第45話:これからの事

 ――フレイヤたちが攻めてきてから、三日が経った。

 咆哮が響いてきた最初こそ村人たちも恐怖に怯えていたのだが、今ではすっかりいつもの生活を取り戻している。

 というのも、村の戦士であるマグノリアのレベルが100を超えたと村全体に広まり、どのようなモンスターが襲ってきても大丈夫だという安心感を得たからだ。


「全く。私だけではなく、他の戦士も強くなってもらわないと困るんだがなぁ」

「まあまあ。マグノリアの場合は俺とパーティを組んだって時点で、他の戦士たちとは立場が違ってくるじゃないか」

「まあ、そうなんだがなぁ……」


 他の戦士たちはいつも通りの訓練を行っている。別にマグノリア頼みで何もやっていないわけではない。

 しかし、レベルが100を超えて実力が麟児と出会う前より何倍も上がったマグノリアからすると、物足りなさを感じてしまうのだろう。

 だからこそ、マグノリアは今もなお麟児と行動を共にしており、周囲のモンスター狩りに出ている。

 そして、今はマグノリアだけではなく他にも麟児と行動を共にする者がいた。


「――行きました、フォン様!」

「――サウンドボム!」


 ジパングに二人でやってきたフォンとチェルシーである。

 二人は人族領に戻る事はせず、そのままジパングに残る事を決めたのだ。

 本当にそれでいいのかと何度も確認をしたのだが、フォンからはこのまま戻っても利用されるか、ジパング奪還に失敗した責任を取らされるだけだと言われてしまい、ならば残った方がいいかという話になったのだ。


「それにしても、二人とも動きがいいよな」

「あぁ。連携もしっかりと取れている。ここまでやってくるのに、二人で相当な修羅場をくぐってきたのだろうな」


 本来であれば勇者パーティの中ではサポート役に徹するだろうフォンが前に出て、チェルシーが代わりにサポート兼前衛を務めている。

 普段はおっちょこちょいな雰囲気を持っているチェルシーも、戦闘となれば真剣な面持ちに変わり素晴らしい集中力を見せつけてくれた。


「しかし、フォンの上級音魔法っていうのは初めて見たな」

「そうなのか? まあ、別の世界線から来た勇者だし、特別なスキルを持っていてもおかしくはないか」


 しばらくしてモンスターの討伐が完了すると、二人が麟児たちの下に戻ってきた。


「終わった」

「お疲れ様です!」

「お疲れ様。しかし、よかったのか? 俺たち、何もしていないんだが?」

「確かにそうだな。ただ見守っていただけだぞ?」


 二人は率先してモンスター狩りを行っている。

 それは麟児たちに恩を少しでも返したいという想いが強いのだが、それと同じくらいにやっておきたい事が二人にはあった。


「リンジとマグノリアのレベルは高すぎる。だから、私たちは少しでも追いつかないといけない」

「そういう事です!」

「私とリンジを比べるのはどうかと思うがな」

「マグノリア、それって褒めてないよな?」

「……」

「無視かよ、おい!」


 顔を逸らされてしまい麟児がツッコミを入れると、一瞬の無言の後にフォンとチェルシーが笑った。


「うふふ」

「二人とも、とても息が合っていますね!」

「「そうか?」」

「ほら!」

「本当に。私たちも少しずつだけど近づけるよう頑張るから、その時は一緒に戦わせて欲しい」

「……まあ、そうなったらだけどな」


 麟児としてはこれ以上何も起きない事を願うばかりだが、きっとそうはいかないだろう。

 聖王国キシアンヌは何故か魔族を忌み嫌っており、必ずジパングを奪還するために戦力を送り込んでくるはずだ。


「……しかし、キシアンヌ王はどうしてこんな小さな島にこだわるんだろうな」

「リンジはここに何かあると考えているのか?」

「いいや、分からん。単に魔族を嫌っているからだけなのか、それ以外にも理由があるのか。……まあ、俺の勝手な想像だけどな」


 肩を竦めながらそう口にした麟児を見て、マグノリアは小さく苦笑する。


「……そろそろ村に戻るか?」

「そうだな」

「分かった」

「賛成です! あー、疲れましたー!」

「なんだ、チェルシーはこれくらいで疲れるのか? それならもっと過酷なところでレベル上げをしてみてもいいんだぞ?」

「や、止めてくださいよ!」

「私はレベル上げができるなら、行ってもいいと思う」

「えぇっ! そ、それじゃあ、私だって~? 行きますとも~?」

「あはは! 本当に賑やかだな、チェルシーって!」

「あっ! 笑うなんてひどいですよ、リンジさま~!」


 こうして多くの人と語り合いながら笑える日が来るなんて、夢にも思わなかった麟児だが、彼は今を十分に楽しんでいた。

 聖王国キシアンヌと衝突する日はきっとくるだろう。

 しかし、それまではこの時間を大切にしてもいいはずだ。


(……来るなら来い、キシアンヌ王。俺が絶対に、一発ぶん殴ってやるからな!)


 そんな事を心に誓いながら、麟児は笑顔でバールバーンへ戻っていくのだった。


 第一章 終わり

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喰らい強くなる者 ~悪食スキルで世界最強~ 渡琉兎 @toguken

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