第49話 深淵の青雷 第8支部2

授業の合間を縫って一人でハンター協会へ出かけた。お願いしていたパーティー募集の進捗を聞くためだ。


このぐらいの用件ならヨアニスは必要ない。だいたい、『第8支部』は私のチームだもの。あいつの意見なんか聞きたくないし、今は顔も見たくない。


協会の建物に入ってまっすぐ受付カウンターに向かう。

1日で一番暇な昼過ぎの時間帯だけあって、年配の職員はちょっと眠そうにあさっての方向を向いてぼんやりしていた。カウンターの格子の向こうへ声をかけると、やる気のなさそうな顔をあげ、しかしすぐににっこり笑った。

「おお、『深淵の青雷』のユリさま、お待ちしておりました」


約束した覚えもないのになんだろうと首を傾げると、机の下からリストを取り出したその職員は、「だいぶ集まってますよー。ざっと30人はいますかねぇ。よろしければ早めに第一次面接を行なっていただきたいのですが」と言った。

「ええ……そんなに?『鍵師』ってあんまりいないって聞いてたけど」

「いやぁ、さすがは『深淵の青雷』ですな。こちらでも相応しくないと思われる希望者には遠慮いただいたんですがねぇ、それでもかなりの反響がありまして、今も続々と集まっているところですよ。なにしろ今回のような機会はそうはありませんからね」


ううん、なるほど。学院のハンター集団『青雷』は、恐れられてもいるけど人気もすごい。

設立したばかりの支部だし、完全歩合制だから定期的な給料が出るわけじゃないし、『あくまで実験的な意味合いでの外部募集』(いつ解散になるかわかないぞ)という応募要項にしてもらったんだけど、それでも多くのハンターに魅力を感じてもらえたなら私としても嬉しい。


何度も面接しに来ないといけなくなったのはちょっとだけ面倒だけど、これなら優秀な人材を見つけられそう。

さっそく応募者には次の週末に集まってもらうよう段取りをつけてもらった。急な日取りだし、今回こられない応募者には第二次面接にきてもらえばいい。


その3日後、用意してもらった2階の会議室で面接を開始した。

相手は所詮ハンターだしあんまり期待しすぎるのも良くないと、軽く履歴を教えてもらって受け答えを試すだけの面接にしたのだけど、なんというか、程度が低いと言いますか、おとなしく座ってもいられないような、見るからにダメな無頼漢ばっかりだった。

これで協会側でも絞った結果だと言うから驚きだ。教育って大事。


そんな連中と同じ部屋で話すのはかなり不快で、忍耐力のいる仕事だった。

気を利かせた職員が「事務員を一人つけましょう」と言ってくれたのだけど、面談ぐらい一人でできると思って断ってしまったのだ。


職員の男性は心配そうにドアを大きく開けて出て行ったけれど、結局廊下に立ってサポートしてくれるらしい。

おそらくは防犯という意味以外にも、変な噂が立たないようにと考えての配慮なんだろう。

女性が表立って活躍する機会が少ないこの世界。性別だけで弱者になってしまうのだからまったくやりにくい。

学院が特別なだけで、現代はまだまだ女性蔑視の強い野蛮な男社会なのだった。


それでも中には優秀そうな『鍵師』もちらほらいた。ちゃんと話も通じるし、経歴も立派だし、一見して問題はなさそうなんだけど、それでも話しているうちにどこか違和感を感じるようになるのだった。男たちの当然のように女を見下す態度にはイラっとくる。


結局その日は全員不合格にした。

男性であるヨアニスの意見はまた違っただろうとは思うけど、この第8支部の代表は私だもの。メンバーは私が決める。


しかし時間をおいて集まってもらった2回目の面接も似たようなものだった。

わざと下手に出て反応をみた私が悪いんだろうか。でも最も重要なのは実績よりも、年若く見える私とヨアニスとの相性だもの。

遺跡は無法地帯。ダンジョンに潜るパーティーの中に変なのがいたら命に関わる。ここは厳しく篩にかけるべきだと思う。ヨアニスが信用できない以上、懸念事項をこれ以上増やしたくない。


