第3話:勇者召喚 3
「な、なんだ! このギフトは!」
だが、一番の問題になっているのは能力値の低さではなくギフトの方だった。
「陛下! この者は直ちに追放するべきです!」
「【悪】などと文字を含む者は、我らが聖王国キシアンヌには必要ございません!」
「今すぐに追放を! いや、今すぐに処刑するべきです!」
「しょ、処刑だって!?」
予想外の展開となり、麟児は慌てて声をあげる。
「ちょっと待ってください! いきなり処刑はどうかと思いますよ! それに、俺が不要なら元の世界に戻してくれませんかね!」
「そんなことできるわけがないだろう!」
「勇者召喚に、どれだけの魔力が必要だと思っているんだ!」
「無駄を排除するなら、殺す方が楽なんだ!」
罵声が発せられ、麟児の立場はどんどんと悪いものになっていく。
このままでは埒が明かないと察した麟児は、最後の頼みとして四人の勇者に助けを求めた。
「な、なあ! お前たちからも言ってやってくれよ! 一緒に召喚されたって事は、魔族の討伐も協力するって事だろうしさ!」
ここで諦めれば死が待っている。
麟児の訴えを聞いて口を開いたのは――フレイヤだった。
「ガルガンダ王よ、一つ提案なのだが」
「む? なんだ、言ってみよ」
期待の眼差しをフレイヤに向ける麟児。しかし、発せられた提案は予想外の内容だった。
「私たちは全員が女性だ。ならば、女性だけで魔族を打ち滅ぼすために出向きたいのだが、いいかな?」
「……な、何を言っているんだ? それじゃあ、俺はどうなるんだよ!」
「使えない男など、不要に決まっているだろう」
「確かに、わたくしも同意見ですね」
「にゃはは! 僕はどっちでもいいけど、足手まといはいらないにゃ!」
「……」
「マ、マジかよ、おい」
仲間だと思っていた四人からも見放されて頭を抱えてしまう麟児。
しかし、ここでガルガンダが右手を上げるとその場にいる全員が口を閉じた。
「まあ待て。そ奴の能力値はあまりにも低く、さらに【悪】などと不吉な文字が含まれたギフトを所持している者が勇者になるなどとは到底思えない。なれば、こ奴は何らかの手違いで召喚されたのだろう」
「て、手違い、だと?」
「まあ、こちらの都合で召喚したのだから、処刑では慈悲の心を持つ我が国としても申し訳が立たん。故に、こ奴は国外追放とする」
「……国外追放、だと? ……ははは、何だよ。これまたお決まりのテンプレかよ」
怒りに体が震え、ギロリとガルガンダを睨みつける。
だが、直後に麟児の体は兵士に捕まえられて床に押し付けられる。
「がはっ!」
「殺すなよ。レベル1のザコだ、ちょっと殴っただけでも死ぬかもしれんからな」
「……て、てめえ――ぐはっ!」
「貴様! 陛下に対して無礼であろう! 不敬罪で処刑でも良いところをわざわざ国外追放にしてくれたのだ、お礼があってもいいくらいだぞ!」
「黙れ! 勝手に召喚しておいて、この扱いは何だ! 能力値が低いだ? ギフトに【悪】があるからなんだ? 何なら、てめえらを悪食スキルで喰らってやろうか!」
「貴様こそ黙らんか! 指の一本くらい、切り落としてもいいんだぞ!」
「くっ! ……ちくしょう、ちくしょうがぁ」
ようやく静かになった麟児をガルガンダが、フレイヤが、レリーが、ジャグナリンダが、フォンが見下ろす。
直後、麟児が押さえつけられている床から真っ白な光が浮かび上がった。
「これは、あの時と同じ光か!」
「世界線を超えるものではない。貴様を魔族が跋扈する魔族領に飛ばしてやろう!」
「止めろ! そんなとこに飛ばされたら、どっちみち死ぬ――」
麟児の言葉が最後まで口にされることはなく、その姿は部屋のどこにも存在しなかった。
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