第36話:喰らいしもの 5

「……そうか。ありがとな」

「……え?」

「俺のために危険を冒してここまで来てくれたんだろ? そりゃあお礼の一つくらいはな」


 顔を上げたフォンは目を見開いて驚いている。

 お礼を口にした麟児は恥ずかしそうに視線を逸らしながらここでも頭を掻いていた。


「……それにしても驚いた」

「茶化しているのか?」

「ううん、違う。もっと怒鳴られると思っていた」

「最初に怒鳴ったじゃないか」

「あれよりも、もっと。だって……見捨てたから」

「言えなかったんだろ?」

「そうだけど、それでもね」


 苦笑するフォンにどう答えたものかと考えていた麟児だったが、今の自分の気持ちを素直に口にする事にした。


「……たぶん、マグノリアやベラギントスさん、それにバールバーンの村人のおかげだな」

「え?」

「私たち?」


 急に名前を出された二人が驚きの声をあげる。


「あぁ。俺だけで洞窟を脱出していたら、恨みの気持ちだけで復讐に走ってたと思う。誰も信じられなくなっていただろうからな」

「それが、私たちのおかげで変わったの?」

「あぁ。マグノリアが助けてくれて、ベラギントスさんが話を聞いてくれて、そのおかげでこの世界にも良いところはあるんだなって思えたんだ」


 転移させられた直後はガルガンダやフレイヤたちに復讐したい気持ちがくすぶっていた。それはレベルが上がり脱出を決意した時も同様である。

 だが、マグノリアやベラギントスと出会う事でそれらの気持ちは徐々に霧散していた。

 フォンと再会した最初こそ怒鳴ってしまったが、ベラギントスの屋敷へ向かう時にはすでに怒りではなくフレイヤたちがいない事に対する疑問が頭の中に浮かんでいたほどだ。


「そういえば、二人はフレイヤたちの居場所までは分からないんだよな?」


 話題を変えようと麟児はこの場にいないフレイヤたちの名前を出した。


「分からない。たぶんジパングに向かっているとは思うけど……」

「そうか。それじゃあ、あいつらがジパングに来た時の事を考えた方が生産性はありそうだな。参考にしたいんだが、フォンのレベルを教えてもらってもいいか?」


 今は分かれているとはいえ、元々は一緒に行動していたのだ。フォンのレベルがフレイヤたちのレベルに近いと考えるのは当然だろう。


「多少の差はあると思う。けど、あまり変わらないはず。ステータスを開示するね」


 そう口にして開示されたステータスを見た麟児は、口を開けたまま固まってしまった。


■名前:フォン・レイリン ■年齢:20歳 ■性別:女性

■世界線:おん ■種族:人族

■ギフト1:歌唱支援【歌の効果で支援を行う】

■ギフト2:壊音波【超音波を放ち振動で攻撃する】

■レベル15 ■HP2000/2250 ■MP1500/2250

■攻撃:450 ■防御:450 ■体力:750

■速さ:450 ■賢さ:2250 ■幸運:50

■スキル:上級音魔法、上級支援魔法、状態異常半減、下級鑑定、下級調合


 マグノリアやベラギントスの話を信じていないわけではない。それでも自分と同じように別の世界線から召喚された者なら同様にレベルが高いと思っていた。

 しかし、蓋を開けてみるとフォンのレベルは15と予想以上に低く、麟児がストックを使わずとも倒せてしまう能力値だった。


「……もしかして、フレイヤたちも似たようなレベルなのか?」

「うん。そう言えば、リンジのレベルはどれくらい? 転移させられた後、どうだったの?」


 どう答えていいか分からなくなり隣に座るマグノリアを横目に見た。

すると、マグノリアも麟児と似たような表情を浮かべている。自分も規格外のレベルになってしまったから麟児の驚きに共感したのだろう。

 ベラギントスだけは二人と違い普通のレベルなので素直に受け止めていた。


「人族としては元の能力値が高いようですね」

「そうみたいです。チェルシーのステータスも見る?」

「……さ、参考までに」


 フォンの提案に麟児が頷き、チェルシーもステータスを開示した。


■名前:チェルシー・サリーダ ■年齢:20歳 ■性別:女性

■世界線:アルター ■種族:人族

■ギフト1:身体強化・中【身体能力が向上する】

■ギフト2:高速解体【動物やモンスターを素早く解体できる】

■レベル30 ■HP1900/2400 ■MP300/900

■攻撃:900 ■防御:900 ■体力:1200

■速さ:1200 ■賢さ:900 ■幸運:30

■スキル:空間収納、料理、下級火魔法、下級水魔法


 レベルはチェルシーの方が高いが、レベル差の割にフォンとの差は大きくないと感じた。

 これも元の能力値に差があるからだと理解したものの、それでも麟児のレベルや能力値と比べると大きな隔たりがあり困惑を隠せない。


「……あの、どうしたの、リンジ?」

「あー……やっぱり、俺って規格外、なのか?」

「リンジ以外の勇者がこれだと、そうかもしれないな」

「あなたもすでに規格外ですよ、マグノリア」

「「……?」」


 麟児たちのやり取りを聞きながら首を傾げるフォンとチェルシー。

 そこで麟児が自らのレベルを口にしようとしたその時――問題が起きた。

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