3回目はもっと酷かった。さらに質が落ちた上に、『鍵師』の技能さえ持っていない者まで来るのだからたまらない。

どうやら現在のガーレンには合格ラインを超えるフリーの『鍵師』は存在していないみたい。


今回協力してくれた職員によると、『鍵師』の特殊な技能はそのまま犯罪にも使えてしまうため、闇社会に片足を突っ込んでいる者も少なくないんだとか。

休憩時間にお茶を運んできてくれた時に雑談したら現状を教えてくれた。


「ダンジョンには一攫千金のロマンがありますが、命懸けの割に普段の稼ぎは多くないんです。特に『鍵師』の死亡率は高い。犯罪者でいる方が安定した生活ができますから、どうしてもね」

「でもここみたいな街はダンジョンでもってるんでしょう?なら街でハンターをサポートするべきだと思うんだけど」

「いやぁ、それはどうでしょう。そもそもの話、ハンターになるような連中に金を出したところで犯罪率は変わりませんよ。多少懐が暖かくなったぐらいで改心するとは思えませんからね」


なるほど。ガーレンには裕福な人が多いし、識字率は他の街と比べてかなり高い方だけど、それでも人口の大半は低所得者で占められている。

文明が発達していない上に、城壁の外では魔物がうろついていて流通もままならないこの現状では、貧乏人をハンターにしてなるべく有効に消費する方がずっと現実的なんだわ。恐ろしい話だけど。


『鍵師』が貴重だというのはこういう意味だったのか、と諦めかけた頃のことだった。

廊下で待機してもらっている職員に次の5人を呼んでもらうと、その中に見覚えのある顔がいた。


190センチ近くあるんじゃないかという身長、ビシッとアイロンの効いた上等なシャツの上からもわかる盛り上がった筋肉。この人、絶対『鍵師』じゃない。

真面目くさった表情のせいでわかりにくいけど、おそらく30代か、もしかしたら40代かもしれない。


どこかで会ったことがある気がするんだけど。相手も私の顔を見て納得するように頷いたところを見ると、やっぱり面識があるようだった。


一緒に並んでいるごろつきども(明らかに育ちが良さそうなこの男性の隣にいると特にそう見える)が居心地悪そうにもぞもぞしてる。なにしろものすごく厳格そうな顔つきだし、『正しい』姿勢を保ったまま彫像のように動かないんだもの。何かしたらすぐに叱ってきそうな雰囲気があるのだ。絶対只者じゃない。


名前を聞いても思い出せず、もっとよく話を聞いてみたら、なんと正教会の聖騎士だという。

それで思い出した。湖の町で私たちを逃がしてくれたあの人だ。あの時は似たような体格の男たちばかりいたから目立たなかったけど、今はものすっごく目立ってる。


驚いたし、なんで『鍵師』の募集に聖騎士が来るんだと思ったけれど、考えようによっては掘り出し物かもしれない。


他の結果は散々で、本当に碌な奴がいなかった。どうせ今後もそうだろう。ならば犯罪抑止力として価値のある聖騎士を雇ってしまうのも手だ。

何よりヨアニス対策にはこれ以上ない逸材。聖騎士は魔族にとっては天敵だもの。心強いわ。

逃がさないようにこの場で即決することにした。


「採用します。今日の面接が終わるまで残っていてもらえる?あと半刻もかからないはずだから」

面接会場での即決採用にも関わらず、ジェンツに驚く様子はなかった。スッと立ち上がり、「では一階の待合コーナーで待っていよう。神の導きに感謝を」と堂々とした足取りで出ていく。


なんだか狐につままれたよう。私は目を瞬かせた。


残りのハンターたちの面接は型通りに手早く終わらせて30分後に下へ降りていくと、ジェンツは面接時と同じように畏まった姿勢でスツールに腰掛けていた。


規模にもよるけれど、ハンター協会にはハンターたちが自由に待ち合わせ等に使えるようテーブルと椅子が用意されたコーナーがある。

あんまりうるさくしなければ飲食もOKなので、大抵はうだつの上がらないハンターたちの憩いの場になっているのだけど、今日だけは彼らもおとなしい。ジェンツを遠巻きにしてどことなく怯えた表情でチラチラみていた。

