第19話:洞窟攻略 2

 洞窟の前に到着した二人は、改めて装備の点検を行う。


「リ、リンジ殿。それはもしかして?」

「えっと、ベラギントスさんから押し付けられました」

「押し付けられたって。ですが、デスソードに認められるとは……やはり凄い才能ですね」


 麟児が抜いたデスソードを目の当たりにしたマグノリアは感心している。

 一方で麟児は本当に自分なんかが使っていいのかと疑問に思っていた。


「レベルが高いだけで、俺は剣術なんて習った事もないんですけどね」

「武器のあるなしは、戦場に置いて有利不利にもつながります。貰える物は貰っておいて損はないかと」

「……まあ、そうですね」


 モンスターが巣食う洞窟へ向かいのだからそれもそうかと納得し、麟児は漆黒の刀身をしばらく見つめていたが、そのまま鞘に戻した。


「マグノリアさんが使っている剣には名前ってあるんですか?」

「これですか? いいえ、ありません。ごく普通の剣ですね」

「そうなんですね。バールバーン一の戦士と聞いていたので、てっきり凄い剣を使っていると思ってました」

「バールバーン一ですが、魔族全体で見れば普通ですからね。……それと、リンジ殿」

「なんですか?」


 マグノリアから剣を鞘に納めながら声を掛けられ、返事をしつつ振り返る。


「モンスターとの戦闘中、さん付けでは面倒かと思います。なので、私の事はマグノリアと呼んでください。それと、敬語も不要で」

「分かりまし……いや、分かった。それなら、俺の事も麟児と」

「分かった。では……リ、リンジ」

「あぁ、マグノリア」


 何故か照れながら名前を口にしたマグノリアに苦笑しつつ、麟児は返事をする。


「……い、行きましょう!」

「あぁ、行こう」


 大股で洞窟に入っていくマグノリアの背中を見つめながら笑みを浮かべ、麟児もついていくのだった。


 昨日はマグノリア一人で十階層まで到達している。麟児は下層から上層に向かう事でレベルの高いモンスターとは戦闘済み。

 浅い階層では全く問題なく進むことができているが、マグノリアの提案でしばらくは麟児が剣術で倒していく事になった。


「大振りになるな!」

「お、おう!」

「前だけに気を取られ過ぎだ! 左右後方全てに気を配るんだ!」

「お、おう?」

「素早く振り抜け! 無駄な動きを全て削ぎ落すんだ!」

「い、いきなりは無理だろうに!?」


 こんな感じでマグノリアが指導をしながらの道中となる。

 そして、二時間と掛からずに二人が出会った十階層まで辿り着いた。


「……あっという間でしたね」

「マグノリアが一人の時はどれだけ掛かったんだ?」

「……半日は掛かったかと」

「……ま、まあ、今回は二人だからな!」


 何故か申し訳なく思ってしまい、麟児は空笑いしながら二人だからと口にする。

 そして、麟児も下層から十階層分を上って来た話を覚えていたのか、マグノリアから休憩をしようと提案された。


「リンジは大丈夫だと思うが、私は初めて足を踏み入れる階層になるから、念には念をと思いまして」

「そういう事か。わかった、そうしよう」


 二人は十一階層へ繋がる階段前に陣取り、麟児が無限収納から昨日の残り物を取り出して手渡した。


「……まさか、洞窟の中でちゃんとした食事が食べられるとは思いませんでした」


 驚きの声を漏らすマグノリアだったが、麟児としても二人の時に生肉を食べるわけにはいかないと思っていたので非常にありがたかった。


「それで、リンジ。一つ質問なのだがいいかな?」

「ん? なんだ?」

「返答は飲み込んでからで構わない。十一階層からのモンスターについてだ。事前に知っているのと知らないのとでは立ち回りも変わるから」

「あー……すまん、実はあまり覚えていないんだ」

「そうなのか?」

「あぁ。外に出たい一心で突き進む感じだったし、途中の事やモンスターについてもあまり覚えてなくて……本当にすまん」


 元々戻ってくるつもりもなかった場所でもある。そのせいもあって、麟児は道中の事をあまり覚えていなかった。


「そうでしたか。いえ、謝る事ではありません。私もリンジと同じ立場であれば、そうしたでしょうから」

「ははは。……そうだ、ここまででレベルが上がったか確認してみるか。ステータス」


 モンスターのレベルが低い事もありあまり期待せず確認を行う。


「……あー、やっぱり上がってないか」

「レベル281もあればそう簡単には上がらないだろう。では、私も――ステータス」


 ここまでほとんど指導をしていたマグノリアのレベルが上がる可能性も少ないだろう。

 とはいえ、自分の能力を把握するのも生き残るうえでは大事である。そう思っての確認だった――のだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る