第42話:喰らいしもの 11

『ギャギャギャギャアアアアァァッ!』


 激痛を堪えながら上空へ視線を移したフレイヤは、落ちてくる麟児目掛けて全ての魔力を注ぎ込んだ魔法を解き放つ。


 ――テラ・ダークヘル・サンダー。


 明るい光を放っていた雷がその色を漆黒へと染めていき、フレイヤの目の前で一塊となりバチバチと音を立てる。

 音が弾けるたびに衝撃波が周囲へ広がり、海面は大きく荒れて波が立つ。

 空気も張りつめていき、麟児は不思議と息苦しさを覚えていた。


『アアアアアアアアァァアアァァッ!』

「はっ! てめぇもこれくらいの迫力を出せるんじゃねぇか!」


 フレイヤがテラ・ダークヘル・サンダーを解き放つ。

 フレアドラゴンに迫る圧力を感じた麟児はデスソードをギュッと握りしめながら、笑みを浮かべて力一杯に振り下ろす。

 デスソードがテラ・ダークヘル・サンダーを捉えた途端、先ほどとは桁が違う衝撃波が海面を捉えて大波を作り、ジパングの海岸が海に沈んでいく。

 人がいればひとたまりもなかっただろうが、マグノリアたちはすでに海岸を離れている。

 非難させておいてよかったと胸を撫で下ろしたのは一瞬のことで、麟児はデスソードへさらに力を込めた。


「……意味のないことを、してんじゃねぇぞ!」

『アアアア、ガガアアアアッ!!』

「てめぇはこのまま、俺が叩き切ってやる!」


 テラ・ダークヘル・サンダーの余波が麟児の体を襲い、身に付けている装備が弾け飛び、皮膚が焼き爛れていく。

 それでも回復系のストックを使用しないのは、目の前の相手に全力をぶつけると麟児が覚悟を持って剣を握っているからだ。

 すると、今まで単なる剣として振るっていたデスソードに変化が起きた。


 ――……モヤァ。


 漆黒の剣身から、全く同じ色をした煙がどろりと溢れ出してきたのだ。


「な、なんだ、これは!」

『ギギギギ、ギギゲゲゴゴガガググアアアアアアアアァァァァッ!!』


 漆黒の煙はその量をドンドンと増やしていき、気づけば一人と一匹を完全に包み隠すように広がっていた。

 どのような影響があるのか……身の異変に最初に気づいたのは、フレイヤだった。


『イイイイアアアアオオオオガガガガアアアアァァアアァァッ!?』

「何が起きているんだ? ……あぁ、なるほどな」


 突然の大絶叫。そして、麟児も周囲で起きている異変に気づいた。

 フレイヤが放ったテラ・ダークヘル・サンダーの威力が目に見えて落ちてきているのだ。

 身体強化極大と剛腕の一撃を足した斬撃でも拮抗していたものの、それが徐々に麟児優位になり始めている。

 それだけではない。

 漆黒の煙が一人と一匹を包み込んでからは、僅かずつではあるが麟児の力が強く鳴り続けているのだ。


「……この煙は、フレイヤの魔力を吸収して俺の力に変えてくれているのか!」

『ゲボガガビブボデジジジジゲギュビィジャジャガガガガッ!?』


 魔力はテラ・ダークヘル・サンダーからだけではなく、フレイヤ自身からも吸収していた。

 その効果が表れたのか、フレイヤは意味不明な言葉を発しながら絶叫し、巨大な体を身悶えさせる。

 すると、ボロボロと体を覆っていた鱗が剥がれ落ちていき、太く逞しかった体は貧相なものへ変貌を遂げてしまう。


「なんだかよくわからんが、これで終わりだああああああああぁぁっ!!」


 仲間を喰らい、その魔力を持って巨大な体を構築していたフレイヤだったが、デスソードが放つ漆黒の煙によって魔力が失われたことで弱体化していく。

 そこへ麟児が魔力を吸収した力で――ついにデスソードを振り切った。


 ――ザンッ!


 鋭く振り抜かれたデスソードが、鈍く重い音を響かせてフレイヤの体を両断した。

 下半身は力なく海面に叩きつけられると、そのまま海底へと沈んでいく。

 戦闘の影響で砕かれていた氷の一部になんとか着地した麟児は、視線を残された上半身へと向ける。

 上半身も同じ末路を辿ると思われたが、そうはならなかった。

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