いつも注目の的になってしまう私が現れてもニヤつくこともなく、むしろいっそう青い顔で俯くのだった。


それだけ聖騎士が恐れられているということだろう。特にやましい覚えのある半分ごろつきみたいな連中にとっては避けたい相手のようだ。

よしよし。効果は抜群だわ。


「ジェンツさん。お久しぶりです」

彼は席に近づいた私に、注意していなければわからないぐらい微かに微笑んで挨拶を返した。

「お久しぶりです、ユリ。魔術師として立派に成長されたようだ。実に喜ばしい」

「ジェンツさんのおかげね。あの時は助けてくれてありがとう。チームにはヨアニスもいるわ」

「そうでしょうね。ヴァンパイアがあなたから離れるとは思えない」

私は唖然と彼を見つめた。遠慮のない物言いに面食らってしまう。そうだった。こういう人だったんだわ。

「それじゃええと、場所を移しましょうか。なんだか注目されてるみたいだから」


とりあえず二人でハンター協会を出て、立ち止まった。

どこに行こう。無理に慣れない酒場に行くのもなんだし、かといってガタイの良いジェンツを連れて貴婦人の集う上品な喫茶店に行くのも変だし。この世界の人たちはこんな時どうしてるんだろう?

少しの間考えて、結局『第8支部』の拠点にすると勝手に決めたヨアニスのアパートに行くことにした。


歩きながらハンターパーティーの募集に応募してきた彼の事情を聞くことにする。


ジェンツさんはつい最近ガーレンに赴任したものの、辞表を提出したらしい。

魔術師が支配するガーレンは信者にとって居心地の良い場所ではないし、左遷されたようなものだと思う。きっと色々あったんだわ。この性格だもの。


神妙な顔をした私に、彼は「いえ、破門されたという訳ではなく、今でも正教会の司祭ではあるのです。所属している聖騎士団を退団し、ハンターに転職することにしたのですよ」

「理由を聞いても?」

「神の導きによるものです」

「えっと、つまり?」

彼は観念したようにほんの少し表情を崩した。「私の不甲斐なさが原因なのだが、上司とうまくいかなくてね。悩んでいたところに、天啓が降りたのだ」私を見下ろし、じっと目を見て言う。「ここにきて理由がわかった。あなたの助けになることが私の使命なのだろう」

「……え」


突然の重い発言に戸惑う。

『使命』ですって?何言ってんの、この人。ヨアニスとは違う方向でやばい奴かも。


「よろしいか。お気づきでないようだが、『神人』としてヘンレンス大司教の元に現れたあなたには、神が授けた特別の使命があるはずなのだ。それが何かは今後一緒に考えていくとして、さしあたってはハンターとして技量を積むべきだろう」

「……はぁ」

「安心なさい。ミドラ神は常に我々を見守っておられる。今は正しい道が見えずとも迷っているわけでない。ただ目の前の光を信じ歩んでいけば、おのずと道は開かれる」

「…………」


一方的な会話を終わらせて満足げなジェンツの顔を見上げていると、首が疲れてきた。

身長差がヨアニス以上にあるし分厚いから、こうして隣に並んで歩いているだけでも圧迫感を覚える。しかも『神』だの『使命』だの早くも鬱陶しい。説教くさい口調も気になる。


とはいえ闇の魔物にはめっぽう強い光の大神ミドラの聖騎士。強いだけでなく、『司祭』以上の聖職者は神の力によって『癒し』を与えることができるらしく、力の強い司祭がいる教会には(金持ちの)患者がつめかけるという。


