第35話:喰らいしもの 4
自分の思考が不思議なくらいに別のところへ向いている事に驚きつつベラギントスの屋敷に到着した麟児は、フォンの向かいに腰掛けると真っすぐに見つめた。
「それで、何があったんだ?」
「……まずは今の私たちの状況からなんだけど……私たちは、フレイヤたちから離れました」
「離れた? ……別行動をしているって事か?」
「違う。完全に仲違いをして離れたの」
「仲違いって、お前なぁ」
「フォン様は悪くありません!」
麟児が呆れたように呟くと、そこに口を挟んできたのはチェルシーだった。
「そういえば、お前は何なんだ?」
「わ、私は、空間庫スキルを持っていたので勇者様たちの荷物持ちとして同行していたチェルシーと言います」
「それで、どうしてお前がフォンを庇うんだ? 助けられたとか言っていたが?」
そこからはチェルシーがフォンの代わりに語り出した。
フレイヤたちのレベル上げに荷物持ちとして同行していたがレベル差があり疎まれていた事、ジパングへ向けて動き出すと自分たちの方が強くなりきつく当たるようになってきた事、そして決別するきっかけとなった未知のモンスターを相手に一人で戦わせようとした事。
「フォン様は私を庇って一緒に討伐を行ってくれたんです」
「それで、討伐を終えてそのまま逃げ出したって事か」
「逃げ出したって! ……いいえ、その通りです。私は、逃げ出しました」
「違う。チェルシーは逃げ出したんじゃない。自分の命を守ったのよ」
「……ありがとうございます、フォン様」
涙を流すチェルシーを見た麟児も言い過ぎたと思い頭を掻く。
「……すまん。俺も命の危機に晒されたら、どうにかして離れようとするはずだしな」
「……リンジは優しいのね」
「普通だろ。ってか、俺を見殺しにしようとしたあいつらが異常なんだよ」
「……そうね。うん、その通りよ」
そこからは二人が進んできた道のりについてをフォンが語り始めた。
フレイヤたちと別れた後も厳しい道のりは続き、モンスターからの襲撃も後を絶たなかった。
フォンが支援系のギフトやスキル持ちだった事も災いし、前線に立つチェルシーの傷も絶えず、港町に到着した時には衣服もボロボロで近くを通り掛かった冒険者に助けられていた。
そのせいもあってか滞在した一日だけで冒険者からは優しくされ、船頭にも助けられてなんとかジパングに到着する事ができたのだ。
「……なあ、一ついいか?」
「いいよ」
「フレイヤたちと別れてからは自由にする事もできたはずだ。それなのにどうしてわざわざジパングを目指したんだ?」
麟児の疑問、それは二人の目的地がジパングだった事だ。
口にした通り、フレイヤたちから別れた時点で二人は自由を手にしている。キシアンヌを抜けて別の人族の土地で暮らす事もできたはず。それにもかかわらずジパングに来たという事は、それなりに理由があるはずだと麟児は思っていた。
だが、フォンの口から語られた理由は単純なものだった。
「あなたに謝るためよ、リンジ」
「……はあ?」
「それに、私が事実を告げられなかった理由も教えておく必要があると思ったの」
「あー……そんな事も言っていたな。それじゃあ、その理由を教えてくれるか?」
麟児の言葉に居住まいを正したフォンは、真っすぐ見つめ返して口を開いた。
「……私はアルター以外でも、勇者として召喚された事があるの」
「確か、何度も行き来しているって?」
「うん。アルターの前にも二ヶ所で召喚された事があるから、ここで三度目」
「に、二ヶ所!? ……それは、面倒に巻き込まれるう体質なのか?」
「どうだろう。でも、たくさんの世界線で役に立てる潜在能力を秘めているって事になるから、良い事ではあると思う」
「良い事ねぇ。俺はすぐにでも元の世界線に戻りたいところだが……って、もしかして元の世界線にも戻れるのか?」
様々な世界線を行き来しているフォンが目の前にいると知り、麟児は地球に帰る事ができるかもしれないと淡い期待を持ってしまった。だが――
「……ごめんなさい。私も元の世界線に戻った事はないの」
「……そ、そうなのか」
「期待させてしまって、本当にごめんなさい」
「いや、俺の方こそすまん。お前も最初は困惑したはずだよな」
「……うん。その後も二回召喚されて、もうどうしたらいいのか分からなくなった時もある。でも、そのおかげで気づいた事もあるの」
少しだけ言い辛そうにしながらも、フォンは意を決したかのように言葉を発した。
「召喚された者に手違いなんて事は絶対にあり得ない。複数召喚された者がいたなら、その全員が必要であるべき存在なの」
「それをどうしてあの場で言わなかった……違うか、言えなかったんだ?」
「……それが、二回以上召喚された者のルールだから」
「ルールだって? ……それじゃあ、言い出せなかったのはフォンの意思じゃなくて、別の何者かの意思って事か?」
麟児の質問にフォンは静かに頷いた。
「何者の意思なのかは分からない。でも、そういうルールみたいなの」
「そのルールのせいで危険な目に遭わせたから、謝るために危険を冒してまでジパングに来たって事か?」
「……うん」
伸びていた背筋が徐々に丸くなり、こちらを真っすぐに見ていた視線が机に向いてしまう。
このままでは空気が悪いと感じた麟児は頭を掻きながら口を開いた。
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