第8話:魔族領ジパング 5

 ◆◇◆◇


 麟児が洞窟に飛ばされてから二週間が経過した。

 腕時計を見ながら壁に傷を彫り、ステータスを確認する。


■名前:食野麟児 ■年齢:19歳 ■性別:男性

■世界線:日本 ■種族:人族

■ギフト1:悪食【全ての食材を美味しく食べられる】

■ギフト2:ストック【喰らい尽くした相手のギフトを一度だけ使用可能にする】

■レベル273 ■HP27300/27300 ■MP2730/2730

■攻撃:5460 ■防御:5460 ■体力:5460

■速さ:5460 ■賢さ:8190 ■幸運:100

■スキル:経験値共有、状態異常無効化、上級鑑定、無限収納、気配察知、危機察知

■ストック:ラスト・オブ・アース×1、剛腕の一撃×10、パーフェクトヒール×7、黒炎×6、氷獄×5、暴雷×5、針億本×4、身体強化極大×25、魔力強化極大×25、隠密×40


 初日でレベル132に到達したのに対して、二週間経った時点でのレベル273は少しだけ物足りなかった。


「……まあ、レベルが上がれば次のレベルまでの経験値が増えるのは当然だよな」


 もっと上がってくれても良かったのではと思ってしまうのは贅沢だと気持ちを切り替えて、麟児はとうとう動くことにした。


「ストックもだいぶ貯まったし、スキルの気配察知と危機察知も十分役に立つからな。洞窟を脱出するぞ!」


 特に気配察知と危機察知は洞窟を脱出するうえで一番大事になってくると考えていた。


■気配察知:生物の気配を察知することができる。

■危機察知:危機が迫ってくるとそれを察知することができる。


 事実、麟児は一度危機察知に助けられていた。

 食糧を探して階段を上り探索している途中、天井が崩れて巨大な岩が落ちてきたことがある。化け物の仕業ではなかったこともあり気配察知が発動しなかった中、危機察知が発動してくれたおかげで何とか岩を回避することができたのだ。

 食糧探しには気配察知がとても活躍してくれたこともあり、麟児はこの二つのスキルを重宝していた。

 行き止まりの階層から階段を上り、そこで気配察知を意図的に発動させる。こうする事で察知できる範囲が通常時よりも拡大できるからだ。


「……よし、近くにモンスターはいないな」


 麟児は食糧として喰らっていた存在を化け物と呼んでいたが、それは間違っていた。

 知る事ができたのは上級鑑定にて化け物を鑑定した時の事だ。

 名前、ギフト、レベル、能力値、スキルと、自分のステータスとほぼ同じ項目が表示されたのだが、名前の部分だけが【モンスター名】と表示された事で判明した。

 化け物の正体がモンスターだと分かった事で、麟児は別の事でもホッとしている。


「……モンスターが魔族じゃなくてよかった」


 安堵するには早いかもしれない。

 しかし、魔族が交渉に応じてくれる可能性が残った事が今の麟児には重要だった。

 歩き始めた麟児は、二週間の探索の成果ですでに上へとつながる階段を見つけている。

 それでも真っすぐに階段を目指すのではなく、モンスターがいない道を選んで進む。

モンスターがいない道を選んでいるのは、何が起こるか分からない以上、なるべくストックを減らしたくないと考えているからだ。

 気配察知の有能さに感動しつつも、ようやくたどり着いた上層へつながる階段を見つめながら、麟児は大きく深呼吸をする。

 探索をしていたのはあくまでもこの階層のみで、上の階からは未知の領域になる。緊張しないわけがなかった。


「……大丈夫。俺なら、やれる」


 そう自分に言い聞かせながら階段を上ると、そこには下の階で見たものとは全く異なる光景が広がっていた。


『ゲギャギャギャギャ!』

『ウッホホオオオオッ!』

『ヒョオロロオオオオッ!』

『ゲゴゲゴゴオオオオッ!』


 見たことのないモンスターが所狭しに溢れかえっており、下の階に流れてこなかったのが奇跡だと思えてしまう光景だ。

 だが、悠長に感想を抱けるのも一瞬の事だった。

 一匹のモンスターが下の階から現れた麟児に気づき、そこから一気に広がっていく。

 最終的には視界に収まらない場所にいるモンスターにまで、麟児の存在は気づかれてしまったのだ。

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