は特殊でしてね。負の感情が連想されるものを全て排除する動きがあるのですよ」


 それは【悪】だけに止まらず、【汚】や【嫌】や【闇】など、とにかく負の感情を連想させるものが交ざっているというだけで排除の対象になってしまう。

 召喚された者だけではなくアルターの人族であってもそれは変わらず、そういった者たちは国を追われるか、その場で処刑される者までいるのだと教えてくれた。


「……最低の国じゃないですか」

「とりわけ、キシアンヌではその傾向が顕著に表れています。そこが人族領で最大に力を有しているのですから、大変だろうなと思いますが」

「魔族からすればどうでもいい事なので、私は気にしていませんけど」


 困った表情で口にするベラギントスと異なり、ドライな反応を示すマグノリア。

 どちらにしても、麟児からすれば追放された事に変わりはないので恨み妬みはどうしても出てきてしまう。


「顔を合わせる機会があったら、ストックの中から特別でかい奴をぶつけてやろうかな」

「いやいや、リンジさんがキシアンヌの方々と顔を合わせる事はないと思いますよ」

「……そうなんですか?」

「はい。ここは魔族領ですし、私たちは積極的に人族領を占領しようなどと思っていませんからね。バールバーンから動く事もありません」

「リンジ殿がご自身の意思で出て行かれるのであれば、止める権利はありませんが」


 二人の言葉を受けて、麟児は一つの疑問を口にする。


「俺はキシアンヌの奴らからしか情報を聞いていなかったから失礼な事を聞くが、ここジパングは元々人族領だったんだよな?」

「はい。……もしや、我々が奪ったなどと言っていましたか?」

「あぁ。宰相っぽい奴の説明では、そうなってたが……やっぱり違うのか?」

「全く違いますね。彼らは、我らの使者を斬り殺した後、勝手に攻めてくると勘違いをして逃げ出したのですよ」


 そして、麟児はベラギントスから事の真相を聞くことになった。

 ベラギントスたち魔族は人族と友好関係を築こうと使者を送り出した。その場所こそがここジパングだった。

 ジパングは人族領であったが辺境の離島であり、独自の文化を根付かせていた。その中には魔族との交流も含まれており、魔族はジパングを橋渡しとして友好関係を築こうと動いていた。

 しかし、前回の交流の際にたまたまキシアンヌの貴族が魔族と鉢合わせてしまい、護衛騎士が魔族の一人を斬ってしまった。

 すぐに他の魔族は逃げ出したのだが、情報を集めていくとジパングの人々はキシアンヌの圧力によって捕らえられ、負の感情に囚われていると公言されて処刑に追いやられた。


「我々は、魔族にも良くしてくれたジパングの土地を死なせないように、今はこうして田畑を耕しているという事なんですよ」

「それもタイミングが悪く、キシアンヌの奴らが偵察に来たタイミングと重なってしまい、我々が侵略したと勘違いされたのです」

「それは何というか、まあ……ご愁傷様です」


 魔族に同情したくなった麟児だが、これではっきりとしたことがある。

 それは、麟児がどちら側に付くかであった。

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