喰らい強くなる者 ~悪食スキルで世界最強~

渡琉兎

第1話:勇者召喚 1

「――あー、腹が減ったな」


 そんな呟きを漏らしたのは、ぼさぼさの寝癖を付けた一人の大学生――食野しょくの麟児りんじ

 大きな欠伸をしながらベッドから体を起こすと、腹を掻きながら食べ物のストックを漁るため台所へ向かう。


「……何もねぇな。コンビニにでも行くか」


 寝起きのままではさすがに恥ずかしいと寝癖を直し、身支度を整えて玄関を出る。

 何を食べようかと考えながら足を踏み出した――しかし。


「な、なんだあっ!?」


 突然、足元から真っ白な光が円状に浮かび上がり麟児を飲み込んでしまう。

 一人暮らし用のアパートにそのような訳のわからない照明があるはずもなく、麟児はあまりの眩しさに瞼を閉じるだけではなく腕で目を覆ってしまった。

 瞼を閉じていても眩しさを感じてしまい、瞼を開くのを戸惑ってしまう。

 だが、眩しさが徐々に失われていく感覚と同時に周りが騒々しくなったことに疑問を覚えた。

 恐怖と不安もあったが、それ以上に興味が湧いてしまった麟児はゆっくりと瞼を開いた。


「……ここ、どこだ?」


 そこは玄関を出たアパートの廊下ではなく、見慣れた街並みでもない。というか、日本ですらなかった。

 西洋の、それこそ映画などでしか見たことのない城の一室といった感じの豪華絢爛な場所に立っていたのだ。


「よくぞ参った! 勇者たちよ!」


 何が起きたのか理解できないまま放たれた声に体をビクッと震わせながら顔を向ける。

 そこには見た目に王様だと分かる格好の、豪奢な衣装を身に纏った老人が三段ほど高い場所から両手を広げて立っていた。


「……勇者、だと?」

「……ここはどこかしら?」

「……何事だにゃ?」

「……はぁ」


 立ち尽くしていた麟児だが、隣から似たような感想が聞こえてきた事で顔をそちらに向ける。

 そこには女性が四人、麟児と似たような表情を浮かべて立っていた。


「おぉっ! 驚かせてしまったな。儂はガルガンダ・キシアンヌ。世界線フィールドアルターで人族を束ねている、聖王国キシアンヌの王だ!」

「……世界線、だって?」


 いったい何を言っているのか、説明されても理解できずにいる麟児。


「ふむ、という事はこれが勇者召喚、という事か」

「別の世界線がどのような場所なのか、気になりますね」

「にゃはは! 強い奴がいる世界線なら嬉しいにゃ!」

「……簡単な方がいいわね」


 しかし、理解できていないのは麟児だけで、残る四人は現状を理解している様子だった。


「ふむ。その様子だと、お主は理解できていないようじゃな」

「……すみませんね」

「貴様! 陛下に対して不敬な態度を!」

「うえぇっ!? も、申し訳ございません!」


 麟児たちの左右に控えていた兵士が槍の穂先を向けてきたので、慌てて言い直す。

 それを他の四人は面倒そうに見ており、どうして自分だけが理解できていないのか麟児は不思議でならなかった。


「よいよい、勝手に呼び出したのは儂らじゃからな。どれ、説明をしてやろう」


 その瞬間、ガルガンダの表情は傲慢なものとなり、顎で隣に立つ宰相に指示を出した。


「皆様は、聖王国キシアンヌを救っていただくために我々が呼び出した勇者様でございます。現在、人族は魔族と争いを繰り広げており――」


 宰相の説明を要約すると、人族と魔族の争いがここ数百年続いており、魔族を打ち滅ぼすために呼び出された。現在は人族が劣勢であり、つい最近になって小さな島が連なる領土を奪われたと伝えられた。


「まずは奪われてしまった領土、ジパングを奪い返したいと考えております」

「ジパングだって?」


 まるで日本の呼び方だと感じて思わず声を漏らしてしまったが、麟児の呟きなど誰も気にすることなく話は進められる。


「違う世界線から召喚された勇者様は、我らアルター人と比べて能力も高いと伝わっております。もしよろしければ、皆様のステータスを見せていただいてもよろしいですか? ステータス、と口にしていただければ確認することができます」


 宰相の説明に合わせて、麟児を含めた五人がステータスと口にする。

 すると、目の前にウインドウが浮かび上がり自分のステータスを見ることができた。


「ステータスを本人にしか見る事ができませんが、任意で開示する相手を指定していただければ他者にも見せることができます。よろしければ、そちらの方からお願いできますか?」


 宰相は麟児とは逆側に立っている女性に声を掛けた。


「……仕方がないか」


 そう口にした女性がステータスを開示した。

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