第20話:洞窟攻略 3
「……え?」
「どうしたんだ、マグノリア?」
麟児の問い掛けに、マグノリアは反応することなくステータス画面を凝視している。
「……マグノリア?」
「はっ! す、すみません、リンジ」
「いや、構わないが……本当にどうしたんだ?」
「それが……私のレベルが、上がっているんです」
「おぉっ! やったじゃないか!」
「あ、ありがとう。……じゃなくてだな! どうして私のレベルが上がったのか、疑問に思わないのか? それも、一気に10も上がったんだぞ!」
レベルは1ずつ上がるのが普通であり、一気に上がるにしてもせいぜい2が限度だろう。
それにもかかわらず、あまり戦闘に参加しなかったマグノリアのレベルが10も上がるというのは明らかな異常事態であった。
「……へぇ、10かぁ」
「お、驚かないのか、リンジ!?」
だが、レベルが一気に132まで上がった事のある麟児からすると、そこまで驚く事ではなかった。
「……ま、まあ、いい。リンジは規格外だからな」
「規格外って」
「それよりもだ! どうして戦闘に参加していない私のレベルが10も上がったのか、それが問題だ!」
「たぶん、俺のせいだと思うぞ?」
「……何だと?」
驚愕の表情のまま麟児を見つめてくるマグノリアに、麟児は証拠を見せる事にした。
「これ、俺が最初から持っていたスキル」
「このスキル……経験値共有? 聞いた事がないが、これはいったい?」
「経験値共有は、仲間と経験値を分け合う事ができるスキルなんだ」
「……なん、だと?」
「だから、俺が倒したモンスターの経験値がマグノリアにも与えられた――」
「リンジ!」
「……はい?」
経験値共有の説明をしていると、突然マグノリアが声を張り上げた。
あまりに突然の事に、麟児はポカンとした顔でそちらに視線を向ける。
「お前、それを知っていながら戦っていたのか!」
「いや、すっかり忘れていたというか。まあ、レベルは十分高いし別に気にしてないし」
「気にしろ! 命を懸けて戦っているモンスターを倒した経験値が、楽をしている私に分け与えられているんだぞ! そこは怒るところだろうに!」
マグノリアが戦士だからこそ、手柄を横取りした気持ちになってしまったのだろう。
だが、麟児としては経験値を分け合えるならそれに越したことはないと考えていた。
「一緒に洞窟を攻略している仲間だぞ? 仲間が強くなれば、その分俺も楽をできるわけで、無駄ではないだろう」
「お前という奴は……はぁ。まあ、そう言ってくれるなら、ありがたく受け取っておく」
「というか、返せないしな!」
「ぐぬっ! ……まあ、そうだな」
ガクッと肩を落としてしまったマグノリアに何度目になるか分からない苦笑を浮かべると、立ち上がった麟児は大きく伸びをする。
「うーん……よし、それじゃあそろそろ行くか」
「……リンジ。これから先は、私が戦ってもいいでしょうか?」
「構わないけど……いいのか?」
「もちろんだ。その、リンジは気にしていないと言うが、私が気になるのでな」
「結局そこに行きつくんだな」
「し、仕方がないだろう! その分、リンジはできるだけ体力を温存しておいてくれ!」
どちらも本音だろうと麟児は思った。
下層に行くにつれてモンスターのレベルは高くなる。今はまだマグノリアでも戦えているが、レベルが三桁になれば難しくなる。
それをマグノリア本人も理解しているからこそ、体力を温存しておいてほしいのだ。
「分かった。それじゃあ、しばらくはよろしく頼むよ、マグノリア」
「任せてくれ」
そして、二人は十一階層へ足を踏み入れた。
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