第17話:魔族の村・バールバーン 5
「……もしかして、マグノリアさんの数字が、普通なんですか?」
「そうですね。魔族領の王都に行けばもっと強い者は多いですが、概ねマグノリアは平均に近い実力を持っています」
「だからこそ、あの洞窟の攻略を進めていたのだ」
「洞窟の攻略、ですか?」
「いや、話が逸れたな。気にしないでくれ」
気になる言葉を発したマグノリアに視線を向けたのだが、はぐらかされてしまう。
だが、ベラギントスはこれ幸いといった感じでこんな提案を口にしてきた。
「……リンジさんの実力を買ってお願いがございます。マグノリアと一緒に、転移させられたという洞窟の攻略に手を貸していただけませんか?」
「村長!」
突如として声を張り上げたマグノリアだったが、ベラギントスは真顔で制してくる。
「落ち着きなさい、マグノリア。あなたも洞窟の攻略を進めてみて、一人ではどうしようもないと思っていたのではないですか?」
「それは……」
「あの洞窟のモンスターって、そんなに強かったんですか?」
レベル上げをしてから脱出を試みていた麟児としては、苦戦した記憶がなかったこともあり首を傾げてしまう。
「リンジさん程の実力があれば問題ないかもしれませんが、マグノリアには厳しいのです」
「……確かに、私ではリンジ殿と顔を合わせた階層よりも先は、厳しかったかもしれません。ですが、リンジ殿を巻き込むのはお門違いでしょう!」
「えっと、あの洞窟には何かあるんですか?」
二人だけで言い合いをしている状況に置いていかれている麟児は質問を口にする。
「……ジパングが元々は人族領だった事は先ほど伝えていますが、そのせいもあってここには多くの転移魔法陣が設置されているのです」
「転移魔法陣って、俺が飛ばされたあれの事か?」
「はい。マグノリアにはジパングの探索と、転移魔法陣の破壊をお願いしていたのです」
「だから洞窟の攻略を……って、どうして転移魔法陣があるって分かったんですか?」
転移させられた麟児ですら転移魔法陣の痕跡すら見つけられなかったのだが、それを一から探すとなれば相当な労力が必要になるのではと考えた。
「私には特別なモンスターがいるのです」
「モンスター? ……あ、ギフトの使役」
マグノリアのギフトの中にあった使役を思い出した麟児が呟くと、マグノリアは頷いた。
「魔力感知に特別優れたモンスターを使役しています。カンクン」
使役しているモンスターの名前を口にすると、どこからともなく現れた一つ目の小さなモンスターがマグノリアの肩の上に現れた。
「この、小さくて黒い一つ目のモンスターが、カンクンですか?」
「はい。モンスター名はマジックアイと言います。マジックアイは魔力を可視化する事ができるので、転移魔法陣特有の魔力を追ってもらいました」
「そして、あの洞窟に辿り着いたと」
「はい。ですが、モンスターが下層に行くにつれて強くなり、私だけでは難しいと思っていたところなのです」
「ギュギュー」
カンクンはマグノリアの周りを飛びながら鳴いて見せた。
「モンスターの使役は一匹だけですか?」
「魔力があれば数に限りはありません。……リンジ殿は、強いモンスターを使役してはと考えましたか?」
「そうですね。一匹でも強いモンスターがいれば、だいぶ戦闘も楽になるかなって」
事実、洞窟に現れたモンスターはどれも強い個体だった。
レベルも高く、一匹でも使役できれば麟児がいなくても攻略は可能かもしれない。
だが、それは不可能なのだとマグノリアは口にした。
「私のレベルでは洞窟にいるモンスターを使役する事はできないのです」
「何か条件でも?」
「細かなものもいれれば結構ありますが、大前提として使用者のレベルが相手のレベルを超えている必要があります」
「なるほど。なら、洞窟の下層のモンスターは厳しそうですね。……レベル100越えもいましたし」
「そんな下層から生き残って地上に戻ってきたリンジ殿は、それだけお強いという事です」
全く自覚していなかった分、自分が強いと言われるとこそばゆいものを感じてしまう。
「……それで、リンジさん。協力していただけないでしょうか?」
話が逸れてしまったが、ベラギントスは当初の申し出を忘れていなかった。
「レベルの高いモンスターがいる洞窟の最下層。そこにどうやって転移魔法陣を設置したのかは分かりませんが、放置していてそこから攻め込まれては目も当てられません。私には、転移魔法陣を破壊する義務があるのです。バールバーンで暮らす魔族を守るために」
その言葉には強い意志が込められていると麟児は思った。
そして、強い意志に協力する事ができるならばと口を開いた。
「分かりました。俺も協力します」
「おぉっ! ありがとう、リンジさん!」
「だが、本当にいいのですか? せっかく地上に戻ってきたのに、また逆戻りですが?」
「道は覚えましたし、今回はマグノリアさんもいますからね。それに、マグノリアさんが無理をして死んだりしたら、俺の方こそ後悔しますから」
「……恩に着る」
マグノリアはお礼を口にしながら頭を下げた。
「それで、洞窟の攻略はいつになるんですか?」
「今日はもう遅い。リンジ殿が良ければ、明日にでもどうだろうか?」
「でしたら、今日は私の屋敷に泊まってください。まあ、あまり良い食事が出せるとは言えませんが」
「食事なら、さっき伝えた大量のモンスターの肉があります。皆さんでどうですか?」
元々はマグノリアに分けると言っていたのだが、泊まる場所まで提供してもらえるのであれば全てを消費しても構わない。
「うーん、本当によろしいのですか?」
「どうぞ。明日も洞窟に行く事を考えれば、不良在庫になりかねませんし」
経験値にもなり、悪食があればいくらでも食べられるのだが、少しでもバールバーンの人たちの助けになればと考えたのだ。
悪食については二人にも説明済みである。経験値になる事も知っているが、ここは麟児の気持ちを素直に受けることにした。
「洞窟では、私がリンジ殿の助けになれるよう力を尽くしましょう」
「今日は皆がお腹いっぱいに食べられます。本当に、ありがとうございます」
「その分、美味しい料理をお願いします。……マグノリアさんに引かれてしまいましたから」
「リ、リンジ殿! それはその……すみませんでした!」
モンスターの肉を生で食べる行為自体がおかしいのだからマグノリアが謝る事はないのだが、引いてしまったのも事実なのですぐに謝罪を口にした。
「ん? 何かあったのですか?」
「な、なんでもありません、村長! 早速食事の準備をしましょう! リンジ殿、モンスターの肉をお願いいたします!」
事情を知らないベラギントスが問い掛けたが、慌てた様子でマグノリアが肉の準備を急かせてきた。
その様子に麟児は笑いながら移動し、外でモンスターの肉を無限収納から取り出すと、村のみんなが大いに喜んだ。
この光景を見られただけでも麟児としては嬉しく、アルターに来てこれだけの人に感謝される事もあるんだなとホッとしていた。
(これからどうなるかは分からないが、とりあえず明日は洞窟の攻略に尽力するかな)
まるで大宴会のように盛り上がった夕飯は、とても楽しいものになったのだった。
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