第30話:若い主 4
「ぶっ刺されええええええええっ!」
麟児の狙いは突き刺さったままのミスリルの針。
身体強化極大を使った状態での一撃ではわずかに反動を感じた程度だったが、それでも確かに食い込んでいく感覚を得る事はできた。
身体強化極大で五倍になった攻撃に加えて3秒の溜め時間を得た一撃は――フレアドラゴンの防御を遥かに上回る89700の威力を誇っていた。
『グルオオガアアアアアアアアッ!?』
殴るだけでもダメージはあっただろう。しかし、今回はミスリルの針越しに殴りつけている。
ミスリルの針はフレアドラゴンの肉体に深く突き刺さり、肉を裂いて骨を砕き内側からダメージを与えていく。
「……それでも、まだ一割くらいしか削れていないんだよなぁ」
麟児の言葉通り、ダメージと言える攻撃を与える事には成功したが、それでも一割を削れた程度で倒すにはまだまだ足りていない。
そして、フレアドラゴンは麟児が自らの防御を上回る攻撃を放てると知って警戒を強めている。同じ手が通用しない事は一目瞭然だった。
「はぁ……はぁ……まだ、なのか?」
即死でなければ回復する事はできるが、体力や精神力まではどうしようもない。あくまでも肉体的ダメージだけが回復しているのだから。
『グルルゥゥ……コオオォォォォ』
その時、フレアドラゴンから今まで聞いた事のない鳴き声が聞こえてきた。
何をするつもりなのかと警戒していた麟児だったが、それが意味を成さないという事に気づいた時にはすでに遅かった。
「……おいおい、まさか、嘘だろ!?」
『グルオオオオアアアアアアアアッ!!』
「逃げ場のない特大の――ブレス!」
フレアドラゴンの肉体から放たれる異常なまでの熱量に、麟児の思考は激しく回転を始めた。
広範囲に放つなら通常であれば威力は落ちるだろう。しかし、フレアドラゴンから放たれる異常なまでの熱量を考えると広範囲に高威力のブレスが放たれる。今から後方へ下がったとしても射程外に逃げる事はできないと判断した。
「魔力強化極大!」
避ける事も、そして逃げる事もできないと判断した麟児は――その場に留まる事を選択した。
「一点突破だ! 暴雷三連射!」
魔力強化極大で高めた魔力で放たれた暴雷の三連射。ブレスが直撃する直前に一点へと集中させる事で穴を開ける。
避ける事も逃げる事もできなければ、その場に留まり耐えるしかない。
選択した答えはあまりにも危険であり、一歩間違えれば即死になる事は間違いない。
さらに、穴を開ける事ができたとしてもブレスに触れれば一瞬で炭化してしまうだろう。
それを防いでいるのが、麟児の周囲に顕現している地獄の炎だった。
「黒炎が、こんなところで役に立つとはな!」
地獄の炎は相手を燃やし尽くすまで消える事はないが、その熱が使用者に伝わる事はない。
自分の周囲に黒炎を顕現させる事で、即死につながる僅かな可能性すらも排除していた。
『アアアア――ゴガアアアアッ!?』
これは嬉しい誤算なのだが、ブレスを貫いた暴雷がフレアドラゴンの口から体内へ侵入して内側からダメージを与えたのだ。
加えて体内に深く突き刺さったミスリルの針が暴雷の威力を増幅させていた。
苦肉の策で放たれた暴雷だったが、これでフレアドラゴンのHPを三割削る事ができた。
「……これで、三割かよ」
水爆と氷獄だけではなく、今の三連射によって暴雷のストックもなくなってしまった。
残っているストックでいえば威力の高い黒炎が通じないだけではなく、炎蛇も暴風刃も威力が足りていない。針億本も突き刺す事はできるがダメージには至らなかった。
唯一ダメージを与える事ができる剛腕の一撃も残すストックはたったの4。
このままではジリ貧であり、マグノリアと合流できても一緒になって逃げ切れるかも怪しい状況になってしまった。
「……完全に怒らせちまったなぁ」
『グルルゥゥゥゥ……グルオオアアアアッ!』
血走らせた瞳が麟児を睨みつけ、絶対に逃がすつもりがないという意思が伝わって来た。
「こうなったら、やるしかないか!」
覚悟を決めた。むしろ、こうするしか方法が思い浮かばない。
最後の手段にと取っておいたストックを使用するため、麟児は念のためにと距離を取る。
『グルオオオオアアアアアアアアッ!』
逃げるつもりと思われたのか、フレアドラゴンは大咆哮をあげて巨大な一歩を踏み出した。
「逃げねぇよ。こいつで決まらなかったら、俺は終わりだ。そんじゃあいくぜ――ラスト・オブ・アース!」
この洞窟の元の主が保有していただろうギフトであるラスト・オブ・アース。
その効果は大地を砕き地獄に滅する。
地獄に近いだろう最下層にいる状態で放たれたラスト・オブ・アースがどのような効果を発揮するのか全く分からない。そもそもの効果が分かっていない。
だが、最下層に近いモンスターを喰らって得たストックの威力が高かった事から、元の主が持っていたギフトは黒炎や暴雷、氷獄よりも高威力の可能性が高かった。
『グルオオアアアアッ!』
さらにもう一歩踏み出して彼我の距離が狭まっていく。だが――
――ガツンッ!
地面を踏みしめるのとは異なる音が洞窟内に響き渡る。
その正体に最初に気づいたのは麟児だった。
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