第44話:喰らいしもの 13

 バールバーンの方へ歩いていきながら気配察知でマグノリアを探していたのだが、どうやら彼女たちから麟児の方へ近づいてきてくれた。


「リンジ!」

「大丈夫だったの?」

「リ、リンジ様! ごごごご、ご無事でしょうか!」

「とりあえずチェルシーは落ち着こうな?」

「は、はいいいいぃぃっ!?」


 麟児の呼び掛けにさらに慌てるチェルシーを見て、彼は小さく息を吐きながら苦笑を浮かべる。

 体に残っていた妙な緊張感が一気に抜け落ち、続けて麟児は軽く微笑んだ。


「……それで、どうだったのだ?」

「どうだったって、何がだ?」

「海竜だ。倒したのだろう?」

「あぁ、問題ないよ。……あの野郎、俺の事を全く覚えていなかったけどな!」

「覚えていない? どういう事なの?」

「あれ? 聞こえていなかったのか?」


 首を傾げるフォンを見て、麟児は伝えるべきか否か悩んでしまう。

 僅かな時間とはいえ、フォンはフレイヤたちと共に旅をしてきた、いわゆる仲間である。

 そんなフレイヤが恨み節でフォンの名前を叫んでいたと知れば、彼女はどう思うだろうか。


「……教えて欲しい、リンジ」

「……あんまり気持ちのいい話じゃないぞ?」

「うん、構わない。僅かな時間だけど、仲間だった人だから」

「……そっか。なら、伝えるよ。フレイヤの最後をな」


 海岸からバールバーンへと続く道の途中、麟児たちは木陰になっている場所に腰を下ろすと、彼はフレイヤの末路をフォンに伝えた。

 話を聞いていくとチェルシーが顔を青ざめていたが、フォンは真剣な面持ちで表情を崩す事なく、麟児の話を真正面から受け止めている。

 最後の言葉にこそ僅かに表情を歪めていたが、それでもフォンは最後まで話を聞き終わると、ようやく息を大きく吐き出した。


「はああぁぁぁぁ。……そっか」

「……大丈夫か、フォン?」

「うん、大丈夫。私よりも、リンジには辛い思いをさせてしまった。本当にごめんなさい」

「もう謝罪はいいって。それに今回のはお前が悪いわけじゃないだろう?」

「そう、だけど……」

「それなら謝る必要は全くないよ。それより……あっちに声を掛けた方がいいんじゃないか?」

「えっ?」


 麟児が示した先にいたのは、顔を青ざめて涙目でフォンを見つめているチェルシーだった。


「チェ、チェルシー? どうしたの?」

「……フォ、フォンさま~! 私は一生、フォン様についていきますからね~!」

「えっ? いや、一生は私も遠慮しようかしら?」

「そ、そんな~!」


 場の雰囲気が一気に和やかなものに変わっていく。

 チェルシーがいるだけでこうも変わるものかと驚きつつも、彼女がいなければしばらくこのままの暗い雰囲気だっただろうと思えば、誰もがいてくれてよかったと考えるだろう。

 特にフォンはチェルシーを助けるためにフレイヤたちとの別行動を選んでいる。この選択が正解だったと、今の彼女は心の底から思っていた。


「……でも、嬉しい。ありがとう、チェルシー」

「フォ、フォンさま~!」


 泣きじゃくるチェルシーの頭を撫でているフォンを見つめながら、麟児はマグノリアへ声を掛けた。


「なあ、マグノリア。津波の方は大丈夫だったか?」

「問題ない。バールバーンには届いていなかったからな」

「そうか、ならよかった」

「……なあ、リンジ。先ほどのモンスターたちを倒して、お前のレベルはどうなっている?」

「どうって……そういえば、確認してなかったなぁ」


 合流する事を優先していた麟児はフレイヤを倒してからステータスを確認していない。

 しかし、何やら申し訳なさそうにしているマグノリアを見ていると、彼女のレベルが上がったんだろうなと予想はできた。


「なんだよ、貴重な経験値を奪っちまったとか思っているのか?」

「……あぁ」

「あれ? 今日は素直なんだな。とはいえ、フレイアドラゴンより弱かったし、上がっても一つか二つくらいじゃないか?」

「……あそこから上がる方が異常なんだがなぁ」


 全く気に留めていない麟児にため息をつくマグノリア。

 じゃれ合っていたフォンとチェルシーも麟児がステータスを確認すると気づいたのか、その視線を彼に向けてきた。


「あの、私たちも教えてもらって構わない?」

「ものすごく気になります!」

「あぁ、構わないよ。というか、俺も二人のステータスを見せてもらったしな」

「……リンジのステータスを見て、驚かないようにね?」

「そんなにすごいの?」

「お、脅さないでくださいよ、マグノリア様」

「おっ! 一つ上がってレベル306だな!」


 会話の流れからサラリと告げられた麟児の異常に高いレベル。


「「……えっ? ええええぇぇええぇぇっ!?」」


 当然ながら、続いたのはフォンとチェルシーの驚愕の声だった。

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