重量級の戦士でありながらサポートも完璧。勝手に採用しちゃったけど、これだけの逸材そうはいない。多少のあれこれは目をつぶろう。ヨアニスだって文句は言わないはず。


が、アパートの彼の部屋に入った途端、仏頂面のヨアニスに睨みつけられた。


私は彼の怒りに気付かないふりをしてわざと明るい口調で言った。

「あら、いてくれてよかったわ。覚えてる?ジェンツさん。ハンター協会でかけてもらったメンバー募集に応募してくれたの。採用したから、仲良くね」

ヨアニスは低い声で唸るように言った。「……俺の意見も聞かずに?」

「必要ないでしょ」

「そうかよ。ふんっ、好きにしろ」

完全にむくれてしまったらしいヨアニスは私とジェンツを残して居間から出ていってしまった。

まぁここの椅子は二つしかないし、ちょうど良かったとも言える。


「座ってちょうだい。もう少し詳しく話を聞きたいわ。聖騎士団を辞めた理由は、なんだっけ?人付き合いがうまくいかなかったんだっけ?」

ジェンツはヨアニスが去って行った方向をじっと見ながら眉の間の溝を深くしていたけど、促されるままに椅子を引いてしっかり背筋を伸ばして座った。

「……それもあるが、実は話しておかなければならないことがある。私は幼い頃からミドラ教会の聖騎士専門学校の学舎で育った。そのまま修行の成果が認められ、神の剣を授かり使命を全うせんと日々……」

「ああえっと、何が問題なの?」

「私は闇の神の加護を授かっている」

「うん?」


苦虫を噛み潰したような顔で重々しく話すジェンツ。彼の様子からしてあんまり良くない内容のようだけど、どうもピンと来なかった。


「神は神でしょ。いけないの?加護って多いほど喜ばれるって聞いたけど」

「もちろんだ。それはそうなのだが、私は光の大神ミドラの聖騎士。団の中には闇の誘惑に屈したのではないかと考える者もいる」

「あー、なるほど」


数ある神々の中でも特にミドラ神は光の陣営の長だから、神話の時代に起こったという光と闇の大戦のこともあり、ミドラ神に仕える者の中には闇関係に対して過剰に反応をする者も多いという。

かつてヨアニスが湖の街で聖騎士たちから散々嫌がらせをされたように、きっとジェンツも陰湿ないじめを受けていたんだろう。


闇の『祝福』は突然現れたという。

元々は大陸中央にある聖教国の聖騎士団に所属していた(すごいエリート!)そうだけど、ある日なぜか、闇の主神セハラーの祝福がついている事が発覚した。


本来は光の神も闇の神も、原初の神を父にもつ兄弟神。

通常は余程悪名高い神でなければ祝福は喜ばれるはず。しかも光と闇の主神の加護を同時に持つなんてすごいこと、なんだけど、光の神ミドラを主神とする正教会はひどく排他的な性格を持っている。

血筋の中に魔族がいたのか、仕事柄敵対することが多い闇の神の信徒に呪いでもかけられたのか、理由は定かではないけれど、とにかく彼はエリート人生から転がり落ちた。


そんな元エリートが辺境のソベツの町にいたのも左遷の一環だったのかもしれない。

出世を諦めたジェンツは、言われるままこの街にやってきたものの、結局ガーレンの司教とも反りが合わず、悩みに悩んで一度正教会とは距離を置いて今後の人生を考え直したくなった。


しかし戦闘以外になんの特技もない彼は、とりあえず誰でもなれるハンターになって生活していくことにしたのだけど、遺跡の探索も森でのハントも経験がなく(聖騎士団による魔物討伐はただ獲物を破壊すればそれでよかった)、それなら熟練のハンターに教えを乞えればと窓口で相談していたらしい。


「ユリ殿との再開は神のご意志。私の使命だ。宿舎に戻って事情を話せば装備を持ち出せるだろう」

「それってあの白いピカピカしたやつ?」

「うむ」


素人知識だけど、聖騎士の武器や重厚な全身鎧は神の祝福がかかった特別製で、たぶん市販されてない。正教会が面子と大金をかけてつくった超豪華装備なんだから、派手な見た目以上に性能も凄いんじゃないだろうか。借りられるならそれに越したことはない。


けど、そんなよくわからない理由でお高い備品を渡してもらえるものかしら。


私の疑いの視線を受けたジェンツはこともなく言った。

「こればかりは疑いようもないことだ。内心はどうでも、大事な使命を邪魔する者などいるはずもない」

「……なんで?」

「まず、君にはミドラ神の加護がある。神人であり、尊きお方の娘であり、神の導きによって魔術師となった……」

「ストップ!神云々は関係ないわ。私は自分の意思で魔術師になったの。大体ミドラ神は魔術師嫌いなんでしょ」

「それは違う。魔術師を牽制しているのはあくまで正教会だ。ミドラ神は君の行動を認めている」

「だからなんでわかるのよ」

「日々精進を重ね磨き上げた心でミドラ神のお言葉に耳を傾けていれば自ずとわかることだ」

「……あのねぇ」

「事実だ。司祭として認められた者は皆神と繋がっている。常に身近におられるのを感じるのだ」

「もう。わかったわよ。深くは追及しない。で、あなた司祭なのよね?」

「聖騎士となるにはまず司祭として認められねばならん」

「じゃ、神聖魔法を使えるってことよね」

「当然だとも。他人に与える祝福は苦手だが、その代わり己を強化する技には自信がある」

「もうちょっと詳しく」

「君が求めているのは回復魔法だろう。悪いが、不得手だ」

「……そうなの!?」


がっくりした。神の力が魔術でなく『神聖魔法』と呼ばれるのは、その特異性からで、魔術師が長年かけて手に入れる技が子供の遊びに思えるほど強力な力なのだ。

『神聖魔法』とは奇跡の力。次元が違う。


私も詳しいわけじゃないけど、修行を経て司祭になると神から『奇跡』を行使する権利を与えられるらしい。その上には司教や大司教や枢機卿がいて、位階が上がるごとに大魔法が使えるようになるそうな。


とにかく、学院の先生が嫌そうに授業で語ったところによると、聖職者は魔術的な勉強は一切していないにも関わらず、突如として魔術を軽く凌駕する力を使えるようになるという。

魔術師系ヒーラーの使う魔術は所詮人の技にすぎないけれど、神聖魔法は神の奇跡。

特にミドラの聖職者は魔術師とは段違いの癒しの力を誇る。さらに厄介なはずのアンデットだって瞬殺だ。


なのに、ジェンツさん、使えないんだ。


「そんな目で見ないでくれ。自身を癒す回復魔法と身体強化術ならば得意だぞ」

「魔除けの結界術は?」

「……不得意だ。そちらは魔術師の君の方が余程優っているだろう」

「まぁ、そうね。そっちは任せて」

「私は聖騎士団でも盾役に徹していた。その方面ならば役に立てるはずだ」


私はニュース番組で見た警視庁の機動隊が盾を持って進んでいく光景を思い出した。そういえばヨアニスも『鍵師』を守る戦士がいるって言ってたよね。

「いいわ。こっちも好都合よ。怪我の治療なら、一応私も『青雷』だし、学院に頼めばいくつかいいポーションをもらえるかもしれないわ」

「それはよかった。して、『一応』とは?」


結構耳ざといな。まぁ説明しなきゃいけないことなんだけど。

私は『第8支部』という特殊な支部の説明と共に、実はまだ学生だと告白した。


「授業があるから原則週末だけするつもりだったけど、ジェンツさんたちは本職のハンターだものね。生活がかかってるだろうし、私抜きで活動していいわ」

「なるほど。それで受付の説明がやけに曖昧だったのだな。気にはなっていたのだ」

「悪いけど、いつまで続けられるかわからない不安定な支部なのよ。一応私の卒業までの2年間は続くはずなんだけど」

「なに。2年?」

「だめ?『青雷』のメンバーがいなければ存続はできないわ。代わりに誰か入ってくれればいいけど、どうかな。もちろん『青雷』の看板を外してパーティーを続けるってことならそれもありだけどね」

「ふむ」

「それと、給与形態も他のハンターと同じように『山分け方式』だから。申請すればちょっとは出るかもしれないけど、『青雷』自体金欠みたいなの。彼らの支援はあんまり期待できそうにないわ」

「構わない。よろしく頼む」

「いいの?私は助かるけど……こちらこそよろしくお願いします」


何日か考えてからでもいいのに、やけに即断即決のジェンツにやや押されながら彼のメンバー加入が決まった。


「でもまだ遺跡には入れないのよね」

「ああ、話は聞いている。あれは『鍵師』の募集だったのだろう」

「それがまだ決まってないの。どうもこれといった人がいなくて。どうするか次の週末に考えましょう。私、そろそろ戻らないと。門限があるのよ」

「了解した。では、私も知り合いに相談してみよう」

「ええ、お願い」


耳をそばだてて聞いてるはずのヨアニスに向かって「次は来週だから!」と叫ぶと、廊下に続くドアの向こうからくぐもった唸り声が聞こえた。

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