第32話:喰らいしもの 1
洞窟から戻ってきた翌日、麟児とマグノリアは詳細を説明するためにベラギントスと昼食を共にしていた。
「……あの、村長。私も一緒で良かったのでしょうか?」
「構いませんよ。話を聞くのにわざわざ昼食だけを別にする意味などありません。それに、大勢で食べた方が食事は美味しいですから」
「はぁ。リンジもすまないな。また肉を提供してもらって」
「ん? あぁ、気にするな。無限収納にはまだ入っているからな」
最下層からの戻りで遭遇したモンスターを大量に倒して片っ端から無限収納に放り込んでいた麟児は、今日も村人へモンスターの肉を配る予定を勝手に立てている。
「それで、洞窟の調査についてですが……転移魔法陣の破壊はできたと簡単には伺っています」
「はい。それなのですが……洞窟の主を、麟児が倒してしまいました」
「ほほう! それは嬉しい誤算ではないですか、マグノリア!」
「そして、麟児のレベルが300を超えました」
「……はい?」
「正確に言えば、レベル305です」
「…………あぁ……頭が痛くなってきました」
頭を抱えて下を向いてしまったベラギントス。
「えぇっ!? で、でも、マグノリアだってレベル102じゃないか!」
「………………マグノリアまで規格外に。……私は何も聞いていませんからね?」
そこへ追い打ちを掛けるようにさらなる事実を告げられたベラギントスが現実逃避を始めると、しばらくして一度咳払いをして話を戻した。
「ゴホン! えぇー……主を討伐したという事は、今頃は新たな主の争奪戦ですか」
「それも二度目の」
「……に、二度目? ちょっと待ってください、心の準備をしますから」
予想外の発言にベラギントスは身構えたが、麟児は苦笑しながら事情を説明した。
「俺が転移した時点で、洞窟の最初の主が寿命で死んでいたんですよ」
「……あ、あぁ、なるほど。そういう事でしたか」
「それを俺が喰らったみたいで」
「……はい?」
「あのフレアドラゴンも災難だったよなぁ。都合、一日で主じゃなくなったんだから」
「……も、もういいですよ! そうですか、それなら安心ですね!」
「ん? 何をそんなに怒っているんですか?」
「怒っていませんから!」
声を張り上げているベラギントスに首を傾げつつ、マグノリアが話を続けた。
「これで、ジパングにあった転移魔法陣は全てなくなりました」
「そうですか。ご苦労様でした、マグノリア」
微笑みながらそう口にしたベラギントスが立ち上がると、お茶を入れてくると言って台所へ歩き出す。
残された二人は改めてステータスを確認した。
■名前:食野麟児 ■年齢:19歳 ■性別:男性
■世界線:日本 ■種族:人族
■ギフト1:悪食【全ての食材を美味しく食べられる】
■ギフト2:ストック【喰らい尽くした相手のギフトを一度だけ使用可能にする】
■ギフト3:????
■レベル305 ■HP30500/30500 ■MP3050/3050
■攻撃:6010 ■防御:6010 ■体力:6010
■速さ:6010 ■賢さ:15250 ■幸運:100
■スキル:経験値共有、状態異常無効化、上級鑑定、無限収納、気配察知、危機察知、HP自動小回復、MP自動小回復
■ストック:剛腕の一撃×5、パーフェクトヒール×5、黒炎×2、氷獄×2、暴雷×3、針億本×3、身体強化極大×7、魔力強化極大×16、隠密×20、暴風刃×3、炎蛇×1、水爆×5、エリアヒール×3、ハイヒール×4
■名前:マグノリア ■年齢:100歳 ■性別:女性
■世界線:アルター ■種族:魔族
■ギフト1:魔法剣召喚【地獄の炎を纏った魔法剣ヴォルズガングを召喚できる】
■ギフト2:魔眼・魅了【目があった相手を魅了にかける】
■ギフト3:使役【モンスターを使役することができる】
■レベル102 ■HP12240/12240 ■MP7140/7140
■攻撃:7140 ■防御:5100 ■体力:7140
■速さ:8160 ■賢さ:5100 ■幸運:20
■スキル:上級剣術、上級火魔法、上級風魔法、中級水魔法、気配察知、状態異常半減
麟児には新たなスキルが備わり、詳細は不明だがギフト3が表示された。マグノリアは風魔法が中級から上級に上がっている。
麟児としてはギフト3が気になるところだが、条件を満たせば詳細も表示されるだろうと楽観的に考えている。むしろ、それよりも大きな問題を見つけてしまい肩を落としていた。
「……レベルは3倍近く高いのに、能力値はマグノリアの方がほとんど高い」
「魔族と人族では元の能力値が違うからな。麟児の能力値は人族の中でも低いのだろう?」
「そうだけど、現実を目の当たりにするとさすがに落ち込むぞ」
麟児が上回っている能力値は運を除けばHPと防御と賢さのみ。言葉にすると普通のように聞こえるが、レベル差を考えるとどうしても納得し難いものがあった。
「おや? どうしたのですか?」
戻ってきたベラギントスが落ち込んでいる麟児を見つけて首を傾げる。
事情を説明した麟児だったが、ベラギントスは当然かのように頷いた。
「それはそうでしょうね。そもそもの体の作りから違いますから」
「そりゃそうですけど、納得し難いものがあると言いますか、なんと言いますか」
「まあ……別の世界線から召喚された者としては破格の低さだと思いますがね」
「ぐはっ!?」
すでに崩れそうになっていた麟児の心に止めを刺したのは、ベラギントスの言葉だった。
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