閑話:三人の勇者たち
フォンとチェルシーが行方をくらましてから五日が経過した。
三人になってからはモンスターとの戦闘もやや苦戦を強いられたものの、人数が少なくなり戦う回数が増えた事でレベルが今まで以上に上がりやすくなっている。
その結果として、三人は今になって余裕すら持てるようになっていた。
「あの二人がいなくとも、私たちなら魔族を追い払うなど造作もなさそうだな」
「当然ですわ。あの方の魔法とも呼べないあれは必要のないものでしたからね」
「にゃははー! 僕はたくさん戦えて嬉だけだにゃー!」
何気ない会話をしている最中も三人は戦闘を繰り広げている最中だったが、相対したモンスターはあっという間に肉塊へと変貌していく。
レベルだけを見ればまだまだ低いと言わざるを得ないが、元のステータスが高いからこそ伸びしろがあると言えるかもしれない。
「……ふぅ。ジャグナリンダ、周囲にモンスターの気配は?」
「ちょっと待つにゃ。……うん、いないのにゃ!」
「これでまたレベルが上がってくれると楽なんですけれどねぇ」
「ならば、確認といくか」
モンスターを仕留めた三人はステータスと唱えてレベルの確認を行う。
■名前:フレイヤ・バーグナー ■年齢:23歳 ■性別:女性
■世界線:イグリード ■種族:人族
■ギフト1:魔法剣【剣に属性魔力を纏わせる事ができる】
■ギフト2:雷鳴剣【雷を放ち、周囲に雷鳴で攻撃する】
■レベル13 ■HP2600/2600 ■MP1300/1300
■攻撃:1300 ■防御:1040 ■体力:1040
■速さ:910 ■賢さ:260 ■幸運:30
■スキル:上級剣術、下級雷魔法、身体能力強化弱
■名前:レリー・レレリーナ ■年齢:450歳 ■性別:女性
■世界線:ウルスラ ■種族:エルフ族
■ギフト1:魔力消費半減【使用魔力が半分になる】
■ギフト2:魔法効果倍増【魔法効果が倍になる】
■レベル11 ■HP1650/1650 ■MP2200/2200
■攻撃:110 ■防御:110 ■体力:220
■速さ:220 ■賢さ:2750 ■幸運:30
■スキル:上級火魔法、上級水魔法、上級風魔法、上級土魔法、上級木魔法、魔法障壁弱
■名前:ジャグナリンダ ■年齢:85歳 ■性別:女性
■世界線:エンドル ■種族:猫獣人族
■ギフト1:夜目【暗闇でも日中と同じ視野を確保できる】
■ギフト2:絶対領域【5メートル以内の相手に瞬間攻撃を放つ】
■レベル12 ■HP2040/2040 ■MP1200/1200
■攻撃:960 ■防御:600 ■体力:840
■速さ:1200 ■賢さ:120 ■幸運:30
■スキル:気配察知、危機察知、気配遮断
確認したステータスを見て、三人ともに笑みを浮かべる。
「一つ上がったようだな」
「わたくしもですわ」
「にゃはは! 僕もだにゃ!」
レベルは低くとも、すでに別れた時のチェルシーよりも高い能力値もある。
それでもチェルシーをやや超えているだけであり圧倒しているわけではない。
普通であればレベル上げに注力するべきなのだが、三人はそうならなかった。
「この森を抜ければ港町だったな?」
「……」
「おい! 聞いているのか!」
「は、はい! すみません! そうです、港町です!」
フレイヤが声を掛けたのは、チェルシーの後に雇った荷物持ちの少女である。
途中の街で雇ったために王宮が用意したチェルシー程の容量を持っていなかったが、必要な荷物を持たせるには問題ない容量の空間収納を持っていた。
だから雇ったのだが、こいつがチェルシー以上に使えなかった。
「さっさと案内しなさい。でなければ、置いていきますよ?」
「で、ですが、私はもう、足が動かな――ぐはっ!」
「にゃははー! てめえは口答えとかできないのにゃ。分かっているのかにゃ?」
少女は腹部にジャグナリンダの蹴りを受けて、地面に転がり身悶えてしまう。
そこへレリーが頬を踏みつけて見下ろしてきた。
「早く、案内をしなさい? いいかしら?」
「……わ……わがり、まじた」
「分かればいいんだ。先に行け、いいな?」
「……はい」
よろよろと立ち上がった少女は、できる限り早い足取りで進んでいく。三人と距離ができると、前を剥きながら涙を流していた。
「……港町まで行ったら……終わりだもの。もうすぐ、終わりだから」
生き残るために、少女は何とか足を前に進めて行く。
少女の目には、勇者だと口にする三人が悪魔に見えていた。
そして、港町に到着すると少女は冒険者ギルドに駆け込んだ。
少女は荷物持ちを専門とする冒険者だった。
少女の後にゆっくりと、そして堂々とした足取りで三人が続く。
「依頼を終えました! 勇者様三名の荷物持ちです!」
「お、お疲れ様でした。ですが……その傷はどうしたのですか?」
「そ、それは――」
少女が質問に答えようとしたところ、肩をガシッと掴まれてしまう。
「ねえ、受付の方。こいつ、全く使えなかったんですけれど?」
「……え?」
肩を掴んだのはレリーだった。
そして、ある事ない事を受付嬢に捲し立て、結果として少女が受け取るはずだった報酬は減額させられてしまう。
レリーは満足そうに二人と一緒に冒険者ギルドを後にした。
だが、受付嬢はそうすべきだと思い減額をあっさりと受け入れていた。
「回復魔法が使える方! ギルドが負担します、この方の手当てを!」
「任せろ! 負担も何も、無償でやってやるよ! その分をこの子の報酬に回してくれ!」
「何なんだよ、あいつらは!」
少女を助けるため、受付嬢はあえて報酬の減額を受け入れた。
さらに、周囲の冒険者たちも少女を助けるために無償で力を貸してくれ、さらにフレイヤたちに嫌悪感を抱いていた。
「……あの方たちは……ガルガンダ王が召喚した……勇者様、です」
「はあっ!? あ、あんなのが勇者だって?」
「あり得ないですね。陛下は冒険者ギルドを敵に回すおつもりなのでしょうか?」
「知らねえが、俺たちは絶対にあいつらに手を貸すつもりはないぜ?」
「それに、ガルガンダ王ってのは魔族を敵に回すつもりなんだろう? 魔族にも良い奴はいるってのにねぇ」
港町だからこそ離島だったジパングとの交流が盛んであり、ジパングと魔族が交流している事も理解している。
それ故に、魔族だからと排除しようとしているガルガンダの方針に反対意見を持っている者が多くいた。
そして、冒険者ギルドにいた多くの者が気づいていしまった。
三人の勇者が何故ここにやって来たのかを。そして、それを成させてもいいのかと考えてしまう。
「……私から、ギルマスに進言したいと思います!」
そう口にした受付嬢は少女の治療を冒険者たちに任せて、二階へと駆け出していく。
「……そういえば、二日前にも別の街からこっちに流れてきた奴がいたっけ?」
「あぁ。青髪と茶髪の女の子だろ? あの子たちは良い子だったのに、あいつらときたら」
「まあ、別の世界線から来た奴らと私たちを比べてもダメって事じゃないかしら?」
「そういうことかねぇ」
冒険者たちの他愛のない会話をぼんやりとした意識の中で聞いていた少女だったが、助かったと安堵したからかその意識はゆっくりと眠りについていくのだった。
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