第21話:洞窟攻略 4

「はあっ!」

『ブルフオッ!?』


 マグノリアの剣が迫る猪に似たモンスターの首を一振りで落としてしまう。

 レベルが一気に10上がった事による能力の向上が一番の原因だが、それでもマグノリアは自分の力に驚きを覚えていた。


「まさか、ここまで強くなれているとは」

「なるべく多くのモンスターを倒しながら進めば、もっとレベルが上がるんじゃないか?」

「それはそうですが、止めておきましょう。目的はレベル上げではなく、転移魔法陣の破壊ですから」

「あー……そうだったな」

「リンジ、忘れていたのですか?」

「……少しだけ」


 呆れ顔を見せたマグノリアだったが、すぐにモンスターの気配を察知して視線を外す。

 視線の先から現れたのは、兎に似た姿のモンスターだった。


「なんか、可愛くないか?」

「リンジ、あなたは……この距離だからそう見えているだけで、相当に巨大ですよ?」

「巨大? あの兎が……って、ええええぇぇっ!?」

『キュキュウウウウッ!』


 強靭な脚力で飛び上がった兎のモンスターはくるりと体勢を変えて天井に足をつけると、今度は地面を蹴りつけて二人に迫ってくる。

 あまりの速度に慌てて飛び退いた麟児だったが、マグノリアは冷静に兎のモンスターを見据えながら剣を二度振り抜く。

 額から伸びた一本角が斬り飛ばされると、返す剣で胴体が両断される。


『ギュ、ギュギュグウウウウゥゥッ!?』

「胴体を分かたれても息をしているか。さすがはモンスターですね」


 まだ呻き声を漏らしているモンスターを見据えながら、剣を鋭く振り抜き止めを刺す。


「……これが、戦士なのか」


 数字だけを見れば麟児が圧倒的に上回っているが、戦士としての力量ではマグノリアに分があるだろう。

 目の前の結果から見て、マグノリアのレベルアップが総合的に見れば攻略のカギになるのではと麟児は思い始めていた。


「……なあ、マグノリア」

「どうしましたか、リンジ?」

「この兎、喰らっていいか?」


 突然の提案にマグノリアは首を傾げる。


「……今、ここでですか?」

「時間が惜しいし、俺の悪食スキルを使えばマグノリアに更なる経験値が入るはずだ」

「リンジ! あなたはまた経験値を簡単に――」

「俺にはマグノリアみたいな戦士としての勘が備わっていない。ストックで手に入れたギフトがあるけど、不意の攻撃には対応しきれないと思う。なら、手っ取り早くマグノリアに強くなってもらう方が確実に攻略できると思ったんだよ」


 麟児なりに考えた結果だ。

 そして、その考えを聞いたマグノリアも考える事があった。


「……確かに、瞬間的な判断能力は私の方が上でしょう。ですが、それを含めたとしても私とリンジとの間には大きな実力差があると思いますが?」

「それでもだ。……俺も、まだまだ死にたくないからな」


 肩を竦めながらそう口にした麟児を見て、マグノリアの厳しい表情が和らいだ。


「……分かりました。まあ、モンスターを喰らう事で当然ながらリンジにも経験値は入ります。そのついでで私にも経験値が入るなら、それに報いる働きをしましょう」


 戦士、というよりは騎士の誓いのような言葉をマグノリアは口にした。

 マグノリアの許しが出た事もあり、麟児は一つ頷き兎のモンスターに喰らいついた。

 俺の意思で喰らいつこうと思っていたからか強烈な飢餓感に襲われて一心不乱に喰らいつく。

 こうなれば自分ですら止める事はできない、悪食の支配化のようなものだ。


「……これが、悪食。そして、リンジなのか?」


 モンスターに喰らいつく麟児の姿を見て、マグノリアは恐怖と共に唾を飲み込む。

 その姿は悪食というギフトの事を知らなければ、獣だと言いたくなる姿だったからだ。


「んぐっ! ……ふぅ、んぐぐがっ!」


 麟児の倍以上はあるモンスターの肉がどんどんと胃袋の中に吸い込まれていき、最終的には骨だけが残された。

 あまりの食べっぷりに固まっていたマグノリアだったが、麟児が一息ついている姿を見てハッと我に返る。


「……す、凄い食べっぷりでしたね、リンジ」

「ん? あー、悪食を発動させると、飢餓感に苛まれて周りが見えなくなるんだよ」

「そうですか。……まあ、確かにあの食べっぷりでは、周りは見えていなさそうですね」


 我に返ったからと言って冷静に対応できるわけでもない。

 呆れ顔を浮かべながら、麟児とモンスターの骨を交互に見ている。

 そして、一つため息を付きながらステータスを開いた。


「……不思議なものですね。本当に、またレベルが一つ上がっています」

「俺は……あー、まだ上がらないか」

「いえ、それは普通の事かと」


 最後の発言だけは冷静そのものだったが、マグノリアは大きく息を吐き出しながら自身のステータスを改めて確認する。

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