閑話:荒れる勇者たち一行
ジパングへの道のりは順調だった。
遭遇するモンスターを斬り捨て、薙ぎ払い、殴り飛ばし、吹き飛ばす。
四人がそれぞれの戦い方でモンスターを仕留める事でレベルも上がり、苦戦することだって一度もなかった。
そんな中で、一人だけ置いていかれる事が多くなった者もいる。それは――
「チェルシー! 遅いぞ!」
「……す、すみま、せん」
「謝る元気があるなら、もっと早く歩いてくれませんか?」
「そうだにゃー。遅すぎるにゃー」
「……」
勇者パーティに荷物持ちとして参加しているチェルシーである。
加入当初はレベルも高く、フレイヤたちのレベル上げの手伝いなどもしていた。
だが、自分たちよりも強いチェルシーに対して嫌悪感を抱く者もおり、なるべく目立たないようにと行動をして来たのだが、実力が逆転すると明らかな態度で罵倒し始めたのだ。
「お前がいなければ荷物が無いのと同義なのだから、さっさと歩け!」
「わたくしの衣服も入っているのですよ?」
「僕の食糧もだにゃー」
「……は、はい……分かって、います」
「ならばさっさと歩け!」
「は、はい!」
怒声が進んでいる山の中に響き渡り、チェルシーは泣いてしまいそうな気持を押さえつけながら足を進めて行く。
それでもフレイヤ、レリー、ジャグナリンダには追いつけず徐々に距離が離れてしまう。
何度も逃げ出したいと思っていたチェルシーではあったが、それでも残っているのには訳があった。
「……あ、あれ? 少し、楽になった?」
重かった足取りが軽くなり、呼吸も先ほどと比べて楽になった。
すぐに視線を前に向けると、一人だけチェルシーへ振り返っている人物と目が合った。
「……行きましょう」
「……ありがとうございます、フォンさん」
四人の中で唯一チェルシーに優しくしているのがフォンだった。
二人の様子には他の三人も気づいているが、チェルシーがついて来られるのであれば問題はないと黙認している。
だが、心の中では面白いとは思っていなかった。
――だからかもしれない。次の休憩地点に辿り着いた時、フレイヤがチェルシーにこんなことを口にしたのは。
「……え? あの、それは、本気なのですか?」
「私に口答えをするつもりか?」
「いえ! そんな事は……ありません」
「ならば行ってこい。ここまで時間が掛かったのも、お前が遅いからだ。ならば、そのせいで戦う事になってしまったモンスターを排除するのも、お前の役目になるだろう?」
休憩地点から進んだ先にあるモンスターの気配。それをチェルシー一人で排除しろとフレイヤは言ってきたのだ。
ここまででチェルシーのレベルは30まで上がっている。これは王都の新人騎士に匹敵する実力を誇っている。
それでも相手の正体が分かっていない以上、一人で相手をするのは危険でしかなかった。
「……分かり、ました」
だが、チェルシーは断る事ができなかった。そうすると、何をされるか分からないから。
「……フレイヤ、それはやり過ぎ」
ここで口を挟んできたのはフォンだった。
「ならば、フォンも一緒に行って来たらいいさ」
「それもそうですね。チェルシーが遅れた時、サポートしていたようですし」
「本当はチェルシーがサポートしないといけないんだけどにゃー」
「そ、それは……」
チェルシーの役割は勇者たちのサポートである。
だが、現状はチェルシーがフォンにサポートされてようやくついていける状態だった。
これ以上迷惑を掛ける事はできない。しかし、このまま一人で行けば死ぬ可能性もある。
「そうそう、荷物は全て置いていけよ?」
「え?」
「死なれては荷物がもったいないからな」
死という可能性に気づいていたフレイヤからそう告げられ、自分が必要ない人間なのだとチェルシーは理解してしまう。
「それで、フォン。お前はどうするんだ?」
「……いいわ。一緒に行く」
「ダメです、フォン様」
「いいえ、チェルシー。あなたが死んだら、荷物を持つのが面倒だもの」
そのように口にしているが、フォンの本音は違うだろう。
それを知っているからこそフレイヤは止める事をせずに二人でモンスター討伐に向かわせた。
そして――モンスターが討伐されたのと同時に、二人は勇者パーティから姿を消した。
「邪魔者は必要ないわ」
「その通りですね」
「しばらくは気楽な三人旅だにゃー」
自分たちは強い。そう思っているからこそ、三人は姿を消した二人の事を気にする事なくジパングに向けて足を進めていく。
これらのやり取りは、彼女たちが召喚されてから十日が経過した時の事である。
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