第24話:洞窟攻略 7

 ◆◇◆◇


 ――そして、最下層。

 若い主も近くまで来ている存在に気がついていた。

 生息しているモンスターのレベルからして、ここまで異常な速度で最下層まで迫ってきた存在はいなかったと記憶している。

 だが、若い主は全く気にしていなかった。

 異常な速度で迫ってきている存在であっても、自分には敵わないと信じているからだ。


『……グルルゥ?』


 数は二つ。その中に一つだけ、速度以上に若い主が気になる存在がいる。


『……グルルララアアアアッ!』


 そして、期待もしてしまう。

 以前の主は強かった。若い主ですら手も足も出ないほどに。

 だが、以前の主は死んだ。寿命によって。

 その死体がどこに行ったのかなどは若い主には関係なく、むしろ残り香が消えている事に歓喜したほどだった。

 若くして主になった若い主は、闘争に明け暮れていた。常にモンスターを喰らい、その身を満たしていた。

 だが、洞窟の主になった事で自分から動く事は叶わなくなった。それが主になったものの務めだからだ。

 闘争に明け暮れていた若い主は、最奥に寝そべりながら退屈していた。

 そして、気づいたのだ。異常な速度で迫ってくる二つの中にある一つの存在に。

 若い主の期待は、闘争への期待だった。

 主になってまだ一日も経っていないが、モンスターにとって月日など何の目安にもなりはしない。単に退屈になった、それが事実である事に変わりはないのだから。


『グルルララアアアアッ! グルオオアアアアッ!』


 歓喜の咆哮をあげながら、気になる存在がやって来るのを今か今かと待つのだった。


 ◆◇◆◇


 十九階層に足を踏み入れた二人だが、ここまで来るとマグノリアの剣では歯が立たなくなっていた。


「陽動はお任せを!」

「任せる! だけど無理はするなよ!」

「無論だ! せっかくレベルが85まで上がったのだから、死んでなるものか!」


 十九階層からはレベル100越えのモンスターがうじゃうじゃと湧いて出てきている。

 だが、魔族は人族よりも元々のステータスが高く、その中でもマグノリアは速さの能力値が飛びぬけて高かった。

 だからこそ陽動を受け持ち、高レベルのモンスターの中でも生きていられている。


「リンジ!」

「任せろ! 暴風刃!」


 マグノリアの陽動から一ヶ所に固まったモンスター。その中心に隠密を発動させて隠れていたのは麟児だった。

 そこで発動された暴風刃によって、二十匹以上のモンスターが一瞬にして肉塊に変わる。

 これで一息つける――そう思ったのも束の間、奥の方から続々とモンスターが進軍してくる姿を見てマグノリアは冷や汗を流す。


「くっ! 十九階層のモンスターの数は異常だぞ!」

「俺がいた時は、そこまで多くなかったはずなんだが……何が起きているんだ?」


 麟児が十九階層に足を踏み入れた時は二匹のモンスターが争っている時だった。

 それ以降、二週間は悪食を使ってレベルを上げるために二十階層と十九階層を行き来していたのだが、これほどのモンスターの群れに遭遇した事はなかった。


「通って来た階層でなら群れと遭遇する事もあったけど……」

「考えていても仕方がないかもしれませんね」

「……そうだな。それじゃあ、いきますか!」


 身体強化極大も残りストックが10と数を減らしてきている。

 道中で喰らいストックしたギフトもあるが、それ以上に使う事の方が多くなっている。

 最下層にはドラゴンの死体しかなかった。

 ここで全てのストックを使い切るつもりで戦ってもよかったが、戻る事まで考えると愚策だと思い直し、比較的ストック数の多い身体強化極大に頼る事になってしまう。

 デスソードを振り抜きモンスターを仕留め、奥の方へ水爆を落とし数を減らす。

 暴風刃と水爆、さらに炎蛇も残りストックが2となり、乱発は避けたい状況だった。


「こっちにもいるぞ!」

『グルガアアアアッ!』


 最初に麟児が見た四本腕のモンスター、ツインオーガがマグノリアの声に反応して駆け出していく。その数は五匹。

 逃げの一手であるマグノリアだが、それでも五匹が四本腕で攻勢に出るのだから徐々に追い込まれていく。

 その間にも麟児は四本角のモンスター、オールドブルホーンの群れを確実に殲滅していくが、明らかに手が足りていない。


「炎蛇!」


 ストックを一つ減らして放たれた炎蛇をツインオーガにぶつける。

 背後から強襲されたツインオーガが炎に包まれると、残る四匹の視線が炎蛇に集まる。

 その隙にピンチから抜け出したマグノリアは麟児に声を掛けた。


「すまない、リンジ!」

「いや、助かった! ツインオーガは炎蛇に任せて、俺たちはオールドブルホーンを倒すぞ!」

「はい!」


 一塊になっていれば倒しやすいと、マグノリアがオールドブルホーンに魔法を放ちながら意識を向けさせる。


『ブルッフウウウウッ!』


 数匹がマグノリアに気づけば、後はなし崩し的に広がりを見せてあっという間に群れの全ての視線が殺到する。

 並の者なら殺到した視線――殺気に当てられて気を失うか、良くて腰を抜かすだろう。

 だが、マグノリアは麟児のおかげで並の者からレベル85の強者に変貌している。

 倒す事はできなくても、殺気に当てられたくらいで戦意を喪失するなんて事はなかった。


「今です、リンジ!」

「よっしゃああああああああっ!」


 身体強化極大、さらに隠密との重ね掛けでデスソードを振り回す麟児。

 触れた先から巨体が両断されていき、オールドブルホーンの断末魔が聞こえてくる。

 それでも動きを止める事をしない麟児は、視界に映った端から狙いを変えてはさらにデスソードを振るっていく。

 まるでバーサーカーにでもなったかのような姿にマグノリアは少しばかり畏怖を覚えていた。

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