第34話:喰らいしもの 3
村の入口に到着した三人だったが、一番の反応を示したのは麟児だった。
「……ど、どうしてお前が、ここにいるんだよ!」
「……生きていたのね」
「答えろ! どうしてここにいるのかって聞いているんだ――勇者、フォン・レイリン!」
「「ゆ、勇者!?」」
麟児の言葉にマグノリアは剣を抜き、ベラギントスも魔法をいつでも放てるよう準備を行う。
その直後、麟児とフォンの間に割って入ったのは、彼女の隣に立っていたチェルシーだった。
「お、お待ちください!」
「お前は誰だ? ガルガンダ王はまた別の世界線から勇者を召喚しやがったのか!」
「私はアルター人です! 私は、フォン様に助けていただきました!」
なんとか話し合いに持っていこうとしたチェルシーだったが、今の麟児にとってはフォンが人助けをしたと聞いたところで感情を抑えられるものではなかった。
「あぁ、そうだよな。お前は一緒に召喚された俺を見捨てたんだ。そりゃあ、勇者だと言っておだててくれるアルター人の事は助けるだろうよ!」
「ち、違います! フォン様は他の勇者様とは違います!」
「違わねぇだろうが! こいつは確かに俺を見捨てた! あの時だって、何も言わなかったじゃないか!」
フォンは何も言わなかった。
フレイヤが麟児を追放しようと言った時、レリーとジャグナリンダは便乗して声をあげたが、フォンは確かに、何も言わなかったのだ。
「……ごめん、なさい」
だからなのか、フォンは躊躇う事なく頭を下げて謝罪を口にした。
「……今さら謝られても、どうしようもないんだよ! 死に掛けた……俺は、死に掛けたんだからな!」
「……うん。本当に、ごめんなさい。謝って済む話じゃないのは理解しているわ。でも、今の私には謝るしかできない。そして、話を聞いてもらうしか――」
「話を聞くだぁ? ふざけてんのかよ! なら、どうしてあの時に何も言ってくれなかったんだ! どうして! ……どうして、俺を見捨てたんだよ」
拳を握りしめながらフォンを睨みつける麟児。
このままその拳を振り抜きたいと思っていても、わずかに残っていた理性でなんとか抑え込んでいる。もしもマグノリアやベラギントスと出会っていなければ、出会い頭で拳を振り下ろしていただろう。
「……事実を告げる事が、できなかった。それが、別の世界線を何度も行き来している者の、宿命だから」
「別の世界線を、何度も? それはいったい?」
「……話を、聞いてくれる?」
フォンの言っている事が事実なら、麟児はこの世界について、勇者召喚について知らない事が多過ぎると感じてしまった。
それと同時にフォンの話を聞かなければならないとも思ってしまった。
「……全てを、話してくれるんだな?」
「うん。今なら、全てを話す事ができる」
「……分かった。二人共、少し外してもいいかな?」
話の内容によっては二人を危険に晒してしまうのではないかと危惧した麟児は場所を移そうとしたのだが、二人は首を横に振った。
「せっかくですし、私の屋敷でお話を伺いましょう」
「私はまだそちらの二人を信用していない。何か変な動きをするようなら斬る。そのために同行させてもらうぞ」
「……こう言っているが、二人が聞いても問題はないか?」
「大丈夫。チェルシーはどうする? 聞かない方がいいかもしれないよ?」
最後にフォンはチェルシーに声を掛けた。
アルター人であり、この中では巻き込まれて一番被害に遭ったのが彼女だろう。
「いいえ、私も伺いたいと思います。この命は、フォン様のために使いたいので」
だが、チェルシーは即答で同行すると告げた。
「わざわざ問題に近づく必要はないと思うけど?」
「そうしないとフォン様と同行できないのであれば、私はあえて近づきたいと思います」
「……分かった。その、場所の提供、感謝いたします」
フォンがベラギントスに頭を下げる姿を見て、麟児は驚きを露にする。
そして、今になって思い返すと尊大な態度を取っていたのはフレイヤであり、レリーであり、ジャグナリンダだけだった。
フォンは静かに周囲を見ており、口数も少なく、そして追放の時には口を閉ざしていた。
「……それじゃあ、行きましょうか」
ベラギントスが促すと二人は歩き出した。
最後に麟児が歩き出すと、フォンの背中を見つめながら残りの三人がどうしていないのかと別のところに思考を向けていたのだった。
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