閑話:召喚した者たち
――ドンッ!
豪奢で頑丈なテーブルに、怒りの拳が叩きつけられた。
拳の方が痛いだろう。しかし、叩きつけた当の本人は痛みよりも怒りの方が上回っており、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。
「どうなっているのじゃ! どうして誰からも連絡がこない!」
「お、落ち着いてください、陛下!」
怒鳴り散らしているのは聖王国キシアンヌの王だ。
その隣では宰相が冷や汗を流しながらなんとか宥めようと必死になって声を掛けていた。
「黙れ! これが落ち着いていられるか! 我らがどれだけの犠牲を払ってあ奴らを召喚したと思っているのだ!」
「それはそうですが……お、恐らく、すでにジパングへ足を踏み入れているのでしょう! そうでなければ連絡が途絶えた理由が分かりませぬ!」
「なんじゃと? もしそうであれば、どうして港町の冒険者ギルドから勇者が到着したと連絡がこないのだ!」
「そ、それは……そうです、冒険者などという者たちは粗暴で不誠実な者が多いと聞き及んでおります。おそらく、田舎であり港町の冒険者などはその典型なのでしょう」
宰相はこの場を凌ぐため、噓八百をこれでもかと口にしていく。
そして、それをキシアンヌ王はあっさりと信じてしまった。
「ふむ……まあ、そういう事であれば仕方がないか。だが、我もそう長くは待っていられん。人を派遣して直接話を聞いてくるのだ! もしも勇者たちが失敗していたならば、次の手を打たねばならんからな!」
「か、かしこまりました、陛下」
ギロリと睨まれた宰相は頬を伝う汗を拭いながら、返事をしてその場を後にした。
残されたキシアンヌ王はドカッと椅子に腰掛けると、大きくため息をついて頬杖を突く。
「……全く、使えない勇者どもだ。これでは犠牲になった奴隷どもを総動員してジパングに突っ込ませた方がよかったのではないか?」
キシアンヌ王は犠牲を払ったと口にしていたが、実際は彼にとって痛くも痒くもない奴隷を犠牲にした召喚術だった。
その多くは犯罪者であり、身寄りのない売られた子供たちであり、捕らえられた魔族である。
キシアンヌ王が言う犠牲というのは、それらを集めるために使った資金の事なのだ。
「……まあ、よい。金はいくらでも集められる。しかし、次の手か……やはり、我ら聖王国キシアンヌの精兵を送り出さねばならんかもしれんのう」
トントンとひじ掛けを指でリズムよく叩きながら、思案顔でこれからの事を考えていく。
聖王国キシアンヌの精兵となれば、それは国家騎士の事である。
キシアンヌ王はどれだけ魔族領に攻め入ったとしても、国と自分を守るための国家騎士を戦線に投入した事は一度としてなかった。
毎回のように戦場近くの都市から兵をかき集め、多額の報酬を用意して冒険者ギルドに参戦するよう強制依頼を出していた。
しかし、今回はそれではどうにもならないと判断したのだ。
「レベルが低いとはいえ、奴らも勇者だ。すぐに強くなるはずだが、そいつらから連絡がないとなれば……まあ、死んだと見ていいだろうな」
宰相には港町に人を派遣しろと口にしたが、キシアンヌ王の中ではすでに死んだものと考えていた。
「いつ出発するべきか。魔族に時間を与えるわけにもいかん。……であれば、準備ができ次第で送り出すべきであるな」
次に思考が向いた先は、どの部隊を送り出すかである。
ジパングを取り返したいという想いは本物だが、それ以上にキシアンヌ王は自分の事が何よりも大事だ。
本当に精兵である人員を送り出す事は避けたいと考えたキシアンヌ王は、国家騎士の中でも問題児が多い部隊を派遣する事を決めた。
「……くくくっ! 魔族どもの悲惨な姿が目に浮かぶわ!」
自然と下卑た笑みを浮かべたキシアンヌ王は、サイドテーブルに置かれたベルを鳴らして執事を呼び出すと、次に向けてとある人物を呼びつけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます