第23話:洞窟攻略 6
◆◇◆◇
順調に階層を進んでいた二人だが、マグノリアが異様な気配を感じ取り足を止めた。
「ん? どうしたんだ、マグノリア?」
「……下の階層で、異様な気配を感じました」
「異様な気配?」
マグノリアの様子から異常事態なのだろうと察した麟児も気配察知の範囲を広げる。
「……んー、特段、変なモンスターはいないと思うけど?」
「そうか? ならば、私の気のせいだろうか」
「まあ、気をつけておいて損はないし、ここからは慎重に進むとするか」
「そうですね。何せ次は十五階層。私たちはすでに、下層へ足を踏み入れていますから」
洞窟に限らず、階層が存在する場所には上層、中層、下層と区別される事が多い。それは単純に階層を均等に分けて区別する事もあれば、生息するモンスターの強さによって区別される事もある。
今回は前者であるが、どちらにせよ深い階層になればモンスターは自ずと強くなる。
「そろそろ、私だけでは倒せないモンスターも出てきております。申し訳ありませんがリンジ、これから先は……」
「あぁ、俺が積極的に戦っていく。でも、最初に言ったけど俺には戦士の勘なんてものは存在しないから、咄嗟のフォローは頼む」
「もちろんです」
お互いにやるべき事を再確認し、下へ繋がる階段を探して歩く。
十五階層からはモンスターを避けながら進む事にした二人だったが、どうしても避けられない場面は出てくる。
そして、その場面が訪れようとしていた。
「……強い、ですね」
体中から汗が噴き出す。
マグノリアが察知したモンスターも二人の存在に気づいている。
『……ウホホゥ』
物陰からのっそりと姿を現したのは、筋肉が隆起した肉体を持つ巨大な猿に似たモンスターだった。
「こいつは……オールドコング。レベルは99だな」
「きゅ、99ですか!?」
十五階層に至るまでにもマグノリアのレベルは上がっているが、それでもレベル70である。
レベル99のオールドコングを相手には分が悪過ぎた。
一方で、麟児のレベルも僅かではあるが上がっている。
「俺のレベルは298だし、まあやれるかな」
「……そう口にしているリンジが異常なのだがなぁ」
「ん? 何か言ったか、マグノリア?」
「いいえ、何も言っておりません」
「そうか? それなら、さっさと片付けるか」
「……さっさと、ですか」
デスソードを抜いた麟児がオールドコングと相対する。
剣術はまだまだであるが、それでも圧倒的な能力値が麟児へ優位に働く。
『ウッホホオオオオッ!』
「させるか!」
強靭な脚力を利用して飛び上がろうとした刹那、麟児は力任せに渾身の一歩を踏み出す。
麟児の体は一気に加速してオールドコングの視界から消えた。
『ウ、ウホッ!?』
「とりゃああああっ!」
やや迫力に欠ける気合いだったが、麟児の剣はオールドコングを確かに捉えた。
肩口から肉体に入り込んだ刀身は、まるで紙切れを切るかのような切れ味を持って逆側の脇腹へと抜けて両断する。
デスソードの切れ味もあるだろうが、麟児の異常なまでの能力値が目の前の現象に上乗せされている事もまた事実であった。
「よし! 倒せた!」
「いや、まあ……そうでしょう」
拳を握り喜んでいる麟児に対して冷静にツッコミを入れるマグノリア。
だが、モンスターはオールドコング一匹だけではない。
『……ウホッ?』
『ウッホウッホホウ』
『ウッホホオオオオッ!』
わらわらとオールドコングが姿を現す。その数は十二匹で、レベルは全てが90台。
「リンジ! 私がフォローに入る、お前は一匹ずつ確実に――って、ええええぇぇっ!?」
マグノリアが驚きの声をあげた。
その理由は、麟児が放ったストックにある。
ストック数は少なくなっていたが、オールドコングの数が多い事から水爆を放ったのだ。
オールドコングが固まっている場所に放たれた水爆が多くのオールドコングを押し潰す。
その数が半分になると、麟児は身体強化極大を使って残りのオールドコングを殲滅する。
二匹までは動き出す前に斬る事ができたが、残りの四匹は動き出してしまった。
それでも、麟児は飛び上がった個体目掛けて跳躍すると勢いそのままにデスソードを振り抜き両断。
「一匹」
天井を踏みつけると、こちらを見上げている個体目掛けて落下していく。
『ウッホホオオオオオオオオッ!』
獲物が落ちてきたと思い歓喜の声をあげたオールドコングだが、その速度は予想の遥か外にあった。
振り下ろされたデスソードが体を左右に分かつと、着地した地面が大きく陥没する。
「二匹」
『ウボアッ!?』
『ウボボッ!?』
驚愕の鳴き声を漏らした残る二匹のオールドコングだったが、その後は無言を貫いた。
何故なら、回転しながら横薙がれたデスソードに首が刎ねられていたからだった。
「これで、四匹! うおおおおぉぉっ! 剣で、モンスターを倒したぞおおおおぉぉっ!」
「……いや、当然だと思うんですが」
レベル差があるのだからと思うマグノリアだったが、麟児は気づいていない。むしろ、自分はまだまだ弱いと思っている。その理由は――
(……俺でここまで強くなれたんだから、他の勇者たちはもっと強くなっているはずだ。だから、俺はまだまだ強くならないと)
自分は強い。それはマグノリアやベラギントスとの会話で理解した。
それと同時に、召喚された四人が麟児よりもステータスが高かった事も知っている。
悪食というスキルがあるからレベル上げは有利だが、元のステータスがあまりにも違い過ぎて話にならないと思っていた。
(レベルは……上がらないか。ここに来るまでにもだいぶ上がったから、仕方ないか)
故に、異常なレベルにまで達している麟児だが妥協する事はない。
これでも自分は弱いと思い込み、レベルには敏感になっていた。
「……はぁ」
「どうしたんだ、マグノリア?」
「……私のレベルが、また上がりました」
「……いいなぁ」
「いや、リンジに羨ましがられてもなぁ」
強くなると誓ったマグノリアだったが、こうまで何もせずにレベルが上がるのはやはり解せなかった。
「……いや、こうなったらもう割り切るしかないか」
だが、麟児の規格外を何度も目の当たりにしたせいか、マグノリアはあっさりと割り切る事ができた。
「レベルが75になったぞ」
「おぉっ! すごいじゃないか! 一気に5も上がったんだな!」
「そうだな。ここまでレベルが上がれば、魔族の中でもトップに属せてしまうぞ」
「ベラギントスさんが見る三人目のレベル100越えになるのもあっという間だな!」
「……それは喜んでいいのか? 異常だと思われないか、不安になるぞ?」
僅かばかり考え込むマグノリアだったが、ここまで強くなれば仲間の魔族から何かしら文句を付けられても追い返せると思い直し無理やり自分を納得させる。
そして、麟児に視線を送ると頭を下げた。
「ありがとう、リンジ」
「いや、だから、マグノリアが強くなる事が攻略のカギなんだってば」
「そうなのだが、お礼を言いたかったんだよ。では、行こうか」
周囲にモンスターの気配はない。
マグノリアが歩き出したのを見た麟児も追い掛け、十五階層の探索を再開させた